| 其之壱百獣『スライムと花火』の巻 |
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高校生の時、僕は化学室でネリネリしていた・・・。 あれは文化祭も近いとある夕暮れのこと。 ゴツゴツと固い化学室の机の上で、ビーカーの中の物体をネチャネチャと掻き混ぜる化学部員の姿がそこにあった。 そしていつしか僕も、気付けばその謎の物体をネチネチと掻き混ぜていたのであった。 ネチネチネチ・・・・ネチネチネチ・・・ネチネチネチ・・・・。 誰もが無言。 誰もが無表情。 ただただ手元のビーカーを見つめ、ガラス棒でネチネチとその中の物体を掻き混ぜる。 「せ・・・先輩・・・これは一体・・・・?」 堪らず口を開く。 すると先輩は眼鏡越しに僕をチラリと見て、にやぁと嗤った。 「それはねえ・・・すらいむよぉ〜〜〜ぉ」 す、すらいむよぉ?す、すら・・・?す・・・。 ああっ!!スライムかあ!! 覚えておいでだろうか。一時期バケツに入った緑色グニャグニャの物体が流行ったことを。確かに売り物のそれに比べれば、ニュルニュルと緩い感じではあるが、このグニグニ感、ニョロニョロ感、確かにコイツはスライムですぜ先輩ィ!! 怖るべし化学部・・・僕は知らぬ間にスライムを作らされていたのだ!! 「次はぁ・・・このすらいむを〜・・・これに入れるのよぉぉぉ〜・・・」 渡されたものはフィルムケース。 な、成る程。 これがバケツ代わりと云うわけでやんすね、先輩ィ! ニュルニュル・・・パチン・・・ニュルニュル・・・パチン・・・ニュルニュル・・・パチン・・・。 じ、地味だ・・・。 スライム自体は青・赤・黄色と様々な色づけがされており、華々しさを醸し出しているのだが、我々の行っていることと云えば「素手でスライムをムンズと掴み、フィルムケースに詰め込み蓋をする」という極めて地味なもの。 ここは中国のオモチャ工場か・・・? ニュルニュルパチン・・・。 指先がシワシワになる頃、ようやく大きなビーカーの中のスライムは、小分けされ小さなフィルムケースの中に収まった。 「お、終わったァ・・・・」 「じゃあ次はぁ〜・・・・」 「つっ、次ィ!?」 ヒィ!! 「この丸めた紙の中にこの黒い粒を詰めて・・・そこに竹串を刺して・・・紙を巻き付けて・・・セロテープで止めるのよぉ・・・ぅ」 「ま、また細かそうな仕事ッスね。これ、なんすか?」 「これはねえ・・・花火よぅ〜」 花火ィ!? 花火職人でもないのに花火作っちゃうの!? 「こ、これ危なくないッスよね?だいじょうぶっすよね?ねえ?先輩!!安全ッスよね?!何とか云って下さいよせんぱああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいいい!!!」 先輩はさりげなく遠くを見つめながら、くっくっぅぅと怪しく嗤うのであった。 怖いッスよ、先輩。 花火じゃなくて、アンタのキャラが・・・。 シャリシャリシャリ・・・シャリシャリシャリ・・・シャリシャリシャリ・・・・。 しまった・・・今度の仕事はさっきのスライム詰めよりもさらに過酷だ・・・。もうなんていうか、こりゃ野麦峠だ、地味すぎて血を吐きそうだ・・・。クハァ。 クルクルと丸めた紙に、小さな耳掻きのようなサジで黒い火薬を詰めていく。 ああ・・・帰りたい。 「せ、先輩、ちなみにコレ、何本作るんすか?」 「・・・・・・・・・・・・・・100本」 クハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! 手作業で100ぽぽぽぽぽおおおおおおおおおおおおお〜〜ンンヨイショっと!! こいつぁ驚いたぜコンチクショウははははは〜だ!!←錯乱。 と、云うわけで・・・。 「帰らせて戴きます」 シュン!! 「まぁ〜ちィ〜んさ〜〜あああああいいいい」 「んぎゃあああああああああああああああ!!先輩ぃ!!離して下さいぃ!!スカート引っ張らんで下さいぃいいい!!!っていうか、先輩そんなに早く移動出来たんすね!?そっちのほうがむしろ驚きッスぅぅうううううう!!」 惜しむらくはこの時に「貞子」という絶好の例え言葉がなかったということだ。僕は真田真之がテレビからニョロニョロと出てきた貞子に怯える数年前に、既に貞子的なものの襲撃に遭い怯えていたのだ!! 「ううう、しくしく」 「泣くと火薬が湿るわよぅ・・・」 泣くことも許されず、僕はただただ火薬を詰め続けた。 これはもうなんちゅうか因縁だ。きっと前世かなんかで、花火職人が魂込めて作り上げた新作花火を新種のスイカと間違えて水桶の中に沈めたりしたに違いない。その時駄目にした花火の代わりを、今作らされておるのじゃ〜。そうに違いないじゃ〜。 もう外は真っ暗だ。 目の下に真っ黒なクマをこさえながら、我々はどうにか100本の花火を作りあげた。 「まだ火薬余ってるわよねぇ・・・ホラ、もう一本作りなさ〜い・・・」 「お、鬼ィ!!あんた鬼やあ!!」 指先はもう火薬で真っ黒だ。 このまま火をつけたら、きっとその灯りでお家まで帰れるに違いない。 「で、出来ましたあ・・・」 僕は震える手で最後の花火を差し出した。 しかし先輩はそれを受け取る代わりに、真っ青な灯りを掲げてみせた。 「あ・・・アルコールランプ??」 「それはアンタのよぉ・・・。ほらぁ、そこの水道ンとこでやってごらあああ〜ん」 せ、せんぱああああああああああああああああああああいいい!! 感涙、感涙で御座いますよ、あたしゃあ。 部屋を暗くし、アルコールランプで火を灯す。 赤い色が出るように調合されたその真っ黒な火薬は、火に触れた途端、鮮やかな赤い滝を作った。市販の花火のようにキレイに華になるわけでもない。火薬の詰め方にムラがあるから小さくなったり大きくなったりと落ち着きがない。しかし、その目の醒めるような赤は、僕の瞼に深く深く焼き付いた。 「文化祭ん時は、これをお客さんがやるんスねえ・・・。喜んでくれるといいッスねえ」 先輩は何も答えず、ただ小さく笑った。 手詰めの花火は、アッという間にその命を終えた・・・。 * 「んんぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」 文化祭当日。 化学室に先輩の悲鳴が響きわたっていた。 廊下をブラリ歩いていた僕は、急いで化学室に向かう。 一体化学部に何が起きたというのか!? 見れば、小さな子どもが無邪気に花火をしていた。 他の花火が置かれたバットの上で。 ・・・・って危ないがなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! ボスン!! (あう〜ん。) |