其の参拾八『温泉宿の非日常的世界』の巻



 温泉一家七海家は、GWも懲りずに温泉に浸かりに宮城県は遠刈田温泉に出向いたのだった。日常から離れ、モクモクと湯煙が立ち上る温泉街は僕にとって非日常の世界だ。そこで目にした不思議なモノたちを紹介しよう。
 非日常其の@『アロエしお』
 浴室の鏡の前にポンと置かれているタッパーには、そう書かれたシールが貼ってあった。タッパーの上にはプラスチックのスプーン。説明によると、中に入っている薄オレンジ色のドロドロをスプーンですくい、マッサージをしながら肌に擦り付けるものらしい。
 温泉では時折浴室にこういった類のものが置かれている。そしてそれが売店に売っていて、試してみて気に入ったら是非どうぞというワケだ。しかし僕は温泉をこよなく愛する人間だ。お湯があればそれでいい!そんな商魂たくましい誘いに乗ってなるものか!僕はほのかに茶色がかったお湯に身を沈めた。
 しかし。
 気になる。気になるぞアロエしお!君の正体は一体なんなんだ?アロエであり塩なのか。はたまた塩でありアロエなのか。僕はそれを手にとった。ひとまず足に塗りたくる。ジョリ・・・。ジョリジョリ・・・。おお、これこそが塩のマッサージ効果だというのか!粗い粒粒が肌の上を心地よいザラザラ感を残し通り過ぎていく・・・。そして湯で流した後にツルリと肌がツヤを放つ、これこそがアロエ効果!おお、なんて不思議な感触なんだ『アロエしお』!売店で好評発売中!・・・しかし僕はお湯を愛する人間。見逃しておくれ、『アロエしお』。遊びだと思ってくれてもいいんだ。さらば、『アロエしお』!浴場で見つけたら是非お試しあれ!
 非日常其のA『豆乳ソフトクリーム』
 温泉宿の近くにある豆腐屋さんで売っている『豆乳ソフトクリーム』。
 う〜む、これはなかなかどうしてうまいじゃないか。ほんのりとした甘さに、爽やかな口どけ。お豆さんたちがスルスルと体の中に浸透していくのがわかる体に優しい一品だ。温泉でホクホクの体を、すうっと冷やしてくれる温泉街の人気者である。
 非日常其のB『お父さん』
 遠刈田温泉で我々が泊まった宿のお湯は、今あちこちの温泉街で不評の声があがっている循環式ではなく、常に新鮮なお湯が流れている流しっぱ方式だ。源泉も近くにあり、お湯が豊富で、七海家はたいへんこのお湯が気に入っている。
 そこで注目していただきたいのは、七海家父である。
 なんせ温泉に行ったら七海家では彼が主役だ。入る!入る!入る!まさに温泉に入ることを目的に温泉宿に来ている純正統派の客だ。ふと気が付くと部屋にいない。夜もサルことながらキジながら、朝も五時ぐらいから既にお湯の中にいる。今回の記録は一泊で七回だ。七海だけに七回、かどうかは知らないが、夜に四回、朝に三回入っている。(好みじゃないお湯になると、これがめっきり減って一泊で四回ほどになる。)逆に体に悪いんちゃうか、と思うほどお湯に浸かっている。ホックホクの茹で七海はこうして出来上がるのだ。
 非日常其のC『飲み物』
 温泉宿では飲み物や食べ物はたいてい持ち込み禁止なのだが、僕などは下駄をひっかけ近くのコンビニにフラフラと買い物に出かけて、正規の値段で飲み物を買い込んで、何事もなかったかのようにまたフラフラとフロントの前を通り過ぎる。温泉宿の飲み物は高い。僕が今回泊まった宿にはなかったのだが、自販機が置いてある宿なんかでは、ジュース(通常価格120円)が150円で売られていたりする。500ミリペットだと180円。それ以上に部屋にセットされている冷蔵庫の中のモノは割高で、「ぐおふぃっおおうう、も、もう駄目じゃああああ〜!」と干からびる寸前まで手を出すべきものではないと思われる。それなりにお給料を貰っている年輩の人々は、軽〜い気持ちで冷蔵庫の中のモノに手を出そうとするが、賢明なる子どもたち諸君、泣いてでも止めなさい。「あたしが〜あたしが今からコンビニで買ってくるからぁ〜!」と。(我がハハは宿のお茶が気に入らないらしく、自らの愛用しているお茶をアルミホイルにくるんで持参している。)
 非日常其のD『まくら』
 まくらには困ったもんだ。そば殻まくらを愛用しているちょっと渋めの僕には、温泉のヤワヤワまくらは大抵フィットしない。低いし沈むしやわかいし。そこで応急対処法として、座布団を平たいまま一枚下にもぐりこませるのだが、やはり寝にくくて仕方がない。近頃では浴衣の選べる温泉宿なんかが人気のようだが、コレを機に、是非とも「まくらの選べる温泉宿」を作ってはもらえんもんだろうか。
 非日常其のE『おからのロールケーキ』
 女将さんが「私の作ったものなんですよぅ〜」と出してくれたのは、本来のクリーム部分がおからで作られたおからのロールケーキ。ニコニコ顔の彼女を見て、僕はとても言えなかった・・・。
 「わしゃあロールケーキもおからも苦手なんじゃい!喧嘩売っとんのかい、コラァ!そんなにオススメなら・・・オマエが食ったらエエじゃろがい!」
 とは・・・。女将、ゴメン!
 温泉宿は不思議なものに溢れている。訪れる者にとっては非日常の世界だ。
 今まで行った温泉の中でも「お湯のいい宿」「食事のうまい宿」「建物のいい宿」とそれぞれ思い出に残っている宿がある。これからの人生の中で、どれだけそういう温泉に出会えるか・・・七海家はまだまだ挑戦する。
 東北地方限定だけど。


(僕が気に入っているのは、花巻は台温泉にある某お宿。ここは二間になっていて、常に片方に布団がひいてあるのが嬉しかった。宿の雰囲気も独特で、なんか明治時代かなんかにトリップしたかのような雰囲気のある素敵な宿だった。近場で気に入っているのは鳴子温泉のお宿で、ここは内風呂がアルカリ泉、露天が硫黄泉と二種類の泉質が楽しめる。僕が気に入っているのは露天風呂のほうで、冬の寒い日に雪を見ながら入るのが最上の楽しみ。御飯がおいしかったのは奥土湯にある温泉宿で、これはそれぞれに偏った好みを持つ七海家全員に評判が良かったという珍しい宿であった。青森の八甲田山近くにある宿もお湯がとてもいい。しかし逆に最悪な宿もあり、これは某温泉のホテルに泊まった時の話だが、お湯を循環している為に浴室を消毒していて塩素臭かったのだ。これはもう最悪としかいいようがない。確かに当時ある温泉で病気が問題になった時ではあるが、せめて張り紙の一つも出来なかったものなのか。七海家全員で「・・・・我々としたことが、ぬかった・・・!」とヘコんだ思い出がある。)

A Theatrical Campany yakoudou