其之六拾奈々『遊べ!〜夏休み篇〜』の巻



 マスターがコスモレッドに変身し、土井垣さんが無邪気に喜んでいたあの日、僕は夏休みの真っ直中だった・・・!
 妄想ではない。
 とうとう僕の脳味噌が溶けだし、ホカホカ煮立った脳味噌から肉色の湯葉が生産し始めたのではないかとご心配いただいた諸君、少し落ち着きたまえ。(安心しろ、誰も心配なんかしてないぞ!そして肉色の湯葉は気持ち悪いな!)
 今さらながらではあるが、PS用ソフト『ぼくの夏休み』を実践中である。

 『9歳の夏休み。
  ボクは、お母さんがゆっくりと赤ちゃんを産めるように、田舎に住んでいるおじさん  夫婦の家に預けられることになった。
  期間は一ヶ月。
  駄菓子屋もなく、テレビのチャンネルが三つしかないとんでもない田舎だが、都会暮  らしのボクが見たこともないような大きな自然がそこに待ち受けていた。
  入道雲そびえる真っ青な空。
  夜空に響く虫の音。
  魚が泳ぐ澄んだ川。
  そこら中を飛び回るちょうちょ。
  そしてどこかもの悲しげに響くニホンオオカミの声・・・。
  ジリジリと鳴くセミの木の間を、時には虫網を手に、そして時には釣り竿を手に、朝  から晩まで走り回る。
  そしてそこに暮らす人々。
  陶芸家のおじさんはなんでも作ってくれる。おばさんの料理はとっても美味しい。萌  姉ちゃんは心優しくて、妹の詩(しらべ)はアリンコとテレビが好き。カブトムシを  戦わせて友達・・・、幻のニホンオオカミを探す大学生のお姉さん・・・。
  ボクはこの夏休みの中で、ほんの少しだけ、たくましくなった・・・。』

 参った。
 僕はもともと田舎の景色というものに大変弱い。
 『となりのトトロ』なんかを見ると、物語の頭で田舎の道をカトカトと三輪自動車が走っている時点でもうすでにホロホロとせつなくなってしまうのだ。家の裏にある大きなクスノキ、まあるいふたつの輪のようなお風呂、ギシギシ音をたてて走る自転車、水を吹き出すポンプ、まっくろくろすけの棲む古い家・・・。『トトロ』が出てくる前に既に泣いている。『となりのトトロ』なのに。トトロがとなりに来る前に、感動を噛みしめているのだ。
 風がさよさよと草を揺らす美しい田舎の風景を見ていると、もうなんだか、せつないような、ノスタルジックな気持ちになってしまい、まるで九十の爺さんが昔を懐かしむように涙がボタボタと落ちては消えるのだった。
 そんな僕が、とうとうこのゲームに手を出してしまった。
 プレイヤーは『ボク』クンとなり、一ヶ月の夏休みを田舎で過ごす。
 何をしても、何にもしなくてもいい。
 海や、川や、土や、木や、岩や・・・そんなものだけで出来上がっている世界の中を、ボクは毎日駆け回る。
 ぬあ〜。
 なんて幸せな毎日なんだ〜ぁ。
 僕はこれほど「明日が待ち遠しい」と思ったことは無い。
 カモン、明日!
 中でも僕がハマったのは虫穫りと魚釣りで、移動する時には必ず虫網を手にして、いつでも画面にピヨっと動くモノを見つけた時にはビュオン!とすかさず虫網をスイング出来るようにスタンバイしていた。
 魚の影が映る澄んだ川では、老後のジジイの如くぷかんと釣り糸を垂れ、日が暮れるまでヤマメだのイワナだのと戯れていた。
 おじさんが留守の夜に、こっそり沢に見に行ったホタルはそれはもう幻想的で、いつまでもそこに居たいと思わせる美しさだった。
 う〜ん、ワシもここで暮らした〜い。
 朝から晩まで駆け回っていたら、そりゃあもう、毎日飯がうまかろう。
 ゲーム画面の中でホワホワと暮らしたい人には、大変オススメの一品である。
 他にもなんでもアリの生活ソフトには『ワールド・ネバーランド(PS)』というゲームがあり、これも大変に気に入っている。
 これは一つの大きな都市に住み、好きなことをして暮らすというゲームだが、もの凄い量のメモリーカードブロック(確か15とか、ほぼ1枚やん!くらいのブロックを使うのだ。っていうかメモリーカード高すぎッス!)を使うことからも解るように、とにかく住んでいる人の数もハンパじゃなく多い。ウジャウジャいる!渋谷ハチ公口で待ち合わせている人数くらいはゆうにいる!
 古代ギリシャのような世界の中で、色々な人と接し、働いたり、遊びに行ったり、好きな人を見つけてデートを重ねて、仕舞いにゃあ結婚したり・・・。もういくら遊んでも全然終わらない究極の毎日生活ゲームなのだ。
 僕はズシャアア!とかズバアアア!とかファイアボォォォォォル!!!とかそういうゲームも愛しているが、こうして悠々自適にのほほんと暮らす気長系ゲームも大変好きだ。
 何時間でもホテホテとフィールドを歩き回り、ささやかなイベントに幸せを感じる。
 一日や二日なんのイベントがなくても、色々な場所を歩き回ったり、昨日とは違う話をしてくれる住人たちと触れ合っているだけで、充分楽しくやっていけるのだ。
 目的がないゲームも面白い。
 しかしそんな気長系ゲームの怖ろしいところは、気が付けば現実ではもの凄い時間が消費されている、という点である。
 「いやあじゃあそろそろ一段落」と思って目を上げると半日経っていたりする、まさに浦島太郎状態なのだ。(註:ゲームを長時間行う場合は1時間ごとに休憩をとりましょう、と、書いてある。)
 ぬあ〜!御飯を喰いそこねた〜ぁ!
 ところで僕は冬が好きだ。
 出来ることならば一面の雪世界の中で、雪遊びをして暮らせる『ぼくの冬休み』も作ってはくれないだろうか・・・。
 そして僕にかまくらを作らせなさい。
 かまくらを。

(コレを書いている途中、横っちょの道で誰かが事故ったらしい。車のぶつかるもの凄い音が響いた・・・。では僕は夏休みに帰ります。)