其之九拾壱『旅ゆけば・第二章〜土産物とはかくあるべきだ!土産物・その美学〜』



 ヲヲ、美しき沼の景色よ・・・・。
 人よ、君よ、沼と聞いて怖るるべからず。
 福島県に位置する五色沼の水の色はそれはそれは美しき色合いを湛えている・・・!
 「沼」と聞いて一般的に思う色と云えば「魔女の作ったスープ色」「ガマガエルの背中色」「毒色」「なんっていうか、その、息を吸ったらヤバそうな色」等であると思われがちであるが、五色沼は違う!
 我々が訪れたのは五色沼の出発点である毘沙門沼を始めとして、五つある沼の色が絵の具でも溶かしたかのような鮮やかな色をしているのである。
 毘沙門沼は鮮やかなグリーン。
 触れれば冷たいその水は、日の光を浴びてキラキラとエメラルドグリーンに輝いている。しかしそれでいながら決して不透明なのではなく、透明感に溢れ、涼やかな雰囲気を漂わせている。
 ボートを漕ぎ出すカップル多し。
 目を上げれば鮮やかな空の青、水面に落とせば透き通るグリーン、そしてその中間には遠く雪をかぶったままの山々がそびえている。
 ビバ、自然!
 さらには東北では五月頭が見頃の山桜が、ヒラヒラと舞い、沼の水面に着水する様は、なんとも幻想的ではあるまいか。
 シンと胸を揺らす僕の後ろでは、一体どんなトラウマがあったのだろうか、カップルの乗ったボートに向かって毒電波を送る子どもが一人・・・。
 「沈め〜・・・・沈めぇぇぇええい・・・・」
 彼の将来が心配です。
 ちゅうか、自然を見よ坊主!水面の緑は、空の青は、雪の白は、桜の桃色は、きっと君の疲れた心を癒やしてくれることだろう。嗚呼、そうだろう。きっとそうだろうて。
 毒電波はいかんよ!毒電波は!
 カップルはニコニコ笑っている。
 この五色沼、実は五つの沼全部を歩くには結構な距離がある。
 我々は、第一の沼・毘沙門沼だけを回って、駐車場に戻ることとした。
 五色沼の駐車場には比較的大きな土産物売場がドデンと構えている。ぬう、地方の土産物ハンター七海としては、是非とも押さえておきたい魅力的なポイントである。こうした土産物売場には、時として「何故!?」と目を剥く珍品が売られていることがある。
 「一体誰がこのようなものを考案し・・・」
 「一体誰がこのようなものを買って帰るというのか!?」
 そんな珍品土産物・・・きっとこの大きなフロアにもあるに違いない。
 ハハがナメコの瓶詰めを穴が開くほど見つめている隙に、僕は土産物フロアを探索に出掛けた。
 民芸品、模擬刀、陶器などの「う〜んあるある!」という品物の他にも、よくよく目を凝らせば「ピカピカと光る髑髏バッチ」などの「沼関係あれへん!!」とツッコミ所満載な品物が顔を覗かせている。
 そんな中、ひときわ僕の目をひいた品物があった。
 「ヲヲ!こ、コレは・・・!!」
 それは一見普通のリストバンドであった。
 よくよく見れば真っ黒な生地に、赤の刺繍で文字が刻まれている。
 『忍』!!(SE:ババ〜〜ン)
 忍んでね〜〜〜〜〜!!!!!
 黒字に赤て!めちゃめちゃ目立っとるやないか〜〜〜いいい!!
 しかも沼関係ナシ!一切合切関係なし!!沼は忍ばんしね!!
 いやいやわからんぞ。カップルがギコギコボートを漕いでいた沼の中に、ひっそりと竹で空気を補充する忍者がいたとしたら・・・・???
 神秘の国日本、有り得ないこととは云いきれまいて。
 僕はそれに惹かれた。
 だいたい、仮に買って帰ったとしても、一ヶ月もすれば一体どこに行った時の土産物ものなのかわからないあたりが良い。友達などにあげた日には、あっと云う間に小物入れの肥やしになること請け合いであろう。
 それもまた潔し。
 後々「嗚呼、どうしてこんなくだらないもの買ってしまったんだ・・・・」と悩むこともあろう。だが、それこそが土産物の醍醐味なのではないのか?!
 僕はかつて自分で買って帰ってきた「会津」と書かれたタペストリーを前に、ガックリと頭を垂れたことがあるが、やはり土産物たるものこれくらいのマイナスインパクトをブチかますくらいでなければ生き残れないのだ!
 そう、だから買おう。
 僕はこの『忍』リストバンドを。
 そして二年後くらいにタンスの整理をした際に「こ、これは一体・・・」と途方に暮れるのだ。
 フルフルフル・・・・と、僕がそれに手を伸ばしたその時であった。
 「あ〜けみ〜ぃ。味噌お団子食べる〜ぅ??」
 「喰う〜〜!!」
 おお、怖るべしハハの一言と味噌の香り!!
 僕の意識は一瞬にして味噌団子に飛んだ。嗚呼、炭火の上でピチピチと焼ける味噌の香ばしさ!プクプクと膨れる団子の柔らかさ!!日本の心、ここにあり!(SE:ザップ〜ン)
 コブシほどの大きさのある団子をむっちり噛めば、味噌の味と団子に刷り込まれた甘さがお口一杯に広がるのだ。モシャモシャと団子を噛みつつ、我々は車に乗り込んだ。
 嗚呼、五色沼よ。
 君は美しかった。
 そして団子は美味しかった。
 串をぺろりと舐めて、僕はハッと気付いた。
 「し、『忍』〜〜〜!!戻せ〜〜〜!!戻してくれ〜〜〜〜いい!!」
 そんな僕の叫びを乗せて、福島の風は今日も爽やかだ。
 土産物には相性がある。僕が団子に心を浮つかせたその瞬間に、『忍』の心は離れていったのだ・・・。さすが日本を影で操る者、裏切り者には容赦しないというわけか。
 皆様、五色沼にお越しの際には是非とも僕の為に『忍』リストバンドを購入あれ!!


(次回は福島の山を越え、山形突入だ!ちゅうか続くね、コイツあ!)