其の参拾弐『ある朝目を覚ますと・・・』の巻



 古尾谷雅人さんが亡くなった。どうやら自殺らしい。なんて勿体ないんだろう。もっともっと見たかったのに。もっともっと楽しませてもらいたかったのに。朴訥な役柄の時に見せる誠実さも、悪役の時に見せる鋭い目も、偉い役柄の時に見せる重厚さも、とても好きな役者さんだっただけに、残念でならない。
 これまで生きてきた中で、印象に残っている訃報というのがある。我が愛する『ルパン三世』の声でもお馴染みの山田康雄さん。「さよならさよならさよなら」の台詞で有名な淀川さん。僕の大好きな声優さん塩沢兼人さん。突然の病で亡くなった極真空手家アンディ・フグ。やはり突然の病で亡くなられた名役者伊藤俊人さん。それに、多くの人々に影響を与えたhideの死も忘れられない訃報のひとつだ。
 ブラウン管を通してしか彼らを知らない我々にとって、その訃報はいつも突然だ。ある朝目が覚めて、歯ブラシをくわえながらパチンとテレビを付けたら、『○○さん、突然の死』なんていう見出しが飛び込んでくる。なんだかポカンとしてしまう。歯ブラシを口の左側に突っ込んだまま、ポカンとテレビ画面を見入ってしまう。まるでドッキリカメラに引っかかった一般人のように。
 訃報だけではない。アナウンサーの逸見さんが「私の病名はガンです」と言ったあの時も、やっぱり僕はお箸を口の中に放り込んだまま、ポカンとテレビ画面を見つめていた。テレビの中で見慣れた人が、ドラマでもなんでもなく、素の自分の病名を告知する図というのは、なんだかココロにヒシヒシと滲みて怖かった。芸能人もみな人間だから、生きていれば病気になったりもするだろうし、いつかは死ぬだろう。それはよく解っている。しかし、やはりブラウン管ひとつ隔ててしまうと、そこはもう僕にとって現実ではないのだ。その現実ではないと思っていた世界の中で、病気や死などのリアルな現実を感じさせられることがとても怖かったのである。
 hideが死んだとニュース速報が流れた時には思わず「ウソだぁ」と口が動いていた。アンディは死ぬならK−1のリングの上だと思っていた。伊藤さんにしてもそうだけれど、死ぬ気配を微塵も見せなかった人が突然ポンといなくなってしまうのは、ショックが大きいものだ。hideが亡くなった時に、僕はちょうどコンビニのバイトをやっていて、仕事仲間の女の子と店中のスポーツ紙をカウンターに広げて覗き込み、「信じられん!信じられん!」と繰り返していたのを覚えている。
 人にはそれぞれ、心に残っている芸能人の訃報というものがあると思う。例えば、それは人によって尾崎豊だったり、美空ひばりだったりするのだろう。勝新太郎だったり、沖田浩之だったりするんだろう。そうして、何年か経った時、「そう言えば、あの人のお葬式の時、僕は○○してたんだったよなあ」とか「当時学生だったんだよなあ」なんてのを思い出したりするのだろう。
 そうだ、昭和天皇が亡くなった日、僕は中学一年生で、演劇部に入っていて、休み中の練習があって、「ああ、天皇が亡くなったから練習中止になったりするのかなあ。学校行って誰もいなかったらどうしようかなあ」なんて思いながら、ホテホテと学校への道を歩いていたモノだった。その日の学校の屋上では、半分まで掲げられた日の丸が風にヒラヒラと揺れていたっけ。
 誰かが自殺したというニュースを耳にする度、僕の頭の中には金八先生が現れて「そんなに簡単に死ぬなんて言うなよォ」と涙ぐみながら訴えはじめる。僕の大好きなオーケン(大槻ケンヂ氏)もエッセイに書いている。「もう少し、生きてみればいいのに」と。古尾谷さんももう少し生きてみれば良かったのに。そうしたら、ちょっとだけでも、嬉しいことがあったかも知れないのに。
 もうどうにも自分を消し去りたいような気になったとき、人はもうちょっとだけ生きてみればいいのだと思う。あと二日したら、美味しいカレーに出会えるかもしれない。温泉が気持ちいいかもしれない。面白いドラマがはじまるかもしれない。手触りの良い毛布を手に入れられるかもしれない。誰かが眠る前に温かいミルクを沸かしてくれるかもしれない。人のことが好きになれるかもしれない。自分のことが、今よりも少しだけ好きになれるかもしれない。
 そういえば僕は今から何ヶ月か前に「『仮面ライダー龍騎』が終わるまでは死ねない!」と言っていた。大学の時には「『SMAP×SMAP』で中居を見尽くすまでは死ねない!」と言っていた。今のトコロは、『龍騎』のDVDを全部手に入れるまでは死ねない。あとは我が愛する劇団☆新感線が解散するまでは・・・!『SMASMA』もまだまだ終わる気配もない。
 僕はまだまだ長生きできそうだ。


(最近とても可愛いなあと思っているのは、『天才テレビくんワイド』に出ている熊ちゃんと山ちゃんです。特に熊ちゃんはねえ、目がクルクルしてて可愛いんだ。泣きホクロがあってね。いっそこのまま大きくならないで欲しいッス!そういえば『龍騎』のDVDは番組終了後一年かけてちまちま出るので、全部揃えるには今年の12月までかかります。毎月20日はCD店にダッシュ!)

A Theatrical Campany yakoudou