其の五拾壱『向いていない〜僕が幼稚園の先生になれなかった理由〜』の巻 |
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こう見えて幼児教育学科の出である。 大学の4年目にはちゃんと教育実習にも行ったものだ。 ちょこちょこと子どもが足のモモにすがりつきながら言う。 「せんせ〜、せんせ〜は男の人なの〜?」 「・・・・・。」 不祥七海、確かに男らしいと評判ではあるが、何故にこんなガキ・・・いやいやお子様に性別を今さら確かめられなければならないのだ・・・!く、屈辱ぅ〜。 震える拳を押さえながらとりあえず話を聞いてみる。 「何故男だと思う?」 子どもは目をクリクリさせてこう言った。 「だってさあ、せんせ〜髪短いんだも〜ん。女の人は髪長いんだよぉ〜。だから男の人でしょ〜ぉ。」 だから僕も言ってやった。 「君な、それはもう今の常識では通用しないんだぞ。髪の長い男の人だっているだろうが。外見で性別を決めつけるというのはそれはもう愚かな行為でな、下手すると男女差別につながることもある。愚かな発言にはくれぐれも気をつけたほうがいいぞ。」 「せんせ〜、『おろか』ってなぁ〜にぃ〜?」 「・・・・(ニヤリ)君を誉めているんだよ。」 僕は保育士には向いていない。 「せんせ〜、絵の具こぼしちゃったよ〜。」 まるで殺人事件でも起こしてきたかのように手のひらを真っ赤に染めて、ひとりの子どもがやってきた。 「あ〜あ〜。しょ〜がネエなあ。とりあえず手洗い場行って手ェ洗ってこい。な?」 「は〜い。」 「途中で他のモンに触るんじゃネエぞ〜!」 「わかった〜。」 さて雑巾で床を拭かねばな、と振り返るとそこにニコニコ笑いを貼り付かせた担任の先生の顔が・・・。 「七海先生?」 「は、はい?」 「『手を洗ってき・な・さ・い』でしょお???」 「・・・・・す、すいません。」 し、しまったぁ!!本職の先生がいる前では極力頬のひきつりそうな美しい日本語を使って話すようにしていたのに!!ついうっかりベランメエ言葉を使ってしまったあっ!!微笑みの中にジンワリとした怒りが伝わってくる。幼稚園の先生が優しいなどというのは幻想だ。本気で怒らせたらこれほど怖い職業の人はいないと僕は思う。 この頃の子どもたちは模倣をする。先生やお母さん、お父さんのちょっとした仕草やクセを真似る天才だ。コージー富田もビックリだ。こんな僕が担任などになった日にゃ、クラス全体がベランメエ幼児軍団になってしまうこと請け合いだ。 「おう、ヤロウども、お外で遊ぶぞコンチクショウ!」 「まかしときな、せんせ〜!!元気に遊ぶぜコノヤロー!!」 ・・・・幼稚園の先生にならなくて本当に良かった。(世間的に) 教育実習中、僕が頭をカチ割ってやろうと思った最強の子どもは、タテ巻きロールを両脇でキュッと結んだ女の子だった。いつもレースの裾をヒラヒラさせた服を着て、頭には洋服とお揃いのリボンを揺らせていた。 「では、七海先生とも今日でお別れですので、みんな握手をしてさよならしましょう。」 担任の先生の粋な計らいで、僕は子ども一人一人と握手をして回ることとなった。 可愛いもので一部の子どもは手を握りながら「せんせ〜、また来る〜?」などと言ってくれる。「二度と来ないよ〜」と朗らかに答えながら、僕はいよいよもってその女の子の前にやってきた。 女の子がスッと手を差し出す。 「おおっ?」 手のひらは下に向いていた。 そう。姫が騎士に向かって手の甲をさしだす「接吻を許します」のポーズだ。 僕は齢21にして高飛車な幼稚園児に接吻を許されてしまったのだ・・・!! 神よ。 許されるならこのままここでコイツのクビをコキャっとやってやりたい・・・!!しかし僕は単位のかかっているしがない学生の身。言いなりになるしかないのか・・・! 跪き、姫の手をそっと下からとって、ニッコリ笑うと、 「君は自分が思っているほど可愛くないぞ」 と小さな声で真実を教えてあげることに留めることとする。 姫は気丈にもキッと僕をにらみ返して来たが、僕はそんな視線痛くも痒くもないのだ。見よ、大人の貫禄をッ!!貴様よりはずっといろいろなことを経験しとるんじゃい!ニヤリと笑って僕は姫の前から立ち去った・・・。 僕は保育士に向いていない。 (その後、二度と行くもんかと思っていたその幼稚園に夏祭りの手伝いで訪れることになるのだが、その時姫が言った一言は「なにしに来たのよ」だった。(笑)僕はオマエの別れた彼氏かっつ〜うの!!!(爆)) |