其の六拾鉢『黒い恋文〜恋人への手紙〜』の巻



 あれはいつの冬であったろうか。
 君が真っ暗な病室で一人「雪が見たい」と涙をこぼし、僕がクリスマス会の為に『鳥もも肉揚げ』で有名な某店を訪れた時のことだったね。
 時はまさにクリスマス真っ直中。
 遥か昔、馬小屋で神の子がフギ〜と産声をあげたその瞬間であったのかも知れない。
 僕は某店の自動ドアをいつものように通り過ぎようとした。
 その瞬間。
 パヨン、と何か柔らかいものに行く手を遮られたんだよ。
 ぬあ!?と思わず顔を上げると、そこには緊張感を露わにした店員さんの顔があった。
 僕がぶつかったのは、大きく手を広げたちょっと幅あり気味の女性店員さんだったんだ。
 正直に云おう。
 確かに僕は一瞬ムッとした。
 オマエはサッカーのゴールを守るキーパーかっつうの!!キーパーなのかっつうの!!
 僕の右側では、やはり自動ドアを通り抜けようとした黒いコートのサラリーマンが、女性店員に阻まれてポヤンと跳ね返っている。
 ふふふ。
 ならば二人ならどうかな?
 彼がそう思ったのかどうかは解らない。
 しかし僕はキランと目を光らせ、リーマン氏と共に再度、女性店員にアタックをかましたのだ。
 いや、いっそ僕は通れなくてもいい・・・・!
 僕が囮になるから、アンタだけでも中に入ってくれ・・・・!!
 そしてオイラの分のチキンも買ってきてくれ・・・・!!
 勿論アンタのオゴリでな、な〜んつって、はははは〜ン・・・・!!
 などと考えている間にも、僕らは女性店員の鉄壁の守りによって再度外に押し出されてしまったのだよ。ふふふ、おかしな話だろう。
 僕は思わずココロの中でツッコンだよ。
 オマエは日本代表かっつうの!!
 代表なのか、っつうの!!
 そしたら、店員さんはブルブルと頬を揺らしながら、早口にこう云ったんだ。
 「引換券お持ちの方だけお入りください。」
 ぬ。
 ぬあああああああああああああああああああああああああああ!!!!
 僕がその時感じた衝撃をあらわすならば、慣れない旅先で情報誌を片手にやっと探し当てた美味しい鍋料理屋の店先で「ウチは一見さんはお断りなんどす」と女将に冷たくあしらわれた旅行者のキモチの如し、だ!!(ところで、じゃあどうすれば、その店で食べることが出来るのかな?教えておくれ。)
 そう、僕は予約していなかった・・・・。
 そして黒いコートのリーマン氏も隣で唖然としているところを見ると、僕と同類であろう。このまま帰れば、きっと奥さん・子どもに冷ややかな目で見られること必至だ。スーパーのもも肉でも買ってすごすごと帰るがいい。
 そんな僕らの間をするりとすり抜けて、外国人の方が中へ入っていく。
 チラリと見せた予約券が、クリスマスの勝者であることを物語っている。
 嗚呼、きっと。
 マッチ売りの少女はこうして窓の外から幸せな家庭を見つめていたに違いない。
 中は温かな光に満ちあふれ、みんなが幸せそうにエヘヘと笑っている。
 鶏もも揚げ店は、狭き門であった。
 それで僕はどうしたのかって?
 笑っておくれ。仕方なく某有名ハンバーガーショップのチキンナゲットを大量に買い、僕はクリスマス会に向かったんだよ。
 そりゃあ最初はみんなぶーぶー云ったよ。
 けど、「チキンナゲットはトリちゃうんかい!!(←ドス声巻き舌)」って云ったら、みんな納得してくれた。これって、友情、だよね・・・・。
 しかし、許されるならば一つだけ教えておくれ、雲の上の君よ。
 何故、人海戦術だったのだい・・・?
 あれからあの店員さんは見ないけれど、やっぱり、あの鉄壁のガードの為に、雇われた人なのかい・・・?
 あの人は、いったいいつから、ああやって人々をガードしていたんだい・・・・?
 そして今年の冬も。
 今年のクリスマスも、やっぱりあの人は、ああやって扉の前に立つのかい・・・・?
 クリスマス以外は、一体何をしている人なんだい・・・・?
 おっと、たくさん質問してしまったね。
 しかし、教えておくれ。もし君が空から僕を見ていてくれるのならば。
 冬になれば思い出す。
 あの人は。
 僕とリーマンを跳ね飛ばしたあの人は。
 お笑いコンビ『インパルス』のツッコミの人に、よく似ていたね・・・・。
 そう思ってクククと僕が思いだし笑いを噛み殺しているその時に、君は心停止、したんだったねえ・・・・。


(要!!予約!!!ところでクリスマスには全国のケン○ッキーで、自動ドアガード作戦を展開しているのですか?だとしたら素通しの店はどうすればいいのでしょうか?あ!わかったぜ!店員さんが並んで腕を組んで、自らが壁となるのだ!!凄ェ!見たいッス!見たいッス店長!!)