其之七拾『血染めのクリスマス』の巻



 クリスマスである。
 僕の友達はかつて街中でサンタの格好をしてティッシュを配るバイトをしていたのだが、塾帰りらしき子どもたちに囲まれたことがあるという。
 その子らに「オマエ、サンタだったらなんか出してみせろよ〜」と馬鹿にされた友人は、そのリクエストに対して「渾身のパンチをガキの頭に繰り出して見せる」という荒技でその場を乗り切ったのだ。
 サンタ曰く。
 「サンタ甘く見んじゃネエぞ、このクソガキがぁ!!お望みなら、真っ赤なクリスマスにしてやろうか、アァ!?」
 素晴らし・・・いやいや、大人げない。大人げないぞ、Y木(←名前)!その当時、既に成人だったじゃないかY木!!
 しかし何故だろう。
 大人げないナァ、などと云いつつも、話を聞いた我々の顔に何故か清々しい笑みが広がっているのは・・・・。君よ、今すぐ鏡を見てみるがいい。君も今、その話を初めて聞いた時の僕と、おんなじ表情をしているハズだ。
 そして子どもたちよ、街中に立っているサンタの中にはこのようなブラックサンタが混じっていることを、どうか忘れないで欲しい。ちょっかいを出す際には、ちゃんとブラックサンタかそうでないか見極めてからにしよう。でないと、目の前が真っ赤なクリスマスをたっぷり味わうこととなってしまふよ・・・・。
 サンタと云えば、クリスマス時期になると、ピザの配達さんがサンタの格好をしてピザを届けてくれるのを御存知だろうか。
 あれはいつのクリスマスだっただろうか。
 既にかなりイイ塩梅に出来上がっている我々の元に、ピザ屋サンタがやってきたのだ。

 サンタ:「どうも〜、○○ピザで〜す」
 我々 :「わ〜!サンタだ〜!!サンタさんが来〜た〜ぞ〜!!」
 A井 :「儲かってますか!?儲かってるんですか、サンタさん!?」
 サンタ:「は?あ・・・・ええと、こちら○○ピザのL2枚になります・・・。」
 O田 :「まま、サンタさんも一杯」(と、酒を勧める)
 サンタ:「あ、あのすいません。自分仕事中なので・・・」
 O田 :「まま、そう云わず」
 サンタ:「あの、運転ありますんで!」
 A井 :「そんなことはどうでもいい!もしもあなたが本当のサンタさんなら・・・僕に     夢を下さい・・・!このヨボヨボの俺に、夢を下さいよぉ〜!!」
 N海 :「絡むな!絡むんじゃない!!い、いくらですか!?」(しらふなので正気)
 サンタ:「え、えっと、全部で××円です!」
 N海 :「じゃあ・・・これで」(お金を払う)
 サンタ:「ありがとうございます!」(すかさず帰ろうとする)
 A井 :「待てィ!」(が、止められる)
 サンタ:「はい?」
 A井 :「メリークリスマス、って云って下さい」(真顔)
 サンタ:「は?」
 A井 :「サンタさんなら、『メリークリスマス!ふぉっふぉっ』って云って下さい!     老人風に!しかも老人風に!」
 N海 :「(A井を押さえながら)は、早く逃げて下さい!早く!」

 サンタは逃げ出した。
 ピザが入っていた保温の為の銀色の袋を握りしめたまま逃げ出した。
 それでいい・・・・それでいいんだ・・・・!だって君はサンタじゃない。ただのピザ屋の配達員だ。酔っぱらいの戯言に付き合うなんて、そんなことお給料に含まれていない仕事、しなくたっていいんだ。
 スタコラと逃げていくサンタの背中を見て、頷く僕。だが何故だろう、なんだか少しだけ淋しい気分になるのは・・・・。
 その時、マンションのエレベーターの前に辿り着いた彼が、突然くるりと振り返った。
 思わずポカンとそれを見つめる。
 彼はバイク用の手袋をした手を口元に当て、スゥっと息を吸い込んだ。

 「メリ〜〜〜〜〜クリスマ〜〜〜〜〜〜〜ス!!!!」

 裏返った声で大きく叫ぶと、開いたエレベーターの中に飛び込んで消えた。
 彼はその時、本当のサンタになれたのだ。
 その声に反応するように、A井が叫んだ。
 彼に届けとばかりに、大きな声で・・・・!

 「うるせええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!」

 エエ〜〜?!・・・・・そりゃネエよ、A井さんよぉ。
 アンタが「云え」って云ったんじゃないか!
 極めて平凡な彼が、一発勇気を振り絞って演じたこの木○拓哉ばりのドラマチックシーンを、「うるせえ」の一言で片づける酔っぱらい一名。
 後に、まったくその時の記憶がないと述べる彼は、深く頭を垂れて「ただただ彼には申し訳ないことをしてしまった」と口から血を流しながら震える声でそう云った。
 そう、彼は、笑っていたのだ。
 クリスマスは楽しい。
 誰もがふわふわと浮かれている。
 だが、我々は忘れてはならないのだ。
 クリスマスだって、それを支えるべく、働いている人々がいるのだということを・・・!
 そして僕は気付くのだ。
 「あ、僕も会社(平日勤務)やん」
 と・・・・。


(『マンハッタン』がとうとう終わってしまった・・・・!今僕は清々しい涙を流している!今度こそ、私の経験と人生と魂を込めていわせてもらおう。「ありがとうッ、マンハッタン・・・!」と。)