其之六拾参『スケキヨ』の巻 |
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高校生時代、見に行った他高校の文化祭で僕はスケキヨに出会った。 古ぼけた木造の建物の中は、ひっそりと暗い。 暗幕に覆われた窓。 人体模型がゴロンと床に転がっている。 『お化け屋敷』である。 僕は思わず「ケケケ!」と笑ってしまうほどお化け屋敷が大好きだ。お化け屋敷に入れば、出てくる妖怪や幽霊の解説にチカラを注ぎ、突然飛び出してくる生首を見て「ケケケ!」を笑うなどしてお化け屋敷を堪能している。「妖怪と幽霊の違い」について語り続けながらお化け屋敷の数々の仕掛けを素通りすること数回。共に入った者に出てくる「妖怪」の解説を懇切丁寧にしたものの、「ぎゃー!」などと云って聞かないので、キレて頭を鷲掴みにすること数限りなし。あまりに仕掛けが見事な為、立ち止まって「ほう、これは・・・・!」などと云っていたら、係員の人が追いかけてきて「早く進んで下さい」と冷静に云われたこともある。 そんな僕がたった一度、たった一度だけ「うぎゃはあああああ!」と叫んでしまったお化け屋敷がある。 そう、それが高校生の催したなんともチャチイお化け屋敷だったのである。 その話を始める前に、君に尋ねよう。 「スケキヨを知っているか」・・・と。 スケキヨ、それは横溝正史の小説『犬神家の一族』に堂々登場する人物の名である。 スケキヨは奇妙なマスクを被っている。 目と口だけがポッカリと空いただけの、ヤワヤワなゴム製のマスクだ。映画『犬神家の一族』にて彼の姿を見たときの衝撃を、僕は忘れはしないだろう。表情のまったくないゴム製のマスクを被った男が、他の家族と共にちょこんと正座している。な、なぜ誰もツッコもうとしないんだ!!そのマスクは明らかに変じゃないか!!っていうか何で何事もなかったかのように座って居るんだスケキヨ!! 遠目に見るとマスクが影になって、まるで目玉がなく、虚無の闇が広がっているような気がする。 幼い頃見た映像であるから多少誇張されているのかも知れないが、とにかくスケキヨマスクのインパクトは僕の脳髄にしっかりと染みついたのである。(しかし何故、幼い僕がよりによって『犬神家の一族』を見る羽目になったのか、そこらへんの事情は残念ながら覚えていない・・・。) 時は流れ、僕がスケキヨのことなど忘れたある日。 彼との出会いの時がやってきたのだった・・・! 真っ暗な教室の中、人体模型を踏み越えて、次のドアへと向かう我々。(その時、僕は白地に紫の幾何学模様というワケのわからん服装をしていた。) ドアの前には暗幕がかけられており、誰かがそれをめくらねば次の部屋には行けない仕組みだ。 先頭を歩いていた僕は迷うことなく暗幕に手をかけた。 その時だった。 「う、うぎゃはああああああああああああああ!!!!」 僕の悲鳴が闇を切り裂く! そこに、その暗幕の後ろに何をするでもなくヘコっと立っていたのは、誰であろう、あのスケキヨだったのだ・・・ッ!! 「ス、ス、スケキヨオオオオオオオオオオオ・・・・!!!!」 彼は何をするでもなく、スケキヨマスクを被ってただそこに立っていた。 「もしや苛められているのか?イジメられッ子なのか?」と、思わず普段の学校生活を心配してしまうほど、彼のひっそりさは完璧だった。 僕の脳髄に蘇る『犬神家の一族』。 座敷に普通に人々に紛れてちょんと座っていた彼の不気味さが、今ここに再現されているのだ! か、感動!これほどの感動があろうか! 物言わぬスケキヨに僕は尋ねる。 「ス・・・スケキヨさんですよね?(ゴクリ)」 僕よりも数十センチ高い彼の目を覗き込むが、もともと薄暗い部屋である為にそこだけポッカリと窪んでいるように見える。 理想だ・・・君こそが我が理想のスケキヨだ!また無口なあたりが、なりきっていてイイじゃないか! 感動に打ち震える僕。 しかし次の瞬間、スケキヨは一言。 「は、ハァ・・・」 ん?んなああああああああああああああああああああああああっ!!! は、「ハァ」だとォォォォォ!? 云うに事欠いて「ハァ」とはどういうことなんだスケキヨさんよぉ!! しかも右手をぶにょぶにょの頭に当てて微妙に照れているような仕草。 ゆ、許すまじスケキヨ!おまえがこんなライトな人間だとは思ってもみなかったぞ!仮にもスケキヨなら、もっとこう、これから先の展開を暗示するような呪いの言葉の一つでも言ってみろっちゅうんじゃ!それにスケキヨはなんか変な機械で「ギョギョギョギョ・・・」みたいな声で喋らなきゃならないんだ〜い!!(←記憶が大変曖昧なので他のキャラと混同していたらスマン!) オマエなんかスケキヨじゃないや〜い!!!(当たり前である。) こうして僕の夢のような一時は淡くも崩れ去ったのであった。 ××市にスケキヨはいなかった。(さらに当たり前である。) 帰りに寄った駅前の雑貨屋さんにスケキヨマスクが売られていた。そこには確かにスケキヨのゴムマスクが入っていたのだが、袋には『仰天!不気味!ゴム人間!』と書かれていた。あの男のかぶっていたものは、最早スケキヨマスクですらなかった。彼はタダの『不気味ゴム人間』だったのだ・・・。 そんなゴム人間に「スケキヨですよね?」と尋ねてしまった僕の、なんと悲しいことか。 目に浮かぶ涙をグッと堪え、僕はそれをムンズと掴んでレジへ向かった。 僕はその日、そのマスクを友達に送りつけたのだった・・・。 ケケケ。 (そしてお礼に真っ黒に金ラメ入りの網タイツが贈られてきた事は、云うまでもないことなのであった・・・。犬神家、怖るべし!!) |