其之壱百参拾迩『ゴリゴリゴリゴリ・・・!ピンクの前掛けヒラリ』の巻



 歯医者へ通っている。
 それというのも、自前の歯がある日ポロリと欠けてしまったからだ。
 欠けただけなら放っておくが(ダメ人間)、冷たいものを飲んだりするとキィキィキィキィ〜ッとコメカミに響く痛みを感じるものだから、仕方なく歯医者へ足を向けたのだ。
 嗚呼、その足取りの重いことよ。
 以前、親不知虫歯をやらかした時に他の歯医者に数ヶ月通ったことがあるが、その後僕はぷっちりと歯医者とのつき合いを辞めたのだ。
 久しぶりの歯医者である。
 朝イチで出向いたかいがあり、すぐにレントゲン室に通される。
 写真を見て、先生一言。
 「ああ〜。穴開いてますねぇ〜。」
 ああ、そうさ。
 だから来たのさ!!
 ピンク色の前掛けをかけられ、僕は既にまな板ならぬ診療椅子の鯉だ。いや、歯医者に取ってみれば鴨だ。俺は鴨なのだ!!カァ〜モォ〜ひゃっぱァ〜!!(錯乱)
 僕の家から3分もせずに通えるその歯医者は、椅子2つというこじんまりとした歯医者だった。
 小さい子どもでも通ってくるのであろう。
 視線の先にはミッキーやミニーのぬいぐるみが並んでいる。
 しかし・・・・・・・・・和まない。
 ちっとも和まんぞ、歯医者ぁ!!!(まだまだ錯乱中)
 数年というブランクは、すっかり僕を歯医者弱虫にしていた。
 口濯ぎ場に置かれている全身真っ白なプーもまた、恐怖を誘う。嗚呼、あの白き熊は僕をあの世へ誘うお使いなのだ〜。そうなのだ〜。
 クソウ。僕がライダーだったら、今すぐ変身して、あのピカピカ光る器具からミラーワールドに逃げ込めるのに・・・って、ミラーワールドから出てくる時は結局ここに出てくるんじゃねえか!!(錯乱ピークに達する)
 もうこうなったら逃げ出そう、ピンクの前掛けで駆け出そう・・・そう思った時だった。
 「はい。じゃあ治療はじめますねぇ〜」
 顔の半分をマスクで覆った先生が現れたのだ。
 (も、もうダメだ・・・。俺は逃げられネエ・・・。この先、キュインキュインやられ、ゴリゴリやられ、水で洗われた砂ネズミの如くどんよりと宙を見つめる腑抜けと成り下がるのだ・・・。)
 そして治療が始まった。
 麻酔をチュ〜とやられ、キュインキュインゴリゴリ削られ、僕はもうモダモダだ。
 「はぁ〜い、緊張しないでぇ〜。チカラ抜いてくださ〜い。」
 無理だ・・・無理だよ先生!!
 こちとら、ちょっとでも「痛デ!!」っとなったら即座にアンタの横面張ったろうと気張ってんでい!!チカラ抜けるワケないじゃろがい!!
 麻酔がかかっているんだから痛いわけなど到底ないのだが、僕はもういざとなったら先生の指の何本かくらいガブリといってやろうとすら思っていたのだ。
 「ええと、ちょっとお水がかかっちゃうかもしれないので、ちょっと覆っちゃいますね〜」
 覆っちゃいますね!?
 覆っちゃいますねって何だ!?
 錯乱する僕の顔にふわりとかけられたのは・・・真っ白なタオルだった。
 嗚呼・・・母さん。
 目の前が白いよ・・・。
 これが、この世の終わりって、ヤツ、なのか、な・・・・。

 「キュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンンン!!!」

 はっ!!
 違う!!
 全然この世終わってない!!
 目の前は真っ白なのに、その向こうからもんの凄い音が響いてくる。
 歯がゴリゴリやられる度に、頭蓋骨がビリビリ震える。おお、骨伝導!!骨伝導!!
 何かをギュギュギュ〜っと詰められる重い感触を最後に、僕の魔の時間は終わった。
 「はい、濯いでくださ〜い」
 先生のソフトな声が、僕を現実に引き戻す。
 「あふぅ〜い・・・・」
 タオルを取り去られた時の衝撃で髪は乱れ、唇はカサカサ、目は虚ろ・・・。
 こんな顔はお母さんしか見たことがない、くらいの顔を大開帳してしまった。こうなったらもう拝め!!拝観料を払って拝みやがれ!!
 しかし先生は、そんな砂ネズミのような生き物の顔など見慣れているのか、手際よく器具を片づけている。
 来週もまた来ます〜ぅと・・・むりくり約束させられ、僕は歯医者を後にした。
 嗚呼、怖るべし歯医者。
 うっかり飯抜きで駆け込んだ僕は、その後三時間、空きっ腹を抱えてモダモダすることとなったのだった・・・・。


(役づくりの為に見た『龍騎』三度目の最終巻で、僕はまたしても2時間泣き続けました) 



A Theatrical Campany yakoudou