其之壱百弐『花火の夜、キムチの夏〜魚肉ヲトコの奇行〜』の巻



 花火だ。
 花火の季節がやってきたのだ。
 我が家近辺からも駅一個分離れた場所で行われている花火を拝むことが出来る。
 「んん〜いいニェ〜!大江戸ロケットだニェ〜!玉屋清吉だニェ〜!」
 などと、劇団☆新感線好きにしかわからんような事を叫びつつ、数人の友人連中と共に、僕も花火を見にブラリ外へ出掛けていったのだ。
 ビルやら家やら木やらの障害物を避けて、空のよく見える場所をキープ。人様んちの塀を勝手に拝借して、ヨッコイショと寄りかかる。
 我が家の近所の歩道は、この日、僕らみたいなヤツラで一杯になるのだ。
 阿呆な中坊連中が「ウエヘヘ」笑いながら、アイス片手にガードレールに座っている。
 甚平姿の親父さんは、まだ小さな娘にせがまれて肩車だ。
 ババァ連中は小径に椅子を並べて、ホヤホヤと微笑みながら空を見上げている。
 手にしている団扇がババァの手の動きに合わせて、ゆらりゆらりと不気味に揺れた。
 「んあ〜」
 でっかい花火があがると、あちこちで声があがる。
 僕らもポッケに忍ばせてきたスルメをハムハムと食べながら、近くの自動販売機で買ったジンジャーエールをグビグビ飲んだ。
 「いやあ、夏だねえ」
 「んん〜、人生駄目になるねえ」
 などと言い合う姿は、まさに真夏の駄目人間脱力系そのものである。
 真っ黒な空に赤や黄色や緑色の花が次々に咲いていく。
 んん〜、にわか江戸っ子とは、この気分か。
 腹を揺るがすような振動がいつしか心地よく感じられる。
 と、ふとごくごく近辺から何やら不気味な呟き声が・・・・??
 「食べてえ・・・・食べてえな・・・・」
 さすがは夏だ。
 おアシのない人までふらり浮かれ出てくるとは。きっと心太かスイカかかき氷か、とにかくそういうもんを食いはぐって死んだ人の霊なんだろうなァ〜。
 花火を見ていると、何もかも寛大に受け止められるから不思議だニャ〜ァ。
 ・・・・って、そんなわけがあるかい!!
 「誰だ、さっきからワケのわからんことブツブツ云ってるヤツァ〜!!」
 振り返れば、ヤツがいる。
 塀にもたれて座っていた影の中からグワバッと立ち上がる一つの姿。
 んん?
 「俺は・・・・」
 押し殺した声。
 しまった。誰だか知らんが怒らせてしまったか?
 いやしかし、火事と喧嘩はお江戸の華。受けてたっちゃろやないか〜い!!かかってこんかいワレィ!!
 コブシ握りファイティングポーズをかます僕をキッと睨んで、彼は驚きの一言を発した。
 「俺は・・・・、魚肉ソウセイジが食べたいんだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっぅぅぅ!!!」
 「・・・・・・・・・・・・・・は?」
 「駄目だ。ちょっと行って買ってくるわ!」
 ぽにょんぽにょんとビーサンのゴム底を弾ませながら、彼は駆け出していった。
 「何か美味しそうなものあったら買ってきてね〜!」
 誰かが彼の背中に向けて叫ぶ。
 ギョ、魚肉ソウセイジ?(←彼の発音は間違いなく「ソーセージ」ではなく、「ソウセイジ」だった・・・。)
 その日が魚肉ソウセイジヲトコと初対面であった僕は、隣で何事もなかったかのように花火を見つめている彼のカノジョの袖を引いた。
 「てえか、彼は・・・・どおゆう人なの?」
 「ああいう人なのよォ」
 花火の光で頬を緑色に染めながら、カノジョはニッコリと笑った。
 ・・・・参った!!
 突如魚肉ソウセイジを食いたくなって叫びだすヤツもヤツだが、そんな男を「困ったわねェ」みたな顔をしつつも本当はビタイチ困ってなどいないであろうAヤコさんは大物だ。
 その後30分ほどして戻ってきた魚肉ヲトコは、ホクホクとしながら大きなスーパーの袋を抱えていた。
 「いやあ、いろいろ安くなってたから、ついつい買いすぎちゃったよォ〜」
 アイスやスナック菓子なんかと共にサラリと袋から出てきたのは、なんとニュルンニュルンのイカ刺しであった。
 ・・・・・・・・・・コイツ、天然なのか?
 どうしろってんだ、この道路の真ん中でイカ刺しを!!!
 しかもワサビはついてても醤油がネエじゃねえか!!
 仕方ないからみんなして道路の真ん中でイカ刺しを喰う。イカの素材をフルにイカした状態で、ハグハグと手で掬い喰いだ!!
 さっきまで「わあわあ」と馬鹿みたいに騒いでいた中坊たちまでもが、呆れ顔で我々の様子を窺っている。
 おお、少年よ。
 馬鹿な大人になっちゃイカンよ!!
 少なくとも道路でイカ刺しを醤油もナシに手で喰うような大人になっちゃイカン。
 その後も、魚肉ヲトコは袋の中から様々な食材を取りだしては仲間に配っている。
 そんな魚肉ヲトコが僕の前にやってきた。
 「はい、七さん(←てえか渋くねえか、その呼び方)にはコレね」
 ・・・・・・・・・・ギ。
 ギャース!!
 キ、キムチィィイィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!
 しかも360gって!!どっしり重いわい!!
 どうせえっちゅうねん!!!
 生キムチを、ど・お・し・た・ら・え・え・ね・ん!!!(←怒りを込めて1音ずつ)
 隣をチラと見ると「ごめんなさいねえ」みたいな顔のAヤコさんが、魚肉ヲトコから貰ったらしいガリガリ君ソーダ味を小さく振っている。
 仕方ない。
 僕はキムチを喰らった。
 ベロリとフィルムを剥がし、真っ赤に染まった白菜を指で摘んで、和風生キムチをハグハグと喰らったのだ。
 んん〜、まさかキムチを喰らいながら花火を拝むことになるとは思いもよらナンだ。
 ジンジャーエールをぐいと煽りながら、キムチを喰らう。
 最初はゲラゲラ笑っていた友人連中も、そのうちフラリとやってきて僕に抱っこされたキムチ樽からキムチを摘んでハグハグを喰い始めた。
 花火とキムチは案外合うかも知れない。
 バウン、バウン、と、空にはさらに多くの華が咲き始めた。
 過ぎていく夏を僕らは確かに感じていた。
 キムチを喰いながら・・・・。
 ドオオオォォンン。
 ドオオオォォォンン・・・・。
 いや、でも、
 やっぱキムチはネエよなッ。(怒)


(Aヤコさんに「この話を書いてもいいか?」と聞いたら、快くOKしてくれた。あらためて書いてみたところ、魚肉ソオセイジ男O太君の行動は本当に奇行としか云いようがなく、本当に書いて良かったんだろうか、と今更ながらに僕は思う。)