待ち呆け 引かれた袖に 皮の蜜柑
月影星之介


<解説文>
 僕は幼き頃から柳田先生言うところの「神隠しに遭いやすき気質」の子どもで、

幼稚園の頃などは、よく二泊三日の日程で神隠しに遭っていたものです。(日程

ってなんだよ?)この句はちょうど僕が小学生にあがったばかりの、雨がしとしと降

る帰り道での体験をもとにしています。その日は朝から雲があつくたれ込め、ハハ

にも出がけに「星之介、傘を持っておいでナサイよ」と声をかけられたのですが。

(なんで「ナサイ」だけカタカナ表示なんだよ?おまえのハハはナニジンだ?)放

課後神社で行われるメンコ大会のことで頭がいっぱいだった僕は、そのまま下駄

を引っかけて表へ飛び出したのでした。(っていうか、何歳なんだおまえはッ!)

結局雨でメンコ大会はなくない、僕はとぼとぼと雨の中を歩き出したのです。雨の

寒さで指の先がひんやりと冷え、怒られてもよいからハハに電話をして運転手に

迎えにきてもらおうか、そんなふうに考えていた時分でした。(さては金持ちかお

まえン家は!?)「ぼっちゃん、雨宿りなさいよ」、そんな風に呼び止められた気

がしました。ふと顔をあげると、呉服屋の看板娘であるハナコ姉さんが優しげな丸

い瞳で僕を見つめていました。なるほど、彼女が居る庇の下には渇いた土が覗い

ています。「電話を貸していただいていいですか?」。衣服についた小さな雨粒

を払って、僕は言いました。ハナコ姉さんは優しく微笑んで、くいっと首を傾けまし

た。僕はなんだかドキドキしてしまい、ハナコ姉さんから目をそらすと、店の前に

置かれた公衆電話に十円玉を滑り込ませました。(っていうか、呉服屋の前に公

衆電話あるか?)ハハは案の定厳しい声をあげましたが、運転手をよこすとおっし

ゃってくださいました。車を待つ間、ぼんやりと雨粒を見つめていた僕の袖が、く

いっと引かれました。「は、ハナコ姉さん・・・?」。ドキマギする僕の手を取り、ハ

ナコ姉さんはそっと蜜柑の皮を握らせました。きっと昼の食事だったのでしょう。僕

は手の中でぐんにゃりと汁を滲ませるソレを見て、小さく笑いました。ハナコ姉さん

は「ウキ」と言いました。僕らは、それからしばらく、優しい蜜柑の香りに包まれ、

そぼ振る雨を見つめていました・・・。(猿か!?ハナコ姉さんは猿なんだな!?

っていうか、神隠しはどうしたよ!?)

 懐かしいなあ、ハナコ姉さん、元気かなあ。(元気かなあ、はイイから、いい加

減川柳作れよ!)わかったよ、煩いなあ。


  上田くん よくみりゃ悪霊 憑いていた


コレでいいんだろ?(よくねえよ!!!)さあて、伊藤潤二でも読むかあ。


語り・月影星之介  カッコ内ツッコミ・上田柾流