其の四拾壱『和菓子の恩』の巻



 内山良子は「三度の飯をしょっぱいスナック菓子で補える」と、お菓子を主食にするほどの強者であるが、僕はお菓子に興味はない。なんせお菓子はモリモリ食えない。やっぱり飯のほうに興味がある。ガツガツ食いを主流とする僕に、パリパリは性に合わないのだ。
 そんな僕があえてお菓子を語らせてもらえるとすれば、それはきっと『和菓子』が主役になるだろう。
 七海家は渋い。
 幼い頃から三時のおやつは和菓子とお茶だった。
 牡丹の形をした和菓子、白あんの最中、胡桃入りのゆべし、茶色い皮のお饅頭、栗羊羹、胡桃だんご、ずんだ餅、南部せんべい、アラレ煎餅・・・それらをお気に入りの番茶と共に食する小学生。(緑茶は苦味があるので好きではない。番茶・ほうじ茶がベスト。)
 それが日常。
 ハハの気まぐれにより時折現れる薄桃色の削りチョコがふんだんにかけられたケーキと紅茶の組み合わせは、当時の僕をもの凄く不安な気持ちに陥れた。「ねえ、お母さん、今日なんか凄く良いことか悪いことがあったの・・・?」
 和菓子の中にも好き嫌いがある。こしあん、白あん、うぐいすあん、くるみあん、ずんだあん、みそあん・・・「あん」と名の付くモノは大抵嫌いではないが、ただ一つ、粒あんだけは僕の胃をシクシクさせる。嗚呼、怖ろしいあのザリザリとした口触り!羊羹や最中の大納言はその最たるもので、たとえこの世で食うモノが大納言の羊羹だけになったとしても僕は口にしない自信がある。(ただこの自信は、飽食の時代に生きる僕が発したものであり、実際にそういう状況に陥ったらその自信が持続するか否かは定かではない。よって僕がその状況にハマった時に、一心不乱に大納言の羊羹を丸々口に頬張っていたとしても、君よ、どうか僕を責めないで温かく見守って欲しい・・・。)
 七海家の正月には二種類のあんこ餅が用意される。
 無論、ブツブツ粒あんと、なめらかこしあんである。
 台所のマスターであるハハが粒あん好きなので、手間とは解っていても鍋をふたつ使って作るらしい。
 米ドコロ宮城県に住む我々にとって、餅は正月だけのものではない。和菓子屋にいけば、当然のように餅菓子が年中売っているし、だんご専門の店もデパ地下に組み込まれている。餅をメインとしたお菓子を売っている店では、奥にテーブル席も用意されており、そこでずんだ餅や胡桃餅などを味わうことが出来るのだ。
 僕のお気に入りは小さい頃から慣れ親しんでいるずんだ餅と胡桃餅だが、ずんだ餅においては自分の家庭で作ることが出来る。もちろん作るのは僕ではない。しかし僕はずんだ作りの際、おばあちゃんとハハの二世代に渡りサポートを務めた自称「ずんだ作りの助手・ハイパー」である。
 助手の仕事は重要だ。
 まずハハが茹でた枝豆をプチプチ大きなすり鉢の中に出す。この際大切なのは、美味しそうだからといって、つまみ食いしすぎないことである。十個プチプチする間に、二〜三粒を目安に食するのがベストだと言えよう。
 次にすりバチを両手両足をつかってガッチリ押さえる。ハハがすり棒でゴリゴリ豆をすりつぶす時の衝撃をガッチリ全身で押さえ込むのだ。この「お豆スリスリの儀式」は床にタオルと新聞紙を敷いて行うのが最適である。テーブルの上では、その衝撃を殺すことが出来ない。衝撃に耐えてこそ、うまいずんだが完成するのだ。
 ハハが疲れたらかわってあげることも助手の務めである。棒を手にし、豆に挑む!「ウラウラウラウラウラウラ〜〜〜〜〜〜〜!!」あっと言う間に疲れる。力だけでは豆は潰せない。疲れたら無理をせずにお母さんに代わって貰おう。
 ハハが地道に、そして丹念に潰した豆に砂糖を加える。そこですかさず助手の出番だ。横からずんだを人差し指で掠め取り、味見をする。ああだこうだ言う。作り手だけではなく、助手も味見をすることにより客観的な味付けが出来、より高度なずんだを作ることが出来るというものだ。
 ずんだ作りに僕の存在は欠かせないのである。
 宮城県を訪れることがあったら、是非ともずんだ餅を食していただきたいものだ。
 最近好きな和菓子は、源吉兆庵の「美味旨涼小餅・冷やしあんとろり」(しかしなんちゅう肩書きだ。まるで僕が付けたかのようなワケのわからない雰囲気モノだ。)である。一見水ようかんのような「冷やしあんとろり」だが、そのあんは驚くほど柔らかく、滑らかで舌触りが良い。決して甘すぎず、爽やかで心地の良い冷たいあん。その中にやはりモチモチと口触りの良い白玉が沈んでいる。「冷やしあんとろり」には平べったいヘラがついており、それであんを掬いとってお口に運ぶのだ。このお菓子、たいへんシンプルではあるが、やはりそこそこのお金を消費するため、気に入りとはいえ滅多に食することが出来ない。僕の中のガツガツ食い魂が、「あんこに金を使うくらいなら弁当買ってお腹いっぱいになったほうが幸せやんか〜、なぁ〜七海ちゃ〜ん」と、あたかも口のうまい業界人のごとく僕を誘惑するためでもある。
 お菓子とお肉の共通点は、良いモノは少量で充分満足できる、ということにあると僕は思う。ふと悲しくなったら、良い肉か良いお菓子を買いに行こう。財布は薄くなり、お腹も一杯にはならないが、でもほんの少しだけ・・・。
 幸せになれるハズである。

(○月×日。東北で大きな地震が起きました。後々伝え聞いた話によると、たまたま外にいた僕のハハは即座に庭の中央に逃げたのだそうです。その時親父殿は何をしていたかというと、台所で一人食器棚を押さえていたんだってさ。(笑)ツッコミどころ満載だな、僕の家族!助け合え、七海家!!2時間くらい経ってようやくつながった電話でのハハの第一声は、「うえ〜んうえ〜ん、もう駄目だよぅ〜。怖いよ〜ぅ。(←明らかに作り声)」「アンタ、ソレ、ウソ泣きやないか〜〜〜〜い!!」ああ、今日もひとつ親孝行をした・・・(ボケたハハにちゃんとツッコミを入れた)。ぢっと空を見る。○月△日。「松田ラボ」をホクホクと購入。あと髪切りたい。)

A Theatrical Campany yakoudou