其之八拾『黄色い悪魔、ヨモギでニャー!』の巻



 今年も黄色い悪魔がやってきた。
 う〜んスギ花粉よ。今の僕は、貴様の一族を根こそぎ地球から引っこ抜いてやりたい気持ちでいっぱいだぞ〜ゥ。
 自然保護団体の皆様から正座の上お叱りの言葉をいただきそうな発言ではあるが、スギ花粉アレルギー者にとって杉とは、それほどまでに憎むべく樹木なのである。
 幼き頃よりスギ花粉に悩まされてきた僕は、小学校五年生の時に卒業式の練習で大泣きし、半笑いの先生に「七海〜。感動しすぎだぞ〜。」とたしなめられた経験を持つ。
 なんたる誤解!なんたる屈辱か!!
 卒業式の練習で大泣きする在校生がどこにおるものくァ〜!!
 ワシのこの涙はスギ花粉によるもの!そしてこの絶え間なく溢れる鼻水もまた、スギ花粉によるものであることを、誰か証明してくりゃれ〜!!
 なんならスギ花粉!貴様でもいい!僕の大泣きが「オイラの仕業なんだよ〜ん」ということを世間に知らしめてやるのだァ!!!

 しかししかし、嗚呼、しかし。

 物言わぬスギ花粉は、ただそこに漂うのみ・・・・。
 時は昭和50年代半ば。
 まだ『花粉症』が世間に広まる前の出来事であった・・・・。
 僕は先生が膝にのっけてくれた箱ティッシュを見つめながら、唇をギュウと噛みしめた。
 そしてココロの中で叫んだのだ。
 (スギ花粉の意気地なし〜ィ!アンタ、こんなとこでワイを泣かしとる場合ちゃうやろ!?アンタはもっと有名になれるヤツや・・・!もっとデカイ夢持ちや!日本中を泣かせて、鼻の粘膜を征服する・・・・。「スギ花粉」と云えば、人が逃げまどう・・・・それくらいビックなヤツになる、ぐらい云えんのか、この根性無しの酔いどれ花粉があ!!)
 よかれと思って云ったのだ。
 よかれと思って・・・・。
 そのときの僕の励ましが、よもやこんな結果になろうとは・・・・。
 『スギ花粉』は思いの外、ビックな存在になってしまった。
 スマン、日本人!

 アレルギーを調べる検査は、値段が高い。(4000円〜5000円ぐらいするんだよ。)
 それを承知で過去二度ほどアレルギー検査をしたことがあるが、ダントツに飛び抜けている「スギ花粉」の他にも、僕は二つほどアレルギーを持っているようだ。
 ニャーと鳴いて、シャーと飛ぶ。
 そう、僕は『ネコアレルギー』。
 今まで猫のいた密室が解る女・・・。
 大学時代、部室に入るなり、
 「この部屋・・・・・猫がいたね?」
 と、呪文めいた言葉を発した女・・・。
 くせっ毛の人は近くにある水場を髪の毛で察知するそうだが、ネコアレルギーの人間は、鼻と目の粘膜でもってネコがいた部屋を割り出すことが出来る。
 水場はいい。察知出来ると何かと役に立つ。髪がクリンとなってしまう本人には申し訳ないが、もし山道で迷い、カラッカラの瀕死になった時などは、水場を見つけられれば確実に生き残れる。
 しかし、ネコはどうだ。
 ネコのいた部屋を見つけられたからと云って、それがどうだと云うのだ。
 探偵に「あのネコがこの事件の鍵を握っているのだ!探してくれ、七海!」などと云われたら、そりゃあもう喜んで協力させてもらうが、果たして一生の内に探偵に「ネコを探せ」と云われる確率がどれほどあろうか。
 ネコアレルギーだからと云って、別にネコが嫌いなワケでもなく、「クハァ〜抱っこしてえ〜」と思っても、それが叶わぬのが辛いところだ。
 僕もかつて、吉田家のネコ『チャメ』と心ゆくまで触れ合い、心ゆくまで目の粘膜を腫らした悲しい思い出がある・・・。
 そう、僕は、ネコタマに足を踏み入れることの出来ない女・・・。
 ガラス越しには見つめられても、触れることの叶わぬせつなさ。
 ネコアレルギーは、悲しい。

 あんこの入っていないよもぎ餅に砂糖をまぶして食べるのが好きだ。
 モグモグと噛めば、お口の中によもぎの香りが広がる。
 そこでお茶をズズっと一口。
 嗚呼、幸せだァ。
 僕の三つ目のアレルギーは、『よもぎアレルギー』である。
 とはいえ、よもぎ餅を喰って「ハクショイ!」というワケではなく、おそらくそこいらへんに生えているヨモギの花粉だかなんだかわからんものに反応するのであろうと思われる。
 思われる、というにはワケがある。なんせこの『よもぎアレルギー』、僕の中ではスギやネコに比べて大変にアレルギー数値が低いらしく、
 「フア〜クショイ!!ぬあ〜!ここいらへんによもぎあるね!よもぎ生えてるね!」
 などの実感がないのである。
 でなければ今、僕はけっこうなヨモギ取り名人になっていたハズだ。
 本人も実感がない第三のアレルギー・・・・!
 コイツが日の目を見ることがないことを、切に祈るばかりだ。
 だって、『よもぎアレルギー』って・・・・・・・・なんか、微妙なんだもん。

 とあるTV番組によると、今年も約1万3千人のスギ花粉症予備軍が、正式隊員へデビューするらしい。ようこそ、黄色い世界へ。夜光堂でただ一人、肩身の狭い想ひで花粉症を実践している僕は、毎年この季節になると他のふたりを勧誘に行くのだが、ことごとく拒否され続けている・・・・。花粉症の人は吸血鬼のようだ。仲間を増やすことに喜びを感じている。さあ、今年は一緒にボックスティッシュを使おうよ・・・・。発症したあかつきには、縁側でネコを膝にのせてよもぎ餅でも食べようじゃないか・・・・。
 ねえ・・・・。
 ・・・・・・・・ねえ・・・・・・・。(ニタリ)


(花粉症ではない人は「自分は花粉症ではない!」と断言し、発症への不安を払拭しているが、花粉症の人も何故か「今年はもしかしたら突然治っているかも知れん・・・」と根拠のない希望を毎年打ち立てる。そしてそれは、脆くも砕け散り「ハハ、そうさ、思ってみただけだっつうの!泣いてネエっつうの!」と、春を諦めるのだ。)