其の拾弐『お肉のお祭り』の巻



 お肉はいい。大変いい。
 「最後の晩餐に何が食べたいか」と問われたら、間違いなく「お肉」と答えるであろう。
 「肉」ではいけない。それはお肉さまに失礼である。ちゃんと「お肉」とお呼びするように。ジュウジュウと鉄板の上で鳴るヒレステーキ、ヒラヒラと美しく舞うしゃぶしゃぶ用の肩ロース、タレと絡めてジンワリ美味しいカルビ、表面を軽く焼いたやわらかいロース・・・。お肉はいい。
 豚肉、鶏肉、桜肉、ぼたん肉、様々あれど、やはり一番は牛肉である。お肉の王様だ。定冠詞を付けて「THE★ONIKU」と呼んでもいい。(あくまでもONIKUであり、meatではないところが味噌なのだ。)今回はそんなお肉の話をしよう。
 しかし憎むべくは「いわゆる狂牛病」だ。コイツのおかげで七海家(実家)では未だに『お肉禁止令』が発動中である。そりゃあハハはいいだろう。ハハはお肉が嫌いだ。生まれてこのかたお肉を口に入れることを拒み続けている究極の食わず嫌い人だ。お肉が食えないことなど屁とも思わない、「いわゆる狂牛病」の影響から最も遠いところにいる人だ。「いわゆる狂牛病」の話題が全盛の頃、可愛い(ハズの)娘が「肉が食えなくて辛くてしょうがないよ。」と涙ながらに語っているにも関わらず、「お母さんはお肉食べなくても生きていけるから全然平気だも〜ん。」と明るく言い放った人だ。「だも〜ん」だぜ。嗚呼、もう何も言い返せない。
 父はお肉を食べられる人だが、どうやらソレは別に進んで食っているワケではなく、あくまで「肉が食いたい」と言い張る娘に付き合っている程度だったことが最近判明した。そ、そうだったのか・・・!オヤジ殿はジュウジュウと肉汁滴るお肉より、ピンク色の刺身のほうがイイというのか!?我が家で唯一お肉同盟(「今夜お肉食べた〜い」と言った時に、同意してくれる味方のこと。)が結べる相手だと思っていたのに・・・オイラがピエロだっただけなのか・・・。これはなかなかショッキングな出来事であった。
 そんなワケで「狂牛病なんて気にしないわッ!どうしてもお肉が食べたいのよッ!」という固い意志を持つ人間がいない為に七海家(実家)の『お肉禁止令』は未だその効力を発揮しているのだ。
 実家の『お肉禁止令』で何が痛いかと言えば、ズバリ高価なお肉が食べられないことである。高価なお肉・・・七海用語でそれは『いいお肉』と呼ばれている、100グラム1000円以上するお肉様たち。若者の薄給では手を出そうと思っても、「いや、1000円あれば他に何が出来る?文庫本が2冊買えるじゃないか!CDシングルが1枚買える!ケンタッキーなら何ピースだ!?」と思わず躊躇してしまう価格だ。なんせいいお肉様100グラムといったらしゃぶしゃぶ用の薄いお肉で3枚ほどの枚数である。ステーキなどの塊肉になると、一枚軽く2500円などのビックリ価格になってしまう。こりゃあ、腹を減らした金のない若者としては、ケンタッキーでたらふく鳥を食ったほうが得だと思ってしまうだろう!だからいいお肉は「おかあさんに買って貰うお肉」なのだ。なんせ父は勤続ウン十年、当然だがオイラよりも高給取りである。こりゃあたからねば!(オイオイ。)
 しかし「いわゆる狂牛病」のせいで、我が実家からの供給がストップしたとあっては致し方あるまい。オイラは意を決してお札を握りしめ、自らいいお肉を入手すべく精肉売場に向かったのであった。果たしてお肉達はヒンヤリ冷えたショーケースの中に居た。平静を装いつつ、地元東北の名肉・米沢牛のカルビ肉を購入。わき目もふらずに家に帰り、さっそく四角いフライパンを火にかけた。フライパンが温まってきたらお肉屋さんでもらった脂身を落として、箸で動かしながら全体に油を行き渡らせる。シュウシュウと白い煙があがった。油を敷き終えたら脂身を取り出し、いよいよお肉様を投入する。一枚、また一枚と鉄板にお肉を落とす度に、ジュワッジュワッと好い音がする。沸々と肉汁が染みだし、ピンク色だったお肉の表面が茶色く変わってゆく。見とれていてはいけない。火を通しすぎないように絶えずヒックリ返さなければ。うりゃ!うりゃ!
 さあ、いよいよいい塩梅に火の通った肉を皿に移し替える時がやってきた。ここでしくじって床に落としたりしたもんなら、泣くに泣けない変に悲しい気持ちになったまま台所で12分放心する羽目に陥るので気を抜いてはいけない。慎重に、皿にのせていく。よし、成功だ。小皿には叙々苑のタレ(市販されている。少々お高いが味はさすがに抜群。コイツがあれば、安いお肉でもそれなりに美味しく食べられる。)をたっぷりとそそぐ。焼きたてジュワジュワのお肉を、タレに浸して口に運ぶ。ムグムグ。うう、うまいッ!にゃんてうまいんだ〜!これぞ私が欲していた真のお肉様の味。幸せの味。最後の晩餐の味。
 お肉はいい。大変いい。
 なんかわからんが幸せな気持ちになる。
 そうだね、もしも「人類最後の一日」が突然やってきたら、これでもかってえいいお肉を食べよう。きっとお肉屋さんも売ってるどころじゃないから、ショーケースぶっ壊して持って帰るぜ。お代なんて誰も気にしやしないだろうから。


(オイラの愛用している本屋さんでは『龍騎』の雑誌とかビジュアルブックって、『趣味』の場所にあるのですよ。ガンとかフィギュアとかオモチャとか鉄道とかそういう場所に一緒に置いてある。だからオイラ、いっつも男の人たちに混じって「カァ〜」って頬を赤らめながら『龍騎』の本を漁ってます。頼むからもっと女性向けの場所にも置いてくんないかなあ〜。)

A Theatrical Campany yakoudou