其の五拾八『代筆』の巻 |
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どうも。 ゴーストライターです。 この部屋の主が「人生に疲れました」との書き置きを笹の葉に残し、ヨダレを垂らして眠っているので、代わりに私が書こうと思います。 彼女とのつき合いは大変長く、まだ軽めのお下げを腰の下まで垂らしていた頃から知っています。あの頃の彼女は、ジャンパースカートの制服と頭から落ちそうなベレー帽を頭に乗せていましたっけ。少なくとも今のように、Gパンをはいて「ゲラゲラ」と笑うような男らしさは持ち合わせていなかったように思われます。 彼女は茶箪笥が好きでした。 家には大きな茶箪笥があり、その中でも引き戸になっている下の部分が特にお気に入りだったように記憶しています。その中に彼女は潜んでいました。頭を畳んで、足を折り曲げ、暗い茶箪笥の中に潜り込んでいました。 彼女は閉所恐怖症ですが、そんなことよりも思いもよらぬ場所から出ていって人を驚かすほうが楽しかったのでしょう。息を潜め、茶箪笥の外の人の気配を感じ取って、いきなり引き戸を開けた時の母親の笑い顔を見て安心するのが好きだったのかも知れません。 その時の写真が、今でも我が家のアルバムに残っています。 足を半分と、上半身を茶箪笥の中から覗かせているその顔は、眩しいほどの半笑い顔でした。 いにゃ〜。 今では「どうやって入ってたんだ!?」と思われるようなあの茶箪笥を愛していた時期もあったもんだった。 そうです、僕です。(銭金かっちゅうの!) ゴーストラーターがご不浄に籠もっている間、茶箪笥話のその後をご紹介しよう。 テレビからニョキニョキと出てきた貞子のように、茶箪笥からニョキンキョキンと出現してきた僕ではあるが、その後、その引き戸の中のスペースが「お菓子入れ」となってからは入茶箪笥禁止となった。 クウッ! しかしハハに怖い顔で「今日からここはお菓子が入る場所なのよ」と言われて、一体どこの幼児が逆らえようか! 否。逆らえはしまい。 どう考えてもお菓子の方が僕よりも格が上だ。 僕は茶箪笥の中の帝王の地位を、お菓子様に譲ることとなったのだ・・・・。 少し起きていたようですね。 私が用足しから戻ってくると、彼女は壁にくっつくようにして眠っていました。それが嘘か本当なのかは解りません。もしかしたら、壁に向けた顔はにやにやと笑っているのかも知れませんが、私にはそれを確かめる術はないのですから。 では、これを期にもう少し彼女が子どもだった頃の話をしましょう。 歯医者に言わせれば、今でももの凄い数の虫歯を抱えている彼女ではありますが、本人はすっかり何処行く風のようです。「歯医者に行くと逆に痛くなる」と言っているほどです。しかし遡って考えてみると、確かに彼女は昔から歯が強かったようです。 彼女は乳歯が抜けませんでした。 普通、ある一定の年齢になると子どもは歯が生え替わります。芯のない乳歯の下から生えてきた永久歯が乳歯を押しだし、生え替わりとなるわけです。 しかし彼女は乳歯が抜けませんでした。 行き場をなくした永久歯は、仕方なく方針を変え、乳歯の後ろ側の歯茎から顔を覗かせました。こうして彼女は剃刀でもないのに、二枚歯となったのです。 そうです。 歯医者にまで行って乳歯を何本も抜いてもらったのは僕です。 乳歯・永久歯の生え変わりっちゅうのは、だいたい小学生の頃だと思うが、よくアチコチで口の中を血塗れにしている小学生を目撃することが出来た。 ある時は給食時。 何故かシチューを一人真っ赤にしている男の子。 人参とジャガイモの間に小さな乳歯が浮いている。 ある時は休み時間の廊下。 友達とじゃれあっている間に乳歯の抜けたらしい子どもが、抜けた歯を持って先生のところまでやってくる。 ニイっと笑えば、欠けた前歯と真っ赤な歯茎・・・。 僕は自然に歯が抜けることがあまりなかったので、そんなホラーな顔で先生の度肝を抜くことはなかったのだが、逆に見事なまでの二枚歯で両親をビックリさせていたものだった。 「キレテナ〜イ!」ではなく「ヌケテナ〜イ!」。 それから約18年間、オヤシラズのもの凄い痛みで駆け込むまで、僕は歯医者に通うことはなかった。 確かに僕は歯が強い。 さて、私はもう帰らなければならないようです。 彼女は私が席を外したわずかな時間に前の文章を書き、また眠りについたようです。私は彼女をよく知っていますが、どうやら彼女と私が面と向かって話をすることはこれからもないらしい。それはきっと私たちにとっては良いことなのでしょう。しかしそれは、ほんの少しだけ淋しいですね・・・。 では私は帰るとしましょう。彼女が目を醒ます前に。 気が付くと僕は一人、部屋の中でグウグウと眠っていた。 僕の愛するゴーストライターはどうやら帰ってしまったようだ。 グッスリ眠ったようだが、なんだか疲れは取れていない。 「終わったのか?」 近くでコントローラーを握っていた友達が、画面から目を離そうともせずに言った。 不思議なことに僕は何故かパソコンの前に座っている。 おかしいな、と思う。 壁にひっつくようにして眠っていたハズなんだが・・・。 そして目の前にはこの文書・・・。 「あの人は帰ったのかな?」 呟くように言えば、友達はふぃっとこちらを見た。 「誰が?」 「誰がって・・・。この文章書いた人だよ」 わずかな間の後、友達はまた画面に目を戻した。 「全部自分で書いてたじゃねえかよ」 私の言うトオリだ。 僕と私が面と向かって話をすることは、確かにこれから先ないだろう。 (今ダイコンサラダにポン酢とゴマドレッシングをブレンドしたものをかけて食べるのが流行っています。僕の中で。あくまで僕の中で。いにゃ〜これはウマイ!オススメです。) |