其之七拾蜂『七海、危機一髪!〜裸一貫篇〜』の巻 |
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目が痒い。 舞城王太郎の九十九十九(ツクモジュウク)ならば、目玉をくりんと取りだしてバショバショ洗うことも可能なのだろうが、残念なことに僕の体にはそんな機能は付いていなのだった。 ヲヲ〜ゥ。まだ二月だと云うのに、黄色い悪魔は今年も僕らを蝕んでいく。 突如如月にやってきた「三月上旬並みの気候」のせいで、目の端が歌舞伎役者のように赤く縁取られてしまった僕なのであった。 ようこそ、魔の花粉症大世界へ・・・・。 イヨヲ〜〜ヲ、ポン! ポン、と云えば、昔ガス管を折ったことがある。 風呂場のガスの元栓を閉めようと、少しばかりチカラを込めて押し捻ったところ、ソイツは壁からペコリと折れた。 「は?」 我が手よりぶらんとぶら下がった元栓を見つめ思う。 「わ〜い、僕ってチカラ持ちィ〜」 そんな場合ではないのである。 落ち着け、俺よ。 シューシューシューシュー・・・・・。 こうしているうちにも壁からポッカリ空いた穴からは、ガスが漏れに漏れまくっているのである。おお、貴重な地球の資源が、大気中に還っていく・・・・。 落ち着いている場合か、俺よ。 ちぎれたガス管を放り出し、風呂場を出る。そこでふと足が止まった。 これでもし「ボン!」などということになれば、わしゃあ裸一貫で救助されることになる。「それはいかん!いかんよ明美君!」頭の中の七海教授が力説する。うむ、さすがは教授。ちゃんとバスタオルを巻こう。 そこから先は早かった。 走る、走る、僕。 両親の寝ている部屋の襖を開け放つ! バン! 「ガスだ〜あ!ガスが漏れちょるんじゃ〜あ!!」 どうだ、この緊張感漂う台詞。 バスタオル一丁で走り込んできた舞台役者のような僕の姿を見て、何かを感じ取ったらしい両親はパジャマ姿で僕の後に続く。 風呂場では相変わらず地球の資源が勢い良く吹き出ていた。窓が開いているものの、周囲は相当「七海家ガス自殺未遂」的な匂いが漂っている。 「どうしたのコレ!?」 叫ぶハハに、 「折れたんじゃあ〜!ガス管が折れたんじゃあ〜!!」 必死の形相で説明する入れ歯フガフガ状態の僕。 しかし、この時ほど両親の姿が頼もしく思えたことはない。 風呂場の前で地団駄を踏むのが精一杯な僕を後目に、ハハは家を飛び出す。玄関横の小さな扉をグアンと開けると、すぐさまガスの大元を閉める。おお!風呂場からシュウシュウいう音が消えているではないか!!凄いぞハハ! 父はと云えば、ガスが止まったことを確認するとすかさずご近所周りをし、「ガスが漏れた」ことと「ガスが散りきるまで火を使わないで欲しい」ということを説明して回っている。さすが総務職!!アフターケアも完璧だ! 両親の活躍を風呂場前でジ〜ンと噛みしめていた僕に、外から戻ってきたハハが感心したように云った。 「こんな時なのにバスタオルはちゃんと巻いてるのねェ〜」 んなッ! い〜い〜た〜い〜こ〜と〜は〜そ〜れ〜だ〜け〜きゃ〜!!! こう見えても僕はジェントルマンやからね。ジェントル七海やからね! こうして事なきを得た我が家の『ガス管ぽとりと落ちたよ』事件であったが、次の日業者の人に調べて貰ったトコロ、七海家他数十家族を収容していた社宅アパートのガス管が弱くなってきていたことが明らかになったのであった。 見ろ! 別に僕だけがムキムキ怪力だったワケではないじゃないか! 危うく「ガス管を折った女」として農家に嫁に出されるところだった・・・。(農家の嫁にはチカラが必要) その日から早速ガス管の工事が行われたのであった。 僕は社宅の民を危機に曝した。 が、僕は社宅の民を救ったのだ。 もう誰もそこでガスの元栓を折ることはないだろう・・・・。 (今の僕の実家は持ち家でしかもオール電化なので、ガス管が折れる心配はまったくありません。安心してお風呂に入れます。) |