其之壱百壱拾七『婆ちゃんと僕』の巻



 「明日、空が黄色くなる頃に逢いましょう」
 と、キミが云うので、僕は朝5時半に起きてトットットと駅に向かった。
 まだ暗い道を、真っ白な息を吐きながら歩く。
 ちょうどキミの約束の時間、午前6時ピッタリに僕は辿り着いた。
 そう、あのみどりいっぱいの場所に・・・。

 と、書くとなんだかえらくカッコイイが、なんのこたぁねえ、僕は早起きして正月帰省の為の切符をとりに来たのだった・・・!!
 人よ。
 僕は古風な人間だ。
 インターネットなんちゅう現在の便利モノには目もくれず、自らの足できっぷを取るのさ。おお、僕よりも先に並んでいる強者たちよ。爺ちゃん、婆ちゃんと、そして僕。ふふふ・・・ここは昭和。昭和の世界だ・・・!!
 正月帰省の経験のない方は御存知なかろう。
 正月1ヶ月前、みどりの窓口では午前6時から整理券を受け付けるのだ!!
 通常指定席の切符が取れるのは、1ヶ月前の午前10時。しかし混雑の予想される期間は、午前6時から希望を受け付け、整理券を発行するのだ。
 午前10時になったら駅員さんたちが必死こいて切符をとり、その可否をボードに書き込む。整理券を持った者達は、券握りながらそれを見て、○印があったら窓口で切符と引き替えるのである。
 まるで合格発表だ。
 今ではネットによる予約が普及した為、窓口もそんなに混むことはなくなったが、それでも僕のような昭和〜ズが列を成すのだ。
 この日の為に先に書き込んでおいた指定券を取るための用紙を握り、列の後尾に並ぶ。
 時は6時を5分過ぎたところ。
 (ふふふ・・・・平日なのに5時30分起きした甲斐があったぜ・・・)
 前に2〜3人しか並んでいないのを見て、ニヤリと笑う。
 しかし、先に窓口に貼り付いていた婆ちゃんがなにやら手間取っているようだ。
 (ぬあ〜!オイラこれから会社行かなきゃならねぇんだから・・・頼むぜぇ!!)
 駅員さんがちょっと「ム」としつつ応対。
 (頑張れ!!頑張れ駅員さん!!)
 僕、駅員応援。
 「はうあはうはあっはあうあああですかぁ〜?」
 (婆ちゃん・・・何云ってるかわかんねぇぜ・・・)
 「ええ、ですから、10時にならないと切符は発行出来ないんですよ」
 駅員、冷静に対応。
 (き、聞き取れているのかあああああああああああ!!!!さすがだ駅員!!)
 「どこまで行くんですか?」
 どうやら婆ちゃんは30日に帰る切符をふらりと取りにきたらしい。
 だが、婆ちゃんだけあって細かい時刻表を調べて用紙に書き込むことをすっとぱして駅員にダイナミック交渉しているようだ。
 (んんん〜。ご高齢とは云え、困っちまうな〜あ)
 けっこうな時間待たされている僕はちょっぴりご機嫌ナナメになってくる。
 しかし次の瞬間、僕は衝撃的な一言を聞くことになるのだった。
 「はうはうあ〜。○○まで〜ぇ」
 (な、なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!)
 婆ちゃんがホガホガ云いながら答えた駅名は、なんと・・・我が故郷なり!!!
 おお、フガフガ婆ちゃんは我と同郷であったのかッ・・・・!!!
 (うう・・・。すいません、駅員さん、優しくすでくれねだがや・・・・)
 思わず方言。田舎者。
 そうして婆ちゃんがもらっていた整理券のナンバーは7番。
 僕は8番。
 会社帰りにフラフラしながら立ち寄ったみどりの窓口で、僕の8番と共に婆ちゃんの7番の所にもしっかり○印が付いているのを見つけた。
 じゃあ30日に北へ行きましょうか、婆ちゃん。
 さみがらうえさいっぺはおってかえんべな。(寒いから上に一杯羽織って帰ろうね)


(先に指定券だけを買っておくと安心して、乗車券を買っていないことをすっかり忘れている。いざ帰ろうと思った時に「ぬあ〜!」と叫んだことが何度かあります)



A Theatrical Campany yakoudou