其の五拾四『僕の演じたふたりのジジイ』の巻 |
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芝居の話をしよう。 僕は生涯で二人のジジイを演じた。 僕が一番最初にもらった役は『隣国の国王』であった。 渋い・・・! 我ながらもの凄く渋いぞ。 その役名もさることながらキジながら、そのキャラクターも丹波哲郎や黒沢年雄、宇津井健、そして津川雅彦などがキャスティングされそうな渋〜い役所なのであった。 年頃の娘を持つ国王は、プリンセスである娘と相応しい男と結婚させようと思っている。しかし、娘が婿にと選んで来たのは国王の気に入らない隣国の王子であった。その威厳と権力を振りかざし、結婚を邪魔する国王。仕舞いには愛する娘に「お父様の馬鹿ぁ〜」などと言われ、ちょっぴり凹む国王。しかし様々なすったもんだの末、隣国の王子の有能さと人柄を理解し、国王は娘との結婚を許すのだった・・・。 う〜ん渋い。 渋すぎるぜ、隣国の国王。 いかにも津川雅彦な役所ではないか・・・!! そんな役を僕はもらったのだ! 中学校一年生にしてな!!(爆) 嗚呼、中一の娘が杖を振りかざし、 「そなたが我が娘と結婚したいと申すのか?我が国とそなたの国は遥か昔より敵対しておることは知っておるのだろうな?」 エヘンと胸を張って見せる。 「はい。しかし、今このときこそ私の国と国王様の国は手を取り合い、ひとつとなるべきではございませぬか」 「ええい!煩い、煩い!とにかく娘との結婚は許さ〜ん!!」 ちょっとダダもこねてみる。 だって淋しい年寄りなんだもん。おまけにそれが原因で娘に嫌われちゃったりしてサ。小さい頃は「パパ、パパ〜」なんて寄ってきてくれたもんだよなあ、なんてしょんぼり昔を懐かしんでみたりするのサ。隣国の国王・齢六十八の春・・・。 ちなみに実年令では僕よりも娘のほうが一個年上なのだ。 「七海!威厳が足りないよ!威厳が!」 っていうかオイラ、威厳出さないとダメッスか、先輩? 「当たり前でしょ!国王なのよ!偉いのよ!」 今の僕ならば喜んで王子をいびり倒してやるところだが、ぴっちぴち中学一年生であった当時の僕にはあまりに大きなダメ出しであった。僕が今こうして根拠もなく偉そうな人間に育ったのは、この時の諸先輩方のダメ出しがDNA深くにまで刻み込まれて居るからなのかも知れない・・・。 目を閉じると聞こえてくる。 「七海、もっと偉そうに!アンタは国王なのよ!!」 二人目のジジイは漁師だった。 わけあって捨てられた王族の子どもを、それとは知らずに拾って育てた貧しいがココロ優しいジジイである。 国王が津川雅彦ならば、こちらはさながら伊藤四郎やいかりや長介といった庶民派オヤジ所だろうか。 僕はこの役で、ココロだけならず身までも心底ジジイとなりきることとなったのだ。 とあるシーンでしばしの暗転後、「一気に十年後まで時間が進む」という今考えると「んな無茶な!」と誰もがツッコむ設定が台本に記されていた。どうしたら見ているお客さんに「一気に時が進んだ」と一瞬で伝えることが出来るだろうか。 我々は若い脳味噌を振り絞って考えた。 そしてとある先輩がビシィと指さした先には僕の顔が・・・。 はい、なんでしょう先輩。 「良いことを思いついたわ。七海、あんた年をとりなさい!」 ・・・・は? いや、いくら僕でも一気に老いることは出来ませんけど・・・? 「小麦粉を被りなさい!!」 そう。小麦粉、あの小麦粉である。 とはいえ、ドリフのコントではない。ジェルで固めた髪に小麦粉をふりかけて、一気に僕を白髪にしようとおっしゃるのだこの先輩様は。 「しかしですねえ、先輩。世の中には食べ物に困ってはる子どもさんがたくさんいるワケでして・・・もったいないお化けがですねえ、枕元に・・・」 下級生である僕の反論虚しく、「アラビックリ!七海小麦粉でジジイ化大作戦」は大多数の拍手を持って可決されたのであった。 暗転約10秒間。 一瞬の勝負だ。 袖に駆け込む。まだ黒髪の漁師。 スタッフの先輩が衣装に小麦粉がかからないようにビニールをかぶせる。そして頭から一気に小麦粉ドバ〜!っていうかかけすぎですやん!こんなんコントですやん!ゲホゲホ!頭の上に築かれた小麦粉のピラミッドは、スタッフさんの手によって髪に馴染まされて行く・・・! ナレーションが終わり、間もなく暗転があける!先輩がビニールを取り除き、手にしていたタオルで僕の顔をバシンバシンと二往復!(メイクが取れるので擦れないのだ) そして一瞬にしてジジイと化した僕は舞台へとヨチヨチ歩き出して行ったのであった・・・・。 舞台が終わり、トイレの手荒い口で髪をゴシゴシ洗う僕に、見も知らぬ先輩が声を掛けてきた。 「いやあ、良かったよ。アンタのジジイ!」 その時からかも知れない。 僕が演出をするときに無茶なことを役者に言い出したのは・・・。 「吉田くん、ここで粒子になってぶわ〜って消え去って下さい」 「演出、それは無理です」 「いや、そこをなんとか!」 「無理で、す!」 僕はこの二人のジジイに学んだ。 偉そうに生きろ、そして下級生はどんな無茶なことでも先輩には逆らえな・・・いやいや、良き舞台のためならば小麦粉くらい喜んで被れ、と。 中学1年生の娘っこが、舞台の中で時を越え、ジジイとなったことは、あながち無駄では無かったかも知れない。 ありがとう、僕の演じた二人のジジイたち。 (この前38度7分の高熱を出した際、僕は夢の中でゾンビたちから逃げ回るまさにバイハザ体験をしました。ゾンビに触られると自分もゾンビになっちまうので、そりゃあもう必死に逃げました。ハッと思って目覚めた後に、再度眠って見た夢には、何故か真っ赤な口紅に真っ赤なマニキュアをし、赤い半天に半ズボン、足にツッカケを引っかけたSAMP中居が出てきました。その姿は大変愛らしく、僕はどうやらニヘニヘと笑いながら眠っていたようです。) |