其之壱百鉢『休暇届提出と謎の灰色スーツ』の巻



 さて、先週お休みした理由をなんとしよう。
 僕は『趣味の小部屋休暇届け』という紙を前に、先ほどからすっかり途方に暮れていた。
 僕の部屋の襖の入り口には、『夜光堂HP製作委員会』とかなんとかいう組織から送り込まれてきた灰色スーツ姿の男が、無表情に正座している。
 彼がこの紙切れを僕に差しだし、あの襖の前に腰を落ち着けてから、かれこれ四十分間は経つのだが、男はまるで自分が「正座をしている」という事実すら忘れてしまったかのように平然としている。
 (この男・・・・プロだな)
 僕は溜息を一つ吐き、「此処からどうやって逃げ出そうか」という考えから、「この紙切れになんと書こうか」という考えに脳味噌を切り替える。
 どうせここから逃げても、その男は無表情かつもの凄い早さで追いかけてくるに違いない。往来でいらぬ恥をかくくらいならば、目的を果たしてさっさとお帰り願ったほうが得策と云うものだ。
 しかし、困った。
 実のところ僕は先週の記憶というものが一切存在しないのだ。
 気付けば弁当の残骸と洗濯物の山と底を尽きそうなトイレットペーパーだけがコロンと残されているのみ。
 どうやら人としての暮らしはしていたようだが、肝心の僕自身の脳味噌はすっかりこの期間の記憶を呼び戻すことを放棄しているらしく、一向に思い出せない。
 ならばでっち上げるしかあるまい。
 僕は鉛筆を握った。

 休暇理由:スーパーマリオをもう少しで一発完全クリア出来そうだったので。

 ・・・・・駄目だ。
 僕が『ゲーム誌のライター』という職業に就いているならまだしも、ただの会社員にこんな理由が認められるわけがない。しかも『マリオ』だ。キノコ喰ってデカくなるヒゲのオッサンだ。却下である。

 休暇理由:座敷童子と遊んでいたら、知らぬ間に一週間経っていた。(註:僕的には二      時間くらいだと思ってた。)

 うむ。これはなかなか良い。
 ただ遊んでいただけなら怒られても仕方がないが、「座敷童子と一緒だった」という点は非常に「仕方ない度」が高いと云えよう。「まあ・・・座敷童子なら・・・ねえ?」みたいな雰囲気が生まれること間違いなしだ。
 だが、問題はあの灰色のスーツの男だ。
 いかにも現実主義的な男が果たしてこの理由を呑んでくれるのか・・・?
 震えつつも紙切れを渡してみる。
 「ムシャムシャ」
 ・・・・・喰われた。
 却下である。

 休暇理由:実は密かにハリウッド映画に出演していた。役名は『コビト3』。(1と2      の人とは今でも文通しています。)

(ヤスオ、暗い廊下、黒電話の受話器を握っている)
 あ、母さん?うん・・・うん・・・、そう決まったよ。凄くなんかないよ・・・ぜんぜんたいしたことない役なんだって。台詞だってちょっとしかないしさ・・・・。(ヤスオ、照れたように微笑む。)うん。でも精一杯やろうと思ってんだ・・・。頑張るよ。え?役名?えっと・・・『コビト3』・・・・かな。え?いや違うよ、『コビトさん』じゃなくて『コビト3』。コビトの3番目なんだって。いや、でもコレ、仮だから!っていうか、ほら、まだ脚本とかも変わると思うし?ハリウッドってそういう世界だし?いや、もうほんとなんていうかさ・・・・帰ってこい?母さん、いきなり何云ってんのさ!?(ガシャン)母さん!?母さん!?ああ・・・あう・・・・うあああああぁああ・・・・・。
(ヤスオ、廊下のかどっこの所に体を埋めてただただ泣く)
 却下。

 休暇理由:路上で昔語りをしていた。(市原悦子風に)

 いかん。
 考えすぎてどんどんドツボにはまっているような気がする。
 僕は氷も溶けてすっかりぬるくなった麦茶を飲み干した。
 休暇届だ、別に面白くなんかなくってもいいんだ。奇をてらう必要もない。そうだ、ありきたりな理由をサラリと書いて提出すればいいんだ。考えてみれば、市原悦子風に路上で昔語りをする必要性が一体どこにあるというんだ?
 僕は鉛筆を握った。
 ザラザラとした質感のその紙に、全神経を集中する。
 僕の脳髄に、神の啓示ともとれる考えがよぎった。
 コレだ・・・・!!!
 僕はその考えがすり抜ける前に必死で鉛筆を走らせた。

 休暇理由:神隠しに遭って。

 コレだ・・・!!
 あまりの出来映えに僕はブルブルと震えた。
 なんて自然で、なおかつ「休んでも仕方ない」理由なんだ・・・・!!
 これぞ究極の『休暇理由』!!
 僕はゴクリと唾を呑むと、男の前に休暇届の紙を叩きつけた。
 「さあ、これでどうだ!?文句あるまい!!」
 男はやはり無表情にその紙を見つめ、それから自らのカバンの蓋を開けた。
 おお!やはり絶対なり、神隠し!!我の願いは聞き届けられたり!!
 男はカバンの中からカンペンを取り出し、おもむろに消しゴムでゴシゴシ文字を消すと、そこに「風邪のため」という文字を書いた。
 そして何事もなかったかのように紙を仕舞うと、ポンと膝を叩いて立ち上がった。
 「たしかにお預かりいたしました」
 呆気にとられ、ポカンと口を開けたままの僕の後目に、灰色スーツの男は部屋を出ていった。
 なるほど風邪か・・・・。
 爽やかな風を浴びたくて、ガラガラと木枠の硝子窓を開ける。
 表では、夕日にそぐわないあの灰色スーツの男が背を向けて歩いているとことだった。
 そして・・・・。
 ステーン。
 ・・・・・やはり足は痺れていたらしい。


(最近ハマッているものは、足マッサージ機(ついに購入!)、フジサワデンタルの歯磨き粉(コレはクセになる!なんつったって薄紫色だ)、ツイスターにタバスコ・ハラペーニョをこれでもかと振りかけて食べる。(緑色のタバスコ。辛いというよりむしろ酸っぱい)。んん〜、こりゃなんちゅうか大人の味というよりかは、むしろ寄る年波である!ざっぱ〜ん!)



A Theatrical Campany yakoudou