| 其之八拾志知『坊、これはらいおんなんだ』の巻 |
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トイレの小窓から空が見えた。 真っ青な空に白い綿のような雲がほんわかぱ〜と漂っている。 ぬあ〜。 こんな天気の良き日には、会社のトイレから雲を眺めてなんていないで、どこか外へもは〜と出掛けていきたいものである。おお、しかし我ら会社員は大きく開いたその窓から外へ飛び出すことも出来ぬ身。せつなきせつなき篭のマングース。カモン、ハブ!!(最早意味が解りません。) こうして僕の小さなココロの篭の中でハブとマングースが戦っている間にも、着々と『GW』は近づいているのであった・・・。(GWと云っても勿論緑林寮のことではないので、『花ゆめ』世代はくれぐれも浮き足立たぬよう気をつけていただきたい。『雨やどり』は名曲であります。) 黄金週間。 行楽には金が舞い飛ぶと云う黄金週間。 かく云う僕も二万円をむんぎゅと握りしめ、みどりの窓口で切符を購入した。 勿論、我が故郷東北へと向かう新幹線の指定券である。 人よ。 君よ。 ラッシュ時の新幹線をナメてはいけない。盆・正月・そしてこの黄金週間に、新幹線の車内は完全に『ただの電車』に成り果てる・・・! デッキには荷物を座布団代わりにしたお兄ちゃんたちが座って漫画を読んでいる。そして通路には「立ったまま目的地へ向かうぜ!」という豪気な人々が立ち並ぶ・・・。そこにはもうゆったりのんびり長旅を過ごす、というスタイルなどどこにも有りはしない。 そう、こりゃあもう新幹線ではないのだ。ただの電車なのだ!停車駅から停車駅までが異様に長いただの電車なのだ!!(SEぱぷ〜!) そう思えば、通路に立っている人に自分が食べている弁当についてコメントされようが、読んでいる本を一緒に読まれても何も不思議なことはない。不思議なことなどないのだ!・・・・・しかしやはり気になる。 ぬう。 ラッシュ時に通路側の席は失敗だったか・・・。(閉所恐怖症の為、窓際よりも通路側を望む。) オバチャン・・・あなたの肩かけカバンが僕の左後頭部にぴったり密着してるんですが? オッサン・・・おいらのお弁当がそんなに気になりますか?え?ええ、これはエビです。 そして子ども!! 僕の視界に入ってくるんじゃない、子ども!! 大人はまだいい。座って下を向いていれば、僕の目に映るのはフトモモだけだし、上から降ってくる声をサラリと流せばそんなに気にならない。 しかし子どもは違う。 ちょうど座っている僕と同じ目線に、奴らは存在するのだ!! ヤメロ!やめたまえ!! そんなつぶらな瞳で僕を見るな! 「なんで座ってるにょ〜?なんで僕は座らせてくれないにょ〜??」みたいな瞳で見るんじゃない!!この際だからキッパリ云っておくが、僕はお金を払って指定券を買ったからこそココに座っているのだ、わかるか子らよ?おまえらのようなおむつぱむぱむの子どもに、僕の稼いだお金で買った席を譲ってなるものか!(大人げない・・・) まだ言葉を持たぬらしきその子どもは、その後も大きな瞳で僕に質問を投げかけてきた。 「なにたべてるにょ〜?おいしいの?それおししいの?」 ああ、おいしいさ!!おかあさんが持たせてくれたクッキーさ!! 「なにみてるにょ〜?おもしろいにょ〜??」 京極夏彦さ!!おもしろいさ!!厚いので長旅には持ってこいさ!!ふっふっふ、しかしオマエに妖怪のことが解るかな・・・?? ええい、ページがちっとも進まないではないか! 仕方なく、ペットボトルのお茶をコクンと一口呑む。 そして再び、本のページを捲った。 その時。 事件は起きたのだ。 事件は会議室でおきてるんじゃない、新幹線の車内でおきてるんだ。 室井さんもビックリの、僕を見舞った事件とは・・・・!! 子どもが僕の読んでいた本に小さな人差し指をのっけ、 「あだ〜」 と、一言・・・・!! あ、あだ〜???あだ〜って何だ? ついに子どもは領地侵害を起こしてきたのだ。 子どもの小さな指の先には妖怪の絵が・・・・。 「ど、同志よ・・・!」 幼くして妖怪好きとはなかなかやるな坊主・・・!! 僕が思わずニヤリとした時だった。 坊主はもう一発、「あだ〜」と発した。 坊主の目を見れば、明らかに「これなに?」と僕に問いかけている。 なにいいいいいいいいいいい!?? この新幹線の真ん中で幼児相手に妖怪のなんたるかを説かねばならぬのか・・・!! 仕方ない。 この指に気付かなかったことにしよう。かまわずページをめくっても、その指はしおりの如く妖怪画のページにぴったりとハマったままだ。ぬう、やるな小僧。コイツは思いも寄らぬ頑固者だ。将来はきっといい親方になることだろう。 僕はその坊主の頑固さに負けた。 こんなときには・・・・そう、ヤツにとって最も影響力のある存在!!ズバリ『お母さん』に助けを求めてみよう!!(情けな〜・・・) 僕は「いや〜困っちゃいましたよ〜」みたいなヘラヘラ笑いで、お母さんに気付いてもらうべく顔を上げた。 さあ、気付け!気付いてくれお母さん!! そして「アラアラ、駄目でしょたっく〜んっ。御免なさいね〜。」などと云いながら、さりげなく僕の本からたっくん(仮名)の人差し指を抜いてくれ!! しかし、そこに待っていたのは僕にとってさらに残酷な現実だった。 お母さんは確かにそこにいた。 片方の手で坊の片手を握り、そしてもう片方の手で座席についている手摺りにつかまったまま・・・・。 ね。 「寝ちょるうううううぅううううううう!!!???」 母は寝ていた。 首をカクンと垂らし、子どもを連れての旅の疲れか、立ったままスウスウと穏やかな寝息をたてていたのだ。 僕にはもうどうにも出来なかった。 立ったまま寝る母も、人差し指をはさめたままの子どもも・・・。 ただただ呆然として妖怪の描かれたページを見つめていた。 だからラッシュ時の新幹線は嫌いなのだ。 僕は腹を決めた。 「坊、これはな、らいおんだ」 坊主の目がグウウウと大きくなる。 嗚呼、やはり子どもに嘘は通用しなかったか・・・!? すうと坊主のひとさし指が本から消えた。 おお!こ、これは・・・!! 「坊、らいおんなんだ、わかるか?」 坊主は口を半開きに開けた。 たらたらと輝くヨダレを流しながら、コクンと確かに頷いたのだ。 ただの電車と成り果てた新幹線で、こうして一つの奇跡が生まれた。 トイレの小窓から見える雲は、まだゆっくりと漂い続けている・・・・。 今年も帰省の季節がやってきた。 (『迷宮のクロスロード』見ました!こんなに長く平次を見ていられるなんて・・・なんて幸せなんダァー!でっかくなった(いや元の姿なんやけど)新一とのツーショットも嬉しいひとときでありました。ビバ!平次!ほんっと、参りました。) |