其之八拾市『入れ歯事件〜神父さんの驚愕〜』の巻 |
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君よ。 君はミサの最中、外国人神父さんに 「あけみサ〜ン、コレハナンデスカァ〜?」 と尋ねられたことがあるか。 君の名が「あけみサ〜ン」でない限り、この確率は大変低いものとなるであろう。しかし驚くことに僕の名は「あけみサ〜ン」であるのだ。 そう、神父さんを困らせた「あけみサ〜ン」とは、まさにこの僕のことなのである。(SE:ババ〜ン!) まだおさげも眩しき小学校低学年だった頃。 僕は入れ歯をしていた。 「入れ歯」とは云うものの、実際にお爺ちゃんやお婆ちゃんがフガフガ填めているアレでは、勿論ない。 「おしぇんべひが、ふまい」 歯の一部を矯正する為のマウスピースのようなモノで、一般的に「矯正」として知られている金具とはまた異なるものである。幼き頃の僕は前歯二本が、中央に向けて引っ込み気味だったので、ソレをかぷと噛むことによって前歯の中央を前に出し、歯列を整える・・・・と、そういった類の治療であったように思われる。 小学生の頃の僕は、常にソイツを噛んでいることを義務づけられていた。 嗚呼、思い出すだけでも辛い、あのフガフガの日々・・・・。 国語の授業中もフガフガ。 算数の授業中もフガフガ。 教科書フガフガ読み。 「はんほほは、ひひほいははへふ〜ン」 ほぼ、「は」行! 「七海さん、入れ歯出しなさい(先生冷静)」 お弁当の時間には、口の中からうにょと取り出し、クラスメイトの度肝を抜いた。 わしゃボクサーかっちゅうの! まだ「イジメ感」の薄い低学年で良かった・・・!高学年でそんなもんを填めていた日にゃあ、「七海、入れ歯〜」などと囃し立てられ、仕舞いには「入れ歯ンばばん」とかワケのわからんあだ名を拝命するところであった。危ない、危ない・・・。 僕の通っていた小学校は、私立のカトリック学校であり、月に一度ほどの割合でミサがあった。学校の敷地内に教会があり、外国人神父さんがカタコトの日本語で行うミサだ。 「それはアレ?中央に立てられた柱に生け贄が張り付けられて、黒いとんがりマスクをした人たちが火の周りをグルグル回るという・・・(友人談)」 違う! 誰が黒ミサを主宰しとるか! ワシか!? ワシではないわ! 幼い僕に宗教など解ろうわけもなく、教会のステンドグラスを見上げて「んあ〜」などと口を開けているのが関の山であった。 どこまでも静寂で、どこまでも清らかなミサ・・・・そんな中、事件は起きたのだ。 我々は神父さんのありがた〜いお話を聞いた後、一輪の真っ白な薔薇を手にしずしずと祭壇の前に進む。 祭壇に白薔薇を置き、神妙に手を合わせる僕。 外国人神父さんは穏やかな笑みを称え、何やらむにゃむにゃと口の中で唱えてから、ぶどうジュース(←子どもなのでノンお酒!)に浸したパンを子どもたちの口の中に入れてくれるのだ。 大抵の子どもたちは、お祈りそっちのけで「ンア〜」と口を大きく開け、それを待つ。 僕も他の子ども同様、神父さんに向けて「ンナ〜フゥ」と口を開けて見せた。 「!?」 神父さんの動きが・・・・・止まった。 口元に浮かべていた微笑みが、ヒクリとひきつる。 神父さんはひとまずパンをお盆に置き、コホンと咳払い。 そして再度口元に笑みを称えながら、こう云ったのである。 「あけみサ〜ン、コレハナンデスカァ〜?カァ〜・・・・カァ〜・・・・・」 「うぬあ〜〜!!しまったあああああああ〜!!」 改め 「オ〜ウ!!!ソウダッタァァァアアアアア〜〜!!(外国人風)」 ぶどうジュース浸しパンにココロ奪われるあまり、口の中の入れ歯の存在を忘れていたハァ!! そりゃあ、子どもの口の中でピンク色したなんやかワケのわからんモンがフガフガしとったら、神父さんも思わず素になってしまうというもの。 だがしか〜し!! その時、僕だって充分素に戻っていた。 (うぬ〜!七海明美、生涯最大の失態!神父さんもまさか日本に来て、こんな目に遭うとは思ってもみまい。みまい、と云えば、この前同級生のしんや君が足の骨を折ったそうだが、みんなは見舞いに行ったのだろうか・・・?) 七海、脳内逃避行中。 いかんいかん、今足の骨を折ったしんや君は何ら関係がない。 今はこのポッカ〜ン顔の神父をどうやり過ごすか、だ。 @「ぬああああああ!!口からエイリアンが〜!!」と、叫びながら教会を飛び出す。 A「ごめんなさい!あたし・・・やっぱりアナタとは結婚出来ません!」と、教会という 場所をフルに活かした設定で乗り切り、最終的に教会を飛び出す。 B強引にそのまま食べに出る。 して、正解は・・・・! 僕は自分の口から入れ歯を取り出すと、ティッシュにくるみポケットに仕舞った。 そして、まるで何事もなかったかのように「ンア〜」と口を開けてみせたのだ。 神父さんは偉かった。 「喰うのかよ!!」ともツッコまずに、僕の口の中にパンを入れてくれたのだ。 おお、なんたる優しさ。 さすがは神の言葉を伝えし者。 神父さんはこのちっちゃき者の罪をお許し下さったのだ・・・・! 僕はジ〜ンとした感動を胸に、パンをはむはむと噛んだ。 ただただ、噛んだ・・・。 しかし、神父さんは許してくれたが、現場には一人、僕のそんな有様を許してくれない者が存在した。 神・・・・ならぬ、担任の先生、である。 「七海さん、入れ歯は、出しましょう」 ギュウと肩を掴まれて耳元で低〜い声で囁かれた僕の立場は一体・・・・。 担任の先生よ。 その腹いせに、翌日仮病で学校を休んだちっさい生き物だった僕を、今なら許してくれますか・・・・? 君よ、入れ歯中のミサに要注意だ。 (美容院よ!新人とベテランのシャンプー料金が一緒なのは間違っている!!僕は新人さんに耳の中に指を突っ込まれ、モニモニと洗われてしまったぞ!!・・・・・そうか、今の美容院は耳の中までシャンプーで洗ってくれるのか・・・・知らなかった・・・・!) |