其の五拾七『空を見よ、そしてかき氷を喰いなさい。』の巻 |
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電話が鳴った。 ハハだった。 「今日はねえ、月の横に火星が見えるのよ〜ぅ」 見上げるとまあるい月の横にひときわ赤い点がポツンと寄り添っている。 ほぉ。あれが火星かァ。 また電話が鳴った。 今度は遠く北の故郷に住む友達だった。 「月の横にポツンとあるのが火星なんだぞ〜ぅ」 それはもう聞いた。 さらに電話が鳴った。 「今火星がどこに見えるか知ってるか〜」 月の横だろ。 知ってるぞ。 次の電話が鳴る前に、僕は討って出た。 「月の横を見ろ!」 電話の向こうで相手が笑った。 「3人目だ!」 いにゃ〜短いCMのようだった。 しかし全然違う場所でおんなじモノを見ながら話が出来るというのは、なかなかそれはそれで感慨深いものであった。その日は確かに「月と火星が最も接近する日」で、ふと空を見上げれば月の横に威嚇するように赤く光る攻撃的な火星を見つけることが出来た。後々で聞くところによるとテレビのお天気オネエさんが言っていたらしい。 「今夜は月のすぐ左下を見て下さい。火星を見ることが出来ますよ」 発信源はどうやらソレだ。 僕が子どもの頃にハレー彗星が地球に接近した時にも、そういえば誰もがこぞって空を見上げていたっけ。 小学生の時には日蝕があって、購買部の色のついた下敷きがしこたま売れた。太陽の光を直接見ると目が焼かれるからと、下敷き越にみんなが空を見上げた。なかなかどうして粋なもんで、その時ばかりは退屈な算数も、校庭を走り回るハズだった体育も、全ては『理科』と振り替えられた。校舎中の窓が開いて、全員が一斉に空を見上げた。(そして後々『理科』と振り替えられた算数は時間割マジックにより2時間連続となり、我々を恐怖のどん底に陥れたのだった。) 最近では流星群が空を駆け抜けた時、誰もが「明日会社なんだけどなァ〜」と思いつつも流れる星を数えていた。 夏の夜の花火。 アパートの手摺りに缶詰の焼き鳥やらジンジャエールやらを並べて、小さな宴会。 建物に遮られて広い通りでしか空が見えない場所では、歩道にたくさんの人が並んだ。小さな子どもがガードレールに寄りかかってニコニコ笑っている。僕はスイカを持ってシャクシャクと囓りながら家の前の階段に座っていた。 成田の近くに行けば、離着陸直後の飛行機がもの凄くでっかく見える。 グオオオオオオオ・・・・。う〜ん、目薬の宣伝のようだ。思わず「来たアアアアアアアアアア!」と織田裕二ばりに叫びたくなってしまう。高い建物なんか全然ないスゴクのほほんとした風景の空に、近代的な鉄の塊が飛ぶ。真っ青な空を裂くように飛ぶデカイ飛行機の腹。ミスマッチだ。不思議だ。 空から雹が降ってきた。 「ヒョー!」 爆笑だ。 いや、爆笑している場合ではない。中学生の僕、自転車置き場でまさにチャリキ(僕の地元では自転車をチャリキと呼んでいた)を引っぱり出そうとしていたその時だった。紫色の不思議な雲から、バラバラと雹が落ちてきたのだ。 バンバンガガーン。バララッタラー。パキポキパン。 やわらかなトタンの屋根が激しく鳴る。 「グ、グハア!このままではもしかしたら殺られるかもしれん!」 そうは思ったものの、当時小リスのようなか弱い中学生であった僕に何が出来ようか。 ただフルフルと小刻みに震えながらそれでも「ヒャッホーイ。雹なんか初めて見たぜベイべー!」と舘ひろしばりに強がることしか出来ないのだった。(そして舘ひろしは決して「ヒャッホーイ」などと言わないのであった。) 僕を見つけたらしい先生が、200Mも離れた校舎の中から叫ぶ。 「お〜い、だいじょぶかあ〜!」 せ、せんせーい!僕を救ってくれるのか、先生よ! 僕は無理に笑ってみせる。 「だいじょうぶです〜ぅ」 でも先生は解ってくれるハズ!僕がなけなしの勇気を絞って魅せた笑顔の裏側で、言いしれぬ恐怖と戦っているということを・・・ッ! 「そうかあ」 ピシャン。 無情にも窓ガラスは閉まった。 アホンダラ〜〜〜〜〜〜〜、っていうかアホンダラスケ〜〜〜〜〜〜〜!!!女子中学生の複雑な心情を解らないなんてッ、アンタ教師失格やァ!っていうか意地を張るなんて・・・アタイの馬鹿馬鹿ッ! やがて雹があがり、紫の雲が立ち去った後、その影から現れた綺麗な夕焼けを見つめながら、僕は「出来る限り素直に生きよう」と決めたのだった。 人は何故か空を見上げる。 天気がいいと太陽に目を細め、雪が降ればそれを顔で感じ、鰯雲を眺め、羊雲を数え、積乱雲に怯え、風を感じ、日光を浴び、月を見上げて、空を見る。 いつかもし再び雹が降ってきたなら、僕はリヴェンジを考えている。落ちてきた雹を受け止めてかき氷製造器に突っ込み、ガリガリと回してかき氷にしてくれる!その為に僕は毎日シロクマサンとペンギンサンのかき氷製造器を背負っているのだ・・・! (最近自転車を乗り回しています。僕はゲーム機同様、ハンドルを握ると明らかにガラの悪くなる人間です。「ウラウラウラァ〜」と心の中で叫びながら爆走!無灯火チャリを横から蹴飛ばしてやろうかという衝動に耐えながらチャリを走らせています。危ネエんだって!対向車が認識出来ネエんだって!灯せって!ついでにココロの火も灯せって!←意味わからんよ、俺) |