| 其之壱百『百話目の怪談』の巻 |
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ついに百話目である。 これが百物語ならば、僕がコイツを語り終えた瞬間何かが起きるハズなのだが、『趣味の小部屋』の場合、せいぜい東京都在住の小学生ハンベドクオ君(8才)が宇宙人に連れ去られて脳味噌になんだかようわからん金属片を埋められるくらいだろう。 東京都在住ハンベドクオ君(8才)は謎の飛行物体に気をつけるように。 ちゅうわけで百話目である。 百という字はなんだか不気味で大変良い。 九や四なんかよりもずっと不吉さを醸し出しているような気がする。 百物語という言葉も出たことであるし、今回は、夏にピッタリの怖〜ハァい噺でも語ろうかと思う。 あれは、まだ僕が小さかった頃だ。 蝉がおんおんと鳴き騒ぐ、暑い夏のことだったと思う。 夏休みを利用し、僕は田舎にある爺さん婆さんの家に遊びに行っていた。 その当時、田舎の家と云ったら本当に古くて大きくて、廊下を歩けばギシギシ云い、便所に入ればボットンで、便器を跨いだ真ん中にはポッカリ大きな闇の入り口が口を開けている。 爺ちゃん婆ちゃんは優しくて大好きだったが、陰気さの拭えないこの家は、どうも好きになれなかった。 お盆ということもあり、僕ら家族はお寺に墓参りに出かけた。 線香とお花を抱え、寺の敷地のほぼ真ん中にある墓へと向かう。 僕はお墓に水をかけるのが大好きで、小さいながらも桶と柄杓を手にして、必死に先行く両親の背中を追いかけた。 その時である。 目の端にふいと白いものが映った。 桶の中の水がたぷんと音を立てる。 僕は立ち止まった。 白いものが見えた辺りを見回して見るが、ただお供えの白菊が風に揺れているだけだ。 (なんだ、見間違えたんだ) 僕はまた桶を手に、早足で歩き始めた。 何故だろう。 学校でみんなが話していた噂が、ふいに頭に浮かぶ。 「墓場で転ぶと、夜中、お墓に引きずりこまれちゃうんだよ」 「墓場でボタン落とすと、夜中、お墓に引きずり込まれちゃんだよ」 念には念を入れ、今日はボタンの付いた服は着ていない。 しかし転ばぬようにくれぐれも注意せねばならぬ。 「わっ!!」 ドタン!と音がして、僕の目の前で小学生くらいの坊主がすっ転んだ。 オイオイ・・・、大丈夫かよ、兄ィちゃん。 今夜、寝しなに気をつけな・・・。 例え坊主が今夜引きずり込まれようが、僕がご一緒してやる義理はない。僕は慎重に足を進めた。 ふ。 と、また白い影が目の端を掠めた。 また白菊か、さもなくば布かなんかだろうと、僕は気にも止めずに歩を進めた。 ふ・・・・ふ。 ふ・・・・・・。 まただ。 何度も何度も白いものが目に映る。 みっしり立った墓石の間を掠めるように、白いものは移動している。 何度も目にしているうちに、僕にはそれがだんだん白い着物を着た白髪のお婆さんであるように感じられてきた。 ハッキリと目にしたわけではない。 ただ、なんとなくそう思ったのだ。 ・・・・?何か、抱えてる・・・・? 「明美、こっちだよ」 ハッと目を上げると、母親が墓の前に立ってオイデオイデと手を揺らしている。 慌てて周りを見回していたが、白いものの姿はもうどこにもなくなっていた。 その晩のことである。 夜あてがわれた部屋で眠っていた僕は、廊下がギシギシ鳴る音で目を醒ました。 ギシ・・・・ギシ・・・ギシ・・・・ギシ・・・・。 古い家である。 きっと誰かが便所にでも行くのだろうと思った。 しかしそれはおかしいのだ。 僕の寝ている部屋は居間のすぐ隣。 爺さんと婆さんの寝ている部屋は奥座敷で、便所へ行く時に僕の部屋の前を通るわけはない。首を巡らせてみれば、父親も母親もすうすうと寝息をたてている。 それなのに、足音は居間のほうから聞こえる。 そしてゆっくりと僕の寝ている部屋へと近づいてくるのだ。 ギシ。 ギシ。 ギシ。 ギシ。 ギシ。 ギシ。 ギシ。 ギシ。 足音はどんどん近づいてくる。 僕は思わず布団をぎゅうっと握りしめた。 どうか、どうか、この部屋を通り過ぎてくれますように・・・! ギシ。 ギシ。 ギシ。 ギシ。 ギシ。 ギシ。 ギシ。 ギシ。 足音は僕の部屋の前を抜け、奥へ向かって消えていった。 (よかった・・・。きっと誰かが居間に用事があったんだな・・・) その時。 ガタンン!!!! もの凄い音が部屋の前からして、思わず僕はガバッと起きあがった。 すると。 目の前に真っ白な着物を着た老婆がいた。 「ヒッ!!」 僕はそう小さく息を漏らして、それっきり動けなくなってしまった。 その場から逃げ出すことも、助けを呼ぶことも出来ず、ニカニカと嗤う老婆から目を離すことも出来ずに、ただただ鼻先にいる老婆の前に座っていることしか出来なくなってしまったのだ。 結わえもせずにバサバサと広がっている白髪が、すうぃと僕の頬に触れた。 老婆は何故かニカニカと嗤っており、何本か抜けた歯が見え隠れしている。 その時初めて、自分の勘が正しかったことを僕は知った。 老婆は、何かを持っていた。 幼い頃の僕にはそれがなんなのか、その状態で判断することは難しかったが、それは今思うに骨壺だった。 老婆は骨壺をグイッと差し出した。 そして嗄れた声でこう云ったのだ。 「お〜ま〜え〜もいつか〜・・・・この中に入るんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!」 そして僕は気を失った。 とある夏の日の、出来事である。 でも婆さんよ、テメエんとこの骨壺には入らネエぜ・・・!! (このお噺は、フィクションです) |