其の参拾『嗚呼、屍累々・・・。僕の体験した阿鼻叫喚の世界』の巻 |
|
「センセイ!無理です!僕たちには無理です!」 もし、あなたが小学校の先生で、あなたの可愛い生徒たちが泣きながら職員室に飛び込んできたらどうするだろうか? まるで「山でウサギ狩りをしていて道に迷い、たまたま目にした料理店に入ったところ、危うく自分たちが食べられそうになった」かのようなクシャクシャの泣き顔。上ばきも履かず、手には何故か竹ボウキとチリトリを手に、職員室に飛び込んできた生徒たち。 何を隠そうそのうちの一人が、この僕だ。 金八先生ならここで一発、「はいはいどうしたぁ〜。落ち着きなさい明美ぃ」と言ってくれるところだが、その場にいた先生たちはどうにも困ったような顔をして我々を見つめているばかりだった。 頬赤きか弱い小学生たちに一体何が起こったのか!? そう、それは給食もたらふく食べ終えた後の掃除の時間の出来事であった・・・。 僕たちの通っている小学校の裏には山があった。その名も『すこやかの丘』。夏になればベロベロとヘビが降りてくるような場所が「すこやか」かどうかは置いておいて、ウチのハハは今でもこの山を『すこやか農家』と呼んでいる。その理由を知りたい方は、口の中でモグモグと『すこやかの丘』を繰り返していただきたい。そのうち、あなたの口の中で『すこやかの丘』がほのぼの『すこやか農家』にすり替わって行くハズだ。 その山と校舎の間には駐車場があり、我々の班はその場所の掃除当番だった。 あれは夏も終わりのムシ暑い日・・・。 思い出すのもおぞましいあの出来事が、我々に降りかかったのである。 いつもどおり落ち葉でいっぱいの駐車場をキレイにすべく、竹ボウキとチリトリを持ってやってきた我々。案の定、駐車場は枯れ草色の落ち葉でいっぱいだった。特にヒドイ場所から片づけようと思った幼き日の七海は、落ち葉で埋め尽くされていた街灯の下へ向かった。足を進める度に、足下でカシャカシャと枯れ葉が音をたてる。 「さて」 竹ボウキを動かし、チリトリに枯れ葉を詰め込む。 しかし・・・。 何かおかしいな、と思った。枯れ葉がピタリとアスファルトにくっついて思うようにチリトリに入っていかないのだ。不思議に思った七海は、枯れ葉を指で摘み持ち上げた。 そこで七海は、世にも怖ろしいものを目撃したのだ。 それは、ただの枯れ葉ではなかった。というか、枯れ葉ですらなかった。何か、モゴモゴしたものが中央にくっついている。 ・・・・蛾だ。 「ウヒヒイイイイイイイイイイイイ!!」 七海はそれを放り投げた。そして改めてじっくり自分の周りを見回す。 蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。蛾。・・・・一面の、蛾!モスラ!モスラァァァァ・・・・・。モスラァアアアアアア・・・・・。(思わずエコー) 僕は今、蛾の死骸のまっただ中に立っているのだ!! 僕の踏んできたものも、僕が今踏ん張っている足の下も、すべて、夜の間に街灯の元に集まってきた蛾たちの死骸だったのである!!ああ・・・屍累々・・・・。 七海は気を失いそうになった。なったが、グッと堪えた。ここで倒れたら僕はフワフワの蛾のベッドに身を沈めることになる!それだけは・・・それだけは避けなければ!! 七海は飛んだ。『カリオストロの城』におけるルパンくらい飛んだ!つま先で着地して、なるたけ蛾を踏まないようにする。駐車場のアチコチに散っていた班のメンバーも、あちこちで顔色を変えながら後ずさっている。 「蛾・・・蛾が・・・」 「うん。蛾だ。蛾・・・」 「あ。あわわわ・・・・・」 目を見交わす。 その時、我々ははじめて一つの班として意見を同じくした。 (逃げるか・・・!) (オウ、逃げようぜ。この世の果てまでも、な。) (だって蛾だもんなァ) (ハハハハ〜) (フフフフ〜) 我々は走った。地の果てまでは無理だったので、とりあえず職員室に駆け込んだ。駐車場と校舎をつなぐ裏口の前には、六人分の外グツが投げ出された。かくして、文頭に記したような顛末となったのである。 蛾の死骸の真ん中に立ち、あまつさえ蛾の死骸を摘んでしまった僕の心の傷は計り知れない。相手が蛾じゃなければ、慰謝料を払ってもらいたいくらいだ。今でも蛾を見ると、背中からウゾゾゾゾゾ〜という悪寒が駆け登ってくる。もともと蝶や蛾の類は苦手なのである。小さい頃読んだ怖い話で、蝶をムシャムシャ食う子どもの話を読んだからである。ニタリと笑った子どもの口からリンプンがこぼれている様は、それはもう絶叫モノの怖ろしさであった。(同じく『セミを食う少年』という話を読んでからは、セミが嫌いになった。やはりニタリと笑う少年の口からはセミの羽と足が見え隠れしていた・・・。) 先生は言った。 「じゃあ、蛾はいいから葉っぱだけ片づけなさい。」 殴ってやろうと思った。中指の出っ張ったトコで、しこたま。 蛾と葉っぱがまみれていて、葉っぱなんかより蛾の数のほうがどう考えても多いあの場所に、戻れと彼はそう言うのだ。そして掃除を続けろと、そう言うのだ。自分は職員室でぬくぬくしやがって。あの時の僕の気持ちは、まさにあの青島刑事の有名な台詞「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!!」というアレだった・・・。 我々は泣きべそをかきながら渋々駐車場に戻ったが、もう掃除はしなかった。竹ボウキとチリトリを片づけ、げっそりとした顔で教室に戻った我々を、他のクラスメイトたちはどうしたのかと尋ねたが、結局誰も口を割ろうとしなかった。 そう、今日は金曜日。 来週になれば、次の班の奴らがあの場所を掃除することになるのだ・・・。 「ケケケケケ・・・」 月曜日。 影で笑う我々の元にあの悲鳴が聞こえてくる。 「センセイ!無理です!僕たちには無理です!」 歴史は繰り返す・・・。 (『セミを食う少年』という話は、いじめっ子たちに無理矢理セミを食べさせられた少年が、自殺し、さらにセミの化け物となっていじめっ子たちを地中に引きずり込むという諸キングな内容でした。怖い話なんかは喜んで聞くほうだけど、この「無理矢理ムシを食わされる」というシチュエーションだけはどうも駄目で、ガタガタと震えた覚えがあります。その少年がセミを食わされてからちょっとオカシクなってしまうシーンがあるんだけど、弁当にね、セミを持ってきてムシャムシャ食うワケですよ。バリボリ!とかいう文字が生々しくてね・・・。アレは別の意味で怖かった。TRPGのほうは現在愉快な仲間たちと準備中、しばらくお待ちあれ!) |