其之壱百檎拾冴『ペコ助と回る大人の屈辱』の巻



 「お尻が裂けたぁ〜。お尻が裂けたぁ〜」
 他人宅で僕が目撃したものは、洗面所の前でお尻を押さえながら泣いている「既にいい大人」の姿であった。
 何のことはない。
 ふっというんちをした時に出口付近が「ピシ」と裂けた・・・人それをキレ痔と云う現象に過ぎないのだが、純白のトイレットペーパーに赤い染みを見た「既にいい大人」は、今まで体験したことのないその恐怖に思わず泣いてしまったのだと云う。
 いや、泣いているだけには収まらず、お尻を押さえたままくるくると回っている。
 こ・・・怖い。
 何故回る!?何故回るんだ「既にいい大人」よ!!
 回ったからと云って、お尻の切れたとこが元に戻るのか!?
 お尻を押さえて鏡の前で999回回れば、魔法のチカラで尻の切れたとこが塞がるとでも云うのならば、回るがいい!!
 999回、きっかり回るがいい!!
 しかし大人よ・・・。
 オマエが鏡の前で回ろうが、切れた尻は塞がらぬ。
 鏡の前で尻を押さえて回っている貴様は、誰がどう見ても「変な人」だ。
 「変な人」レベルで済めばいい。
 事によっては犯罪だ。
 セキュリティのしっかりしたマンションだからまだいいが、ここが昔ながらの下宿で、太った大家のオバチャンから「ほら、この煮物持ってってやんなさい」などと云われた美人の娘がうっかり鍵の開いたままの扉を開けてしまったとしたら・・・。
 駄目だ。
 淡い初恋もろとも駄目だ。
 娘の青ざめる様が目に浮かぶ。
 無惨にも床に落ちる煮物。
 コロコロと転がった里芋が、野良犬ペコ助に喰われる。
 「そ・・・そんな人だと思わなかった・・・!」
 そんな人・・・それすなわち鏡の前で尻を押さえて回る大人!!
 「は、はまな子さん・・・!!ち、違う!!違うんだコレは・・・!!」
 「聞きたくない!!不潔よ・・・!!布団田さん(仮名)のコンコンチキィ〜!!!!」
 走り去る大家の娘。
 尻の裂けた者、走れない!!
 「はまな子さああああああああああああああああああああああああんん!!!」
 開け放たれたままの玄関から叫ぶ布団田さん(仮名)の声が、虚しく響く・・・。
 そこからペコ助がホコホコ入ってきて、布団田さん(仮名)の朝飯を喰らう。
 その時からだった。
 ペコ助が、布団田さん(仮名)の家の家長となったのは・・・。
 ・・・・・・・・・・。
 ペコ助の話ではない。
 布団田さん(仮名)の尻の話であった。
 とにかくそんな状況にならずに本当に良かった。
 しかし、僕が「既にいい大人が鏡の前で泣きながらお尻を押さえてくるくる回っている」のを目撃しているのは紛れもない事実であり、そしてこの状況を一体どうすればよいのか・・・・!
 @軟膏的なものを差し出して「これをお塗りよ」と微笑む。
 Aとりあえずお尻を押さえて一緒に回ってみる。
 B「生きていけ」と肩を叩き、去る。
 Cペコ助をけしかける。
 D夕飯のカレーを投げつける。
 とりあえず、僕はもうこれ以上布団田(仮名)が回らないようにタオルケットを巻き付け、床に転がして帰った。
 玄関の革靴に軟膏的なものを差し込んでおくのも忘れない。
 僕は情に厚い生き物なのだ。
 その後、肛門を見てくれるお医者さんに行った布団田(仮名)は「ん、じゃ、これ塗って。あんまり消化悪いもん食べないようにね!」と云われてシヨシヨと軟膏手に帰ってきたそうだ。
 「あんな屈辱は初めてだ!!」
 と、布団田は熱く語ったが、鏡の前で尻を押さえてくるくると回っているのは屈辱的な姿ではないのか・・・!?
 布団田(仮)、尻が切れて自らを見失う。


(お菓子とか喰ってた人、申し訳ない)



A Theatrical Campany yakoudou