其の参拾五『僕の宝物』の巻



 トイレでぼうっと考え事をしている間に、トイレットペッパーをもの凄い勢いで手に巻き取っていた。その厚みたるや拭いても拭いても飽き足らぬほどだ。一体僕はそんなに深刻に何を考えていたのだらう。
 時々、自分でふと何をしてたのか解らなくなることがある。先日も気合い張って見に行った新感線の舞台のロビーで、いつの間にかパンフレットとCDとDVDを手にしていた。一緒に見に行ったAお嬢様はニコニコと笑いながら「これから先の御飯代のことも買わなきゃ駄目だよ」とおっしゃってくれたが、その時にはもう僕の手にこれらのアイテムがスッポリと収まっていたのだから、もう先の飯の心配どころの話ではなかったのだ。
 おお、恐るべし舞台鑑賞時のロビー!市販されているものとは違い、「もうココを逃したら手に入れられなくなる!」という切羽詰まった感が人々のココロをヒシヒシと追い詰めていった結果、人々はロビーでお金を散財することになるのだ。それがいい証拠に、夜光堂所属Y田M千子さんは、とある舞台を見に行った際、一枚五百円もする写真をしこたま買い込み、夜光堂員とさかなスタジオの皆さんに「チケット代よりも高い金払ってグッズを買ってくるなんて、バカじゃないのっ!?」とおすぎとピーコ風に囃し立てられていたものだった。ロビーのグッズ売場には魔物が棲んでいる。しかし、人はロビーで散財することで生活が苦しくなっても、大抵はそのグッズを買ったことを後悔しない。むしろ、買わないほうがずっと後悔することになることを僕は知っている。そこで使わなかったお金でどんなに美味しい御飯を食べても、ふと舞台の余韻に触れたいと思った時に手元に何もない虚しさと焦燥感は埋められはしないのである。
 僕の部屋には「わらじ」がぶら下がっている。僕の出身地みちのくのお土産品ではない。大学時代に、我々の所属していた演劇部の多くがハマっていた劇団キャラメルボックスのフリーマーケットに行った部員たちがお土産に買ってきてくれたものである。僕が大好きな役者・西川浩幸さんが時代物の舞台で実際に履いていた「わらじ」だ。滑り止めの為か裏ににかわのようなモノが塗られていて、触るとニチャニチャするが、ココロに残る大変嬉しい土産物と言えよう。ただ、初めて我が家に足を踏み入れた者は、必ず困惑したように天井からぶら下がる「わらじ」を前に立ちつくす。「・・・コレなに?」「わらじだけど」「ああ・・・そう・・・」それっきり、人は「わらじ」に触れようとはしない。「わらじ」はただ静かに、エアコンの風にゆらりと揺られながら、今日もそこにぶら下がっている。
 あの日あの時あの瞬間、バカバカしいと思いつつも確かに手に入れておけば良かったと後悔しているモノもある。僕の場合、愛する『仮面ライダー龍騎』の変身ベルト&デッキ(真司・蓮・北岡)セットである。嗚呼、どうして僕はあの時、ダークバイザー・ダークバイザーツヴァイ(ナイトの武器。ギュインギュイン良い音をたてて鳴る素敵なオモチャだ。)と共にデッキを買い求めなかったんだろうか・・・。今でも思い出すだに後悔する。回転の速いオモチャ業界、テレビシリーズが終わればさっさと次の商品に模様替えされていく。テレビシリーズが一年続いているとのほほんとしていた僕の油断が招いた悲しい結果である。とほほ。誰か、お子さんが『555(と書いてファイズと読む!)』に乗り換えたら僕にベルトとデッキを譲って下さい。(笑)
 とあるCMでは「モノより思い出」と銘打っているが、僕としては「モノと思い出」が深く結びついているほうが数段嬉しい。引越の際に、クローゼットの奥からニョキニョキ現れる思い出がたっぷり詰まったモノたちに翻弄されて、いつまでも荷造りが出来ないタイプの人間である。とある冬の日、実家の廊下(白い息が観測されるほど寒い)でアルバムを発見し、床にぺたりと座り込んでめくり続け、それを発見したハハにしこたま怒られたのも何を隠そうこの僕である。その時、僕は何かを廊下に並んでいる本棚に取りに来ていたのだったが、それがなんだったのかはポカンと忘れてしまった。未来よりも過去のほうが好きだ。クルマが車輪なしでチューブ型の道路を行き交う近未来よりも、チョンマゲの侍たちがカンカン剣を鳴らし合うほうが好きだ。宇宙人の存在よりも、妖怪の存在のほうが気になる。ゴーストバスターズよりも陰陽師のほうに魅力を感じる。お嫁に持っていくのは、キリ箪笥や洗濯機や冷蔵庫だけじゃない。むしろそんなモンより、我が愛する新感線グッズやSMAPコレクションやウンナンセレクションや龍騎アイテムを持っていかねばなるまい。
 どうせだから墓の中まで持っていこう。
 僕の宝物だ。


(久々に見た劇団☆新感線・粟根さんは長かった髪をバッサリ切っていて大変可愛らしく、僕のココロをドキドキさせてました。白衣ならぬ銀衣もピッタリ似合ってたし。舞台を見終わった後「いやあ、可愛いかったなあ、粟根さん」とうわごとのように呟き続けていたら、一緒に観に行ったA嬢に「言うことは他にないのか!他にも役者さん出てたでしょ!」と怒られました。)

A Theatrical Campany yakoudou