其の四拾九『恐怖!ロッカー女!・・・もとい、我が愛しの静香様』の巻



 校庭に放置されているロッカーがいきなりブワン!と開いた。
 外側からではない。内側から開いたのである。
 おお!ぽっ、ポルターガイストッ!!こんな昼間からそんな珍現象に巡り会えるなんて、なんてラッキ・・・いや、怖ろしいのだッ!!
 勢いよく開いたロッカーの中から、紺色の衣服に包まれた足がニョキっと出てくる。
 「なっ!!学校霊ロッカー女かっ!!」
 そう。とある曇りの午後、ロッカー女はやってくる。もともとは野球部の先輩を好きになった女子中学生の霊で、先輩のロッカーに恋文を入れようとしたところ、そこにかの先輩が帰ってきてしまい、恥ずかしがり屋の彼女は思わず先輩のロッカーに隠れたのだそうだ。「イヤン。憧れの先輩のロッカーに・・ぐ、グワハハアアアアアア!!!」照れていたのも束の間、彼女はもの凄い悪臭にその形相を変えた。見れば明らかに洗濯していないユニフォームや靴下やタオルなどが足下に渦巻いているではないか!!もう彼女はアチコチから色んなものを噴き出した。耳血とか鼻血とか色々出した。彼女は急いでロッカーの扉に力を込めた・・・が、しかし!ロッカーは開かなかった!!おお、なんということか。先輩はロッカーに鍵をかけ、そのまま出ていってしまったのだ。ゆっくりじんわりと匂いは彼女を浸透していった。そして一夜あけ、ロッカーから救出された彼女は、もうすっかりその運動部臭のトリコとなっていたのだ・・・。おお、怖るべしロッカー女!!それから中学を卒業し、社会人になり、やがて事故でポックリ死んでも、このロッカーの臭いが忘れられず学校のロッカーに住み着いたのだと言う。
 そんなロッカー女が今、ぼ、僕の目の前にぃぃぃぃぃ・・・・!!
 「んなわきゃない」(←タモさん風に読んでくれ!)
 中から出てきたのは、プリッツスカートをビヨーンと足首まで伸ばした不良のオネエちゃんだったのである。
 オネエちゃんは手にしていた煙草を地面に投げ捨てると、踵を潰した上履きでギュギュっと親の仇のように踏みつけた。
 や、ヤベエ。
 僕はなんという場面を目撃してしまったんだ〜〜〜〜!!こりゃインネンをつけてくれと言わんばかりのシチュエーションだぜ!いくら僕が秘技・わんわん子犬拳の達人だからとは言え、不良のオネエちゃんはやっぱし怖い・・・!しかしいきなり口笛を吹きずさみ、「フフンフゥ〜ン。僕はなんにも見ちゃいませんよぅ。ややっ、もうこんな時間か。急がなければ委員会に遅れてしまう!」などの一人芝居をかましつつこの場を離れるのは、あまりにも無理がありすぎる。どうすればいんだ・・・!ど、どうすれば・・・!
 僕が頭をグルグルしているうちにも、オネエちゃんは僕のほうにジワジワと近づいてくる・・・。ああ、お母さん、僕は今日泣きながらお家に帰ることになりそうです。転校手続きヨロシク・・・!
 オネエちゃんの顔がぐうっと近づいてきた。
 や、やられる・・・・!!
 しかしオネエちゃんはニヤリと笑って一言、こう言ったのだ。
 「アンタも吸う?」
 その時の工藤静香のような声を、僕は生涯忘れないだろう。
 「い、いや、僕は・・・」
 しどろもどろになる僕の額をピンと指で弾くと、オネエちゃんは
 「またおいで〜」
 と、まるで場末のキャバレーのママのようなことを言いながら、またしてもロッカーの中にその姿を消したのだった。
 呆然とロッカーを見つめていると、そのわずかな隙間からモクモクと煙草の煙が漏れだしてくる。
 「ネエさん・・・。バレバレでっせ・・・」
 思わず呟く僕。
 僕が行っていた中学はとにかくこんなオネエちゃんやオニイちゃんがたくさん居て、校庭に放置されていたロッカーに潜んでいた。時には二人三人とゾロゾロ出てくるもので、「もしやあのロッカーは秘密のカジノかなんかに通じているのでは・・・!」と純真な僕は思ったものだった。
 残念なことに学校霊ロッカー女は存在しなかった。が、しかし、ロッカーの中に工藤静香(ニセ)は存在していたのだ・・・。
 それから後も工藤静香(ニセ)はコトある事に僕の前に現れ、ちょっとナナメに構えながらニヤリと笑うのだった。校庭のど真ん中に上履きでたむろる工藤静香(ニセ)。そこに通りがかった外ばきの僕。そんなオイシイ僕を静香は見逃さなかった。
 「アンタ〜」
 呼び止められる。
 「なんスか?先輩」
 僕は度重なる遭遇で静香ネエさんの存在に慣れきっていた。おお、怖ろしい!
 「ココはぁ〜学校内だから〜ぁ、上履きだよ〜ぅ」
 「・・・・・・。」
 なるほどね、校庭も校内だから上履きが正解なのかあ・・・・・って、んなわけあるか〜〜〜〜〜い!!!
 とはさすがにノリツッコメなかった・・・!なんせ相手は静香(ニセ)である。本気で言っている可能性は十分にあるのだ!追い詰められた僕が発した一言は・・・、
 「そ、そうなんスか?」
 笑え!笑ってくれ!中学時代の僕にはそれが精一杯だった。ルパンがクラリスに万国旗を出してあげたあの名場面ほどに精一杯だったのだ。
 「次回から気をつけなぁ〜」
 静香(ニセ)はリップを塗った唇をニヤリとゆがませると、僕を逃がしてくれた。さすがは静香(ニセ)・・・懐が深いぜ!!ついでに顔も似てりゃあ最高だったのにな!
 今でもふと屋外に放置されているロッカーを見ると、ついついドキリとしてしまう。
 なかから静香(ニセ)が煙草片手に現れそうな気がして・・・・。
 「アンタ〜ぁ。一本つき合いなァ〜〜。」
 ダッシュで逃げます。

(今まさに東北地方で地震があった模様。(7/26)心配して電話をかけてみれば「まだ起きてんのか!」と親父にお叱りを受ける。うむうむ、七海家は大丈夫のようだ。続いて仙台周辺に散らばっている友達連中に電話をかければ「や〜!っつうかカップラーメンこぼしちまった」だの「積んでいたビデオが崩れて脳天に落ちてきたんだが・・・」だの、「飲み屋から焼き鳥持ったまま全員で飛び出した」だの・・・・。俺の心配を返しやがれ!と言いたい有様だった・・・。)  

A Theatrical Campany yakoudou