其之壱百弐拾肋『モダモダの秘密』の巻



 オートシャンプーはいかん。
 ミッチリと顔がガードされるシステムが閉所恐怖症である僕に優しくない上に、水が激しく当たると「ウヒョウヒョヨヨ〜ン」と笑いたくなる。
 おもわずモダモダと悶えてしまう。
 たぁ〜しけて〜ェい!モダモダ〜ァ。
 人よ!
 キミよ!!
 キミはオートシャンプーに耐えられるか!?
 あの縦横無尽に頭皮を刺激する水流マジックに、キミは耐えられると云うのか!?あちらこちらから襲いかかってくるあの恐るべし水龍の攻撃に、為す術もなくただ耐えることしか出来ない人の無力さよ!!ああ〜無力さよ、コリャコリャ。
 僕は無理だ。
 モダモダしてしまう。
 奥歯を噛み締めェ〜、爪をギュウギュウ食い込ませェ〜、僕は耐える〜ゥ。もうこりゃあ一人カンフーハッスルだ。ココロの中じゃあ大暴れだ。しかも負けとる、ワシ。もう駄目だ。頬ニクがメコってなってるもの!
 戦い疲れて僕がドンドン灰になっていく。これは最早拷問に近い。ハイ、もう僕がやりました、って云いそうになる。やってもいない万引きの罪を、平謝りで認めてしまいそうな勢いだ。クソウ、俺はやってネエ!!あの前にいた眼鏡の男子学生がやったんだっつうの!!真面目そうに見えて、案外塾とかサボるタイプなんだっちゅうの!!そう云えば、彼のお父さんはこの前、蒸発したそうだよ・・・?
 嗚呼。
 早く終わってくれ、この地獄。
 頭の中で進んでる物語もだんだんワケのわからん方向に進み、一時はスーパーでの万引きでココロを満たそうとしていたマロスケも、たった今、天才ピアニスト・ペペロンチ之介にビーチバレーでスカウトされるまでになりました・・・。
 そのうちだんだん思考力が麻痺していく。
 ゆっくりと死んでいくとはこのことかと悟れば、一気に老いていく。もう「ゲソッ」だ。アッという間に白髪だ。
 そうして魂がなかば抜けてしまった瞬間、機械が止まる。
 急にシンと静寂が支配し、ああ、僕はもう死んだのだな、と思う。
 するとガポッと音がして、顔を覆っていたものが取り去られ「はぁ〜い。お疲れさまでしたァ〜」と美容院のオネイチャンの顔が見える。
 ああ、きっと僕は今、洗いたての砂ネズミのように茫然自失であろう。
 見るなァ!!
 ヨダレとか垂れてたらソッとそのタオルみたいなので拭いてやってくれ!!
 は!?
 そう云えば・・・この人はいったいいつから僕の近くにスタンバっていたんだろう?
 もしかして僕がモダモダモダモダしているのをずっと見ていて「うふふえへへ」と笑っていたのではあるまいなァ!?
 それどころか「コイツがあればご飯六杯はイケますなぁ」などと云いながら、温か〜いご飯を喰らっていたのではあるまいなハァ!?
 周囲から完全に遮断され、水音しか聞こえないオートシャンプーの中では、こんな被害妄想がムクムクと育っていくのだ。
 「オートシャンプーいかがでしたぁ?」
 オネイチャンが聞く。
 「・・・いやあ、駄目っした」
 もう何も飾ってはいられない。気持ちをストレートに伝える僕。
 「そおですかあ。じゃあハンドシャンプーにすれば良かったですねえ」
 ・・・・・・・・・・。
 はやく云えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!
 そんなもんがあるならさっさと云い、や、が、レ〜〜〜〜イ!!!
 なんでもあと500円払えば、ハンドシャンプーにしてくれるのだそうだ。
 500円硬貨一枚であのモダモダから解放されるなら、喜んで貯金箱を割ろうとも!!嗚呼、割ろうともさサ!!ガシャーンン!!ああ〜〜っ、お婆ちゃんに貰った大事な貯金箱がああ!!!きっさま〜〜あああ!!!何してくれるんじゃああ〜!!グハァ!!
 エキサイティング!
 エキサイティング、ハンドシャンプー!!
 次回からはハンドシャンプーにしよう・・・と、『女性自身』を開く僕なのであった・・・。
 ほぉ。ヨン様がねぇ〜。


(オートシャンプーが駄目!っていうのはあくまで僕の感想です。んふ〜この水流がたまら〜んと思う人もきっといるでしょう。それでも僕がこの美容院に通うのは、客も美容師も誰も口をきかない放っておいてくれる美容院だからです。本日も女性自身を熟読。アッという間の一時間でした。静寂最高!)




A Theatrical Campany yakoudou