| 其之九拾嗣『旅ゆけば・最終章〜僕とみんなと学校と〜』の巻 |
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昔、僕の通っていた学校には旧校舎があった。 ギシギシと軋む床だとか、真ん中だけが妙に磨り減った木の階段だとか、ガトガト鳴らして閉める曇りガラス扉だとか、そういうもんが詰まった木造校舎だ。木目に添って雑巾掛けしてやらにゃならんかったり、窓の鍵がピンみたいなのを差し込んでクルクル回して閉めてやんなきゃならんかったり、冬になると隙間からビュウビュウ北風が吹き込んできたりと、なにかと面倒臭い奴ではあったが、悪ガキどものしょうもない毎日をニコニコ笑って見守ってくれているジジイのようで、ほんのり愛すべき存在であった。 僕らが小学校の時なんかは、学校の敷地内に鉄筋の新校舎と木造の旧校舎が同居しており、僕らは学年や授業の都合で二つの校舎を行ったり来たりしていたものだった。 しかしその愛すべくジジイの姿を見ることは、もうない。 木造校舎は、僕の通っていた学校も含め相次いで取り壊され、すっかり姿を見なくなってしまった。 しかし。 宮城県登米(とよま)町に、そんな懐かしい木造校舎がまるまる残ってるちゅうんで、七海家はワクワクと出掛けていったのだ。 車を走らせること暫し。 目の前にでっかい木造校舎がグアアアアアアアアアアアアっと現れた時、僕ぁなんだかホロリと涙が出そうになっちまっただよ。 懐かしい。 なんちゅうか、これぞ『学校』てな感じだ。 木造校舎を使ったことのある者は、ずべからく登米へ行くべきだ。 門を入れば、すぐ左手に二ノ宮金次郎の銅像がすっくと立っている。背中には薪、手には本を持ち、まさに一歩を踏み出そうとせんとしているその姿。思わず「に〜のく〜ん!」と走り寄ってしまった僕を、一体誰が止められよう。早速記念写真、パチリ。 桃色舞い散る八重桜。 その桜越しに使い込まれた濃い茶色の校舎が現れた。 コの字型の木造校舎。 入館料を払うと中を見られるっちゅうんで、早速中へ。 この校舎、今なお残されているだけあって、そこいらの校舎とはひと味違う。なんちゅうかお洒落なのである。まず、昇降口が六角形状になっていて、下駄箱さえなければちょっとした洋館のような趣である。さらに、二階建ての校舎にある廊下全てが吹き抜け状になっている。云うなれば、別荘のテラスが教室の外に延々続いているようなものだ。冬は外気に晒されていたこの廊下、一体生徒たちは雪の日などどうしていたのだろうか。謎だ。実際に二階部分の中央は、「テラス」と称された小さな広場になっていて、子どもらが休み時間にそこの白い手摺りにもたれて「今度の宿題」だの「何組の○○君」なんかの話をしていたのだろうことが伺える。 二十ほどの教室の中には様々な展示物があって、その中には実際に使われていた木の机なんかが並んでいたりするものもある。 教師の真ん中にはでっかいストーブ。 黒板には先生用のでっかい算盤。 教壇の横には「ちょうちょ」の楽譜がのった足踏みオルガン。 小学生用の小さな椅子に座って黒板を見上げる。 チョーク、黒板消し、教科書。 三角形のゴミ箱が部屋の隅に置かれている。 学校ほど「懐かしい」と人の心震わせる場所はないかも知れない。 「ん〜、懐かしいにぇ〜」などと思っていたら、隣で木造校舎直撃世代であろう我が家の父とハハが、やっぱりそんな目で教室の中を見渡していた。 ハハのリクエストで足踏みオルガンをヘコヘコ弾く。 ガッチリとした踏みごたえ、固くて大きい鍵盤。 ブヲ〜っと絞り出すように音が流れ出た。 弾き終わったら何故だかみんなでニヘニヘと笑った。 教科書、お手玉、おはじき、金魚のじょうろ。 昔の『学校』に関わるいろんなものが展示されている。 ハハが上手に三つのお手玉を片手であげてみせた。 人生の中、誰もが必ず立ち寄る場所。 そこに訪れていた人たちみんな、どこかしらはしゃいでいた。お爺ちゃんが先生用の大きな算盤を指で弾きながら、「僕の時は下の段5個玉だったよなぁ」なんて云っている。上品なお婆ちゃんがオルガンで曲を奏でている。僕のお父さんもなんだがいつもよりシャッターをきる回数が多いみたいだ。お母さんは展示室で自分が使っていた世代の教科書を探そうとガラスケースを覗きこんでいる。 校長室に入る時には、思わず一礼。 「失礼します!」 年代は違えども、同じ目線で楽しむことの出来る『学校』は、そこに居る人みんながまるで同級生みたいな感覚になれる場所であった。子どもである僕にとって親はもう既に「大人」だったけれど、僕がそうだったように、父さん母さんにも、爺ちゃん婆ちゃんにも、確かに学校で過ごした子ども時代があったのだということを感じる。 帰りに立ち寄ったお土産売場には、3pほどの小さなランドセルがぶら下がっていた。 欲しいな、と思ったけれど、なんだかこういう懐かしい気持ちはやっぱりこの校舎に残していったほうがいいような気がしてやめた。 この校舎で学んだ子どもたちの想いと、我々のようにここを訪れた人たちの気持ちが、この木造校舎に染みついてさらに味わい深いものにしているのだろう。 「大人」であることに疲れたら、すべからく登米に行くべきだ。 木の階段に腰掛けて窓からぼんやりと空を見よう。 後ろ髪をひかれつつ校舎を出て、その姿を振り返る。 風が吹いた。 舞い散る桜を受けながら、ジジイはやっぱりそこに、ニコニコと笑ってただ静かに佇んでいた・・・。 (登米では他にも昔の警察署などを見ることが出来るのです。展示品のパトカーとか白バイに乗ることも出来ます。そりゃあもうワシ、ノリノリで乗っとりました。ガキに混じってサイレン鳴らしたり、赤いの点灯させたり・・・。ちゅうか阿呆丸だしやね!登米は小さな町ながら、見どころ多い場所ッス!宮城県に行かれた際には是非とも足を伸ばしていただきたい。旅行けばシリーズはひとまずこれにておしまい。次回からは僕の思考範囲箱庭5pの世界から通常営業でお送りします。) |