其之壱百弐拾『戦え!ヤキイモ屋と!』の巻



 僕は今つけられている。
 ぷんと甘い匂いのするアイツに・・・。
 何故だ。
 何故、僕の歩調に合わせて走っているんだ「ヤキイモ屋」!!
 ナニィ!?トウキビもやっているだとぅ!?
 北生まれの俺が焼きトウキビ好きだということを知っての作戦か!?
 そんなわけで、僕は今、「ヤキイモ或いはトウキビ屋」のトラックに確実に狙われている。
 ハリウッド風に云えば「ターゲット・オン」である。
 ある時は背後から誘うように、ある時は僕を追い越してプンといい匂いをさせ、スピーカーからオヤジのだみ声が頭上から降ってくる。
 やめろ、やめるんだオヤジ・・・!!
 女がみんなサザエのようなヤキイモ大好き人間であるという、その思い込みを捨てろ!
 ツッカケをひっかけダッシュしてくるくせに、いざヤキイモ屋の前にくるとポッと頬を赤らめて小さな声で「下さいナ・・・・」と呟く・・・・そんな時代はもう終わったのだ!!
 僕は断固振り返らなかった。
 トウキビという言葉には正直惹かれるものがあるが、僕がここでうっかり買い求めてしまったらサザエの二の舞だ。一人でこっそり食べようとしたところをカツオに見つかって、「んあくく!」となってしまうに違いない。
 これは罠だ。
 ヤキイモ屋の罠だ・・・!!
 あの角にカツオが潜んでいるに違いない!!
 ヤキイモ屋と僕との抜きつ抜かれつの攻防が200Mほど続いた。
 おお、この時間のなんと長かったことか。
 スピーカーから溢れる声も「いぃぃぃいいぃぃしやああぁぁぁああきいいもおぉぉおぉうおぅおぅおぅおぅお」と聞こえる。
 頼む、オヤジ。僕をもう解放してくれ。僕はホクホクしたイモを喰らうキャラじゃないんだ!!オヤジが串肉屋だったらよかったのにな・・・。
 永遠とも思える追いかけっこの雰囲気を破ったのは、なんと一人の女性だった。
 「すいません」
 僕とヤキイモ屋との険悪な空気を破る澄んだ声。
 おお・・・神は、神は確かにここにいた!!
 ヤキイモ屋は新たな客を見つけてホクホク、僕はこのトラックから解放されてホクホク、ついでにオネエさんはヤキイモを食べられてホクホクというわけだ。
 僕は、緊張のあまりすっかり早くなってしまった歩調をゆるめ、酷使していた足に安らぎを与える。
 「はいはい」
 後ろから声が聞こえる。
 あれがヤキイモ屋の声か・・・。
 スピーカーの声と違う、素朴なオヤジの声だった。
 「ええと、ヤキイモを〜」
 ふふふ。
 きっと頬を赤らめながらヤキイモを買っているであろうオネエさん。オヤジ、彼女にオマケを頼むぜィ・・・。
 「五本」
 五本!!?!?!
 い、イモを・・・・五本ですかい姉御ォ!!???
 僕はその豪気な発言に思わず振り返った。
 薄いピンク色のオーバーを羽織った彼女。アイスクリームを小さな銀のスプーンでチマチマ15分もかかって食べそうなこの女が・・・まさか・・・一人で・・・・ヤキイモ五本を・・・?
 いや、きっと友達が家で待っていて、その友達連中と「アハアハ」笑いながらレンタルしてきた映画でも見ながら食べるに違いない。
 そう思いつつも、僕は考えてしまった。
 ヤキイモ五本を「うほほほほ〜いいい!!ヤキイモだっいすきでい〜ッス!!悪りぃか!?ワ・ル・イ・ノ・カっちゅうの!!男がなんだ!?仕事がなんだ!?アァ、アタシはイモが好きだ〜あ!!」と叫びながら両手食いしている彼女の姿を。
 僕はフッと笑って、ヤキイモ屋とオネエやんを後にした。
 どこのどなたか存じませんが、楽しいひとときを有り難う御座いました。
 晴れ渡る冬の夜。
 ちょっと顔をあげると飛行機の赤い光が目に映った。
 ああ、今日もいい日だった。
 ニヤリと笑うそんな僕の背後に・・・。
 「あっつあっつうのぉぉぉおおお〜、トウキビぃいいいいいいい〜」
 ヤキイモ屋ァ!!!


(だから買わない云うとるじゃろがい!!)



A Theatrical Campany yakoudou