其之七拾悟『怪怪怪B』の巻 |
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怪Bスーパーの女の怪。 それはとある日の夕方。 スーパーの飲料売場で起きた怪事である。 ペットボトルで埋め尽くされたその飲料売場は、上段三段に500mlペットが並び、一番下の広めの段には1リットルや2リットルといった大きいサイズのペットが置かれていた。コンビニのように冷気を封じるような扉はなく、手を伸ばせばスムーズに製品が取れる仕組みとなっている。 『本日のおすすめ品』の札が、時折吹き出されてくる冷風に小さく揺れていた。 僕はカゴを片手に仁王立ちをし、ううむと唸る。 (うまい烏龍茶・・・・うまい烏龍茶・・・・う、ま〜い烏龍茶・・・・) 時代遅れも甚だしく烏龍茶にハマっている僕は、今日も烏龍茶業界を牛耳るべく、目新しい烏龍茶の選定を欠かさない。 あっちのボトル、こっちのボトルと目を彷徨わせていたその時であった。 その女が現れたのは・・・・。 気が付くと僕の腰付近に寄り添うように、女は立っていた。 (い、いつの間に・・・・) この根来忍術の使い手である(いつから?)僕に、気配ひとつ感じさせずにここまで接近するとは。怪しく感じて、僕はチラリと女を盗み見た。 歳の頃は四十代から五十代ほど。 白いフリースのようなものを着て、長い髪を無造作にまとめている。 腰のあたりに気配を感じたのは、その女が腰を深くかがめているからであった。 その女の視線の先には・・・・大きいペットボトルが並べられている段がある。 (そうか、大き〜いお飲み物が欲しいんだな。) 女の目的が解り、ホッと息をついて、僕は再びペットボトルの棚に目を戻したのだった。 ・・・・それからどのくらい時が経ったであろうか。 気が付くと、隣から小さな囁きが聞こえてきたのだ。 「え?なんで?なんでだろう?なんで?え?え?なんで?・・・・・」 ハッとして声のする方を見る! すると、あの白いフリースの女が、僕が目を離した時と同じ格好で2リットルのお茶を見つめながらしきりに「なんでだろう?」と呟いているではないか!? 初めは蚊の羽音ほどの小さな声が、ミキサーの目盛りを上げていくかのようにどんどんどんどん大きくなる。 「なんで?え?なんで?なんで?なんで?なんでなんだろう?」 さらにはその声につられるように体の振幅が大きくなっていき、仕舞いには軽い反復横飛びのように右左に動き始めた。 反射的に思わず身を引く。 女は2リットルのペットボトルを覗き込むようにしながら、右往左往し、「なんで?なんでだろう?」を繰り返しているのだった。 (こ、怖い・・・・) ブツブツと鳥肌が立つのが解った。 僕がジッと見つめる中、白いフリースの女は「なんで?なんで?」を繰り返している。 ナンなんだろうこの人は・・・・?? 僕が見たところ、女が見つめているのはなんの変哲もない普通のペットボトルである。 もしかしてテツアンドトモを応援している人なんだろうか? だいじょうぶだよ。あなたがそんなことしなくても、テツトモはもう充分に知られているから・・・! そう声を掛けてあげたい。 僕が震える手をそろそろと伸ばしたその時だった。 女の動きがピタリと、止まった。 「!?」 気付かれたか?! 僕の動きもつられるようにピタリと止まった。 女は今までずっとかがめていた腰をしゃんと伸ばして、二段目の段にある500mlペットを手に取った・・・! か、買うのか!?ついにそれを買うのか!?それともなんだかものすごく気に障ってしまったのか、そのペットボトルは!? 「んだコラアアアアアアアア!!!文句あんのかウラアアアアアアア!!」 ペットボトルをグワシャアと握りつぶす画が、思わず僕の頭に浮かぶ。 見たい・・・・!状況的にはとても怖いが、それは是非とも見てみたい光景だ!! 僕がコブシをギュッと握ったその時。 女は小さな声で呟いた。 「・・・・『ココカラ(←商品名)』か・・・・」 へ? 女はそれをコトンと元の場所に戻すと、おもむろに腰をかがめ再び小刻みに動き始めた。 「なんで?なんで?え?なんで?え、え?なんでだろう?なんで?」 エエエ〜〜〜〜!!???どっちかっつうとアンタのほうが「なんでだろう〜?」じゃろが〜い!! っていうかここ五分くらいたっぷりこの人の行動を見ているが、僕あちっともアンタのことがわからネエよ!『ココカラ』には一体どんな秘密があったんだよ?!なんでそこだけ真顔なんだよ〜〜!?わかんネエよ、エ〜ン! 僕は大変混乱して、思わず「エ〜ン」と泣いてしまった。 (人と人とは永遠に理解出来ないものなんだ・・・・) 袖でギュッと涙を拭くと、僕はその場をそっと立ち去ることとする。 もしかしたら彼女はそこで何かこの世ならざる小さな生き物と待ち合わせをしていて見つけられないのかも知れないし、もしかしたら彼女はそのペットボトルから禅問答を問われているのかも知れない。 どっちにしろ、僕には与り知らぬ世界の話である。 背後ではまだおばちゃんの「なんでだろう」が聞こえていた・・・・。 (実話です。不思議なことにそれ以前もそれ以降も、彼女をその場所で見ることはありませんでした。もしも僕だけに見えていた「なんでだろうおばちゃん」だったらどうしよう・・・・。ゾ〜。) |