| 其之壱百娯『温泉記〜山形県白布温泉御肉之怨篇〜』の巻 |
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バスケットに血圧計(ハハ用)とナシを詰めて、七海家は向かった。 どこへ? 山形へ! 今年の夏、七海家はポカンと一発山形県は白布(しらふ)温泉へ行って参りました。 命の洗濯じゃあ〜。 ザッパ〜ン。 山深く、その傾斜と共に段々と連なって建っている、それが白布温泉である。なんでも世界的にも珍しい白い猿が出没する地域とのことで、なんちゅうか、目と目が合ったら「ンンゴォ〜!」と一発叫んでやりたいものである。(そしたらきっと白猿が「シュゴォ〜!」と叫び返してくれるに違いない。←妄想) お湯は無色透明である。一生懸命クンカクンカ嗅げばかすかに匂いがするものの、なんちゅうか「おおおお〜!今、わしゃあ温泉に入っとるぞ〜!」感が薄い温泉で、濃ゆ〜いお湯大好きな七海家には少々不評であった。仲居さんが頻りに「うちの温泉は本物ですから!」と強調していたが、大丈夫だぜ、仲居さんよぉ。温泉を偽造している所はそれらしく見せるために、きっともの凄い色がついていたりするに違いない。逆にここまでシンプルだと、本物感が漂ってくるぜ。推理小説で云うとアレだ、「アリバイがハッキリしていた最もあやしくない人物こそが、実は真犯人であった!」みたいなものだ。策士は策に溺れるなかれ。やはりあるがままが一番である。 部屋数わずか13部屋と云う造りの建物は、縁や枠に黒を使用したモダンな色調で、木を使った間接照明が大変美しい。なんせ静かだ。山の中という環境もあり、夜にはただ虫の音と少し離れた場所を流れる川の音だけが流れる。 僕らが泊まった宿は、まさに「心遣いの宿」。 夜用・朝用、二枚の浴衣が用意されているのをはじめに、靴下タイプの足袋、ソーイングセット、絆創膏、綿棒・・・。トイレには甘い匂いを放つ匂い袋。ロビーにはお香。一回使い切りのバスタオル。そして極めつけは、なんちゅうても「鈴虫」である。 ロビーへと降りる階段を下る際に聞こえてくる「リリリリ・・・・」という音。 「ムッ?鈴虫じゃないかあ〜。いや〜、さすが山の中だにゃ〜」 などとのほほんと思いつつ、ロビーに降りていった我々を待ち受けていた衝撃の真実とは!? 「ん?こ、これは・・・・ッ!!!」 飾り棚の下にこそっと置かれているそれは・・・・。 「む、ムシカゴオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」 見れば中で鈴虫リンリリーン!! か、飼っているのか・・・・!! SE(効果音)として飼っているというのか、鈴虫をッ!? むう、恐るべし「心遣いの宿」。 これはもうまさに演出だ。誰かがこの旅館を演出しておる。しかも鈴虫、メロンとか喰ってやがる。凄い待遇だ。鈴虫のくせに。 演出、と云えば、なんちゅうか仲居さんもなんだか演出がかっているような気がする。食事は懐石料理で、お洒落な料理が時を見てはポテポテと運ばれてくるのだが、とにかくどの仲居さんも喋る喋る。 「お箸のほう進んでますか?」 に始まり、 「こちらの料理は山形の名産でナンタラカンタラ・・・・」 ちゅう料理の説明が延々続くのである。 ガツガツ喰いたい僕としては、「オマエの説明はどうでもエエんじゃボケェ!さっさと飯喰わさんかい、この酔いどれウサギがぁ!!」という気持ちこの上ない。それを我慢して「ふぅむ・・・。ほほぅ」などと相づちを打つ気弱な僕。嗚呼、ここでこの仲居をメコっとやれたらどんなにかスッキリすることだろう・・・。 などと思いつつ、密かに、あくまで密かに、食事のメインとしてやってくる米沢牛(なんせここは山形だ)のしゃぶしゃぶに心躍る僕なのであった。タレは定番のポン酢と、宿オリジナルだという辛めの味噌ダレ。んん〜、肉はいい。僕の心の中では既にお肉のお祭り実行委員会が祭の用意をすべく動き始めていた。 そこへ登場、お肉様。 「とてもいいお肉なんですよぉ。そのままでも食べられるくらいのお肉ですからぁ」(仲居談) ちゅうか、んなことはどうでもいいのである。 米沢様(お肉)と野菜の乗った皿が置かれる。 ぬゥ。 野菜なんちゅうもんは肉食七海、むしろ必要ないのだが仕方あるまい。(ちゅうかしゃぶしゃぶにおける野菜の存在を忘れていたよ、僕ぁ)先にさっさと片づけて後々ゆっくりと米沢様をいただくとするか・・・。 「では、最初に私のほうでちょっとやらせていただきますんで・・・」 んんんなああああああああああああああああああああああああああ!!!!??? やる!?やるって何をサ!? 呆然とする肉奉行の前で、仲居はスイスイと肉を泳がせ、僕らの皿にぽやんと滑り込ませた。あ・・・あああ・・・・・。(呆然) その後仲居は「もうほんとにこのぐらいお湯に通す程度で・・・」などと云いつつ、野菜をドバドバとしゃぶしゃぶ鍋の中に投入し始めた。ああ・・・ああああ・・・・・。(泣) 貴様に云われんでも肉の程良いしゃぶしゃぶ具合などお見通しじゃわい!!ちゅうかもう仲居!!もひとつ仲居!!俺が嫌いなのか仲居ィ!!怒らないから正直に云ってみろ、僕のコトが嫌いなんだろう?なん、だ、ろう・・・?? 僕はククウと折れんばかりに箸を握りしめながら、仲居がしゃぶしゃぶったお肉を喰らった。 「うう、うまいよゥ・・・・」 米沢牛はやはりうまかった・・・。 朝、ロビーには彫物師の爺さんが現れる。 山形で有名な鷹だの、白猿だの、フクロウだのの彫り物を売りにやってくるのだ。 爺さんは云う。 「おねえちゃん、その白猿のちっちゃいやつ一個持ってっていいヨ。」 見れば一個500円の値札。 「え、マジでいいんすか?」と問えば、「あげるよ〜」と軽いお言葉。んだよ、ジジイ、いいとこあんじゃネエか、とニヤリ笑いつつ有り難く白猿500円をいただく。きっと遠く離れた孫の顔でも思い出したに違いあるめい・・・・。すると隣にふいっとやってきた我がハハにも「その白猿のちっちゃいやつあげるよ〜」・・・って、ジジイ、女性全員ターゲットかよ!!(笑)親父殿も一緒にやってきたのだが、もうジジイ、親父殿なんか全然無視でやんの。二人の子どもとしては「んん〜、うちのお父さんにも猿あげてよう!」とコブシでペコペコ叩きたい気分であるが、ジジイの採算の都合も考えてヤメルこととする。 結局、ハハが二匹のフクロウがチョコンと並んだ「幸せ福呂王」を1500円にて購入。なんか恰好良いぞ、福呂王・・・。劇団☆新感線の芝居に出てきそうな名前だぞ、福呂王・・・。 こうして幸せ鳥・福呂王と共に七海家の夏旅行は幕を閉じた。 白布温泉・・・静寂溢るる山の中の温泉街。 虫の音を夢の友とし、眠りに落ちる自然の中の宿。 独り、もしくは少人数で過ごすのが似合う場所であろう。 ただぼんやりと山にかかる霧を見つめたい日に、訪れてみてはいかがであろうか。 もしかしたら真っ白な猿に出会うことが出来るかも知れない・・・。 (宿の食事処の入り口の横開きの扉の前にただただ立ちつくす姿があれば、それは僕のハハだ。「お母さんヨゥ、それ自動ドアじゃないぜ」とツッコメば、仲居さんが飛んできて扉を開けてくれた。仲居さんの手動ドア・・・。) |