其の四拾五『生米を背負った子どもの試練』の巻 |
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君は生米を背負わされたことがあるか。 僕はある。 あれはまだ僕が年端もゆかず、人生がなんたるかなど考えも及ばなかった幼少時代。 祖父母の家に行った僕は、風呂敷に包まれた生米を背負わされた。 背負わされただけならまだいい。 コロがされた。 コロがされたのだ!! 頭上からは大人たちのホヘホヘとした笑い声。 生米の下敷きになりながら、僕は必死で今の状況を考えた。ひらがなしか思い浮かばんような小さな頭で必死に考えた。 「こ、これは・・・いったいどういうことなんだ!?なぜにわたしはナマゴメをせおわされているのか・・・!イエス・キリストのみたてさつじん・・・!?それともゆうべごはんをのこしたむくいをうけているのか!?なんにしてもかっこわり〜!!」 ジタバタジタバタと藻掻く幼い僕。 くう、僕はこのまま生米に押し潰されて死ぬのか!? しかしそんな僕の頭の中に一筋の光が・・・・。 「立て!!立つんだジョー!!」 た、タンゲ!?タンゲの親父さんなのか!! その瞬間、僕の前髪がミョーンと伸びたような気がした。 そう、俺は矢吹・・・矢吹ジョーだ!! 明日のためにそのイ〜チ!! 幼いが為にやたらとぷにぷにした腕に力を込める。グググ・・・よし、いける!!さあ、次は膝だ。膝を立て、米に圧迫されている上半身を支えるのだ。しかし油断するな。上半身を上げる時にはより多くの注意が必要だ。ただでさえ幼児は頭が重くて重心が悪いのに、その上米まで背負わされているとあっては、これ以上なくフラフラになること間違いなしだ。 「前傾姿勢を保てジョー!!気を抜いたら後ろにひっくり返るぞ!!」 フッ。解ってるぜ、おやっさん。 米に後ろを取られないように、前傾姿勢のまま一気に立ち上がる。 ウオォォォォォォォ・・・・!!! その瞬間。僕を取り巻く数百のお客さんが一気に吠えるのを、確かに聞いた。 立てた!!生米を背負っていても立てたのだ、僕は。今、僕はクララよりも祝福を受ける立場を得ている。ハイジが周りをクルクル回る。 「明美が立った!明美が立った!」 しかしふと我に帰ってみれば、僕を祝福しているのはジイ様、バア様、父にハハといういつもの面々であった。後々聞かされたことによると、この「生米を背負わせて転がし、自分で立たせる」という行為は、子どもの健康を祈って行う行事だったらしいのだ。泣きながらも自分で立てた子どもは、その後健康に育つという。 おお、まさに獅子の崖落とし!(んな大袈裟な・・・) その後、気が抜けてビエビエ泣いた僕を映した写真があるのだが、泣きながらもしっかりカメラ目線をキープしていたところを見ると、米に負けることなく健康に育っていると言えよう。 ひょっとこに抱かれて泣いたこともある。 あれはまだ、僕が「人が生きるとはどういうことなのか?」など思いもよらず、ただただ毎日のおやつを楽しみに生きていた幼少時代。 ハハに抱かれて行った子ども会でのことであった。 何故子ども会にひょっとこを呼ぼうと思ったのかは定かではないが、さして広くもない部屋の真ん中でニヘニヘと笑ったまま体をくねらすひょっとこの姿は、幼い僕にとってはまさに異様な物体だった。 おお、おそるべしひょっとこ! 会の最後に、子どもたちの健康を祈ってと、ひょっとこが一人一人の子どもを抱いて回っていた。 ひょっとこの異様な舞の後で意識が朦朧としていた僕は、他のことなどまるで目に入っておらず、ひょっとこが僕に手をさしのべた時も何が起こっているのか解らなかった。気がつくと、僕はひょっとこの腕の中・・・。 「は!ひょっとこにぃぃぃ〜〜ひよっとこにつれさられるぅぅぅぅ〜〜〜〜!!」 そしてひょっとこ踊りを仕込まれて、あちこちの健康ランドに営業に出されるんだ〜〜〜!!と思ったかどうかはともかくとして、「連れて行かれる」と強く思ったことは今でもよく覚えている。 ハハが何故抱いていた僕を手放したのかもよく解らなかったのだ。僕はこのままひょっとこの子どもになってしまうのか、と、絶望の淵に流されていった僕・・・。 しかしひょっとこは軽く僕を揺すると、そのままハハの腕に僕を帰してくれた。 ああ、僕は「ひょっとこの子ども」として生きていかなくてもいいんだね・・・!学校で「や〜いや〜い、オマエの父ちゃんひょっとこ〜!」などと馬鹿にされずにすむんだね!(どうやらあまりに幼かった為、その人のことを「ひょっとこの面をかぶった人」としてではなく、「ひょっとこの顔をした人」だと認識していたと思われる。)ハハに背中をさすられビエビエ泣きながら、幼心にホッとしたのを覚えている。 しかし、生米にしろひょっとこにしろ、子どもが健康になるには多くの試練が必要だ。 僕も人の親となったら、子どもに生米の入った風呂敷を背負わせてやらねばなるまい。その時には是非とも、唐草模様の風呂敷を用意してやろう。 それこそが、親の愛というものだ。 (そのわりに何故か狐の面は好きで、よくかぶって部屋の隅にひっそりと座っていたものだったなあ。(怖ッ)) |