其之壱百鹿拾市『餅を大切に!!〜ある日の餅つき大会〜』の巻



 あれは僕が幼児の頃。
 子ども会で餅つき大会があった。
 ピンクに黒の毛がついた素っ頓狂なコートを着た僕が、憮然とした表情で杵の前につっ立っている写真が残っている。
 あれは寒い日だった。
 そりゃそうだ、北国の冬である。
 息を吐けば白いモヤが立ち上り、露出している頬はアッという間に冷えて赤くなる。
 「ぬぅ。何故、こんな寒い日に外で餅つきを・・・」
 幼児の頃よりイベント嫌いな僕は、湿った目で餅つきに参加していた。
 広場のド真ん中に臼(うす)。
 そしてそれを囲む数組の親子。
 なんなんだ、このシュールな図は・・・!!
 ちゅうか、参加人数少なッ!!
 通常、餅つきなんかのイベントじゃあ、臼が見えないくらいの人々が周りを囲んで、餅がつかれる度に「い〜よいしょおッ!!」等のかけ声があがるのではないのか?
 人々の熱気と、餅に対する熱い想いが、北国の冬の寒さを忘れさせてくれるのではないのか!?
 俺は・・・餅つきに夢を見すぎていたのか・・・!
 「エ〜、じゃあ餅つき始めま〜す」
 村の気のいい青年団みたいなアンちゃんが、ホクホクと湯気立つ餅米を持ってくる。
 おおッ。
 うまそうだ。
 そう、餅に罪があるわけではない。
 人数がなんだ。企画力の甘さがなんだ。うまい餅が喰えればそれでいいじゃないか。黄粉だのをまぶして、ホクホクのつきたて餅が喰えればそれが幸せだ。
 僕は思い直した。
 餅米がゴロンと臼の中に放り込まれる。
 杵を担いだ兄ちゃんと、水の入ったボールを抱えたオバチャンがスタンバり、いよいよ「ドキッ!近所の人だらけの餅つき大会!(人数少なめ)」が幕を開けた。
 カモン!杵ェ!餅米を餅へと昇華させるのだァ!!
 ゴイン!ゴイン!
 兄ちゃんの杵が餅米を打つ!!
 餅米がちょっと少なめなので、モロに臼に激突して骨張った音を響かせる。
 ゴイン!
 ペコン!
 ゴイン!
 ペコン!
 おおッ、兄ちゃんとオバチャンの見事なコンビネーション!!
 しかし、北の寒さは見ている僕らとホクホクであった餅米からも確実に熱を奪っていく。
 (兄ちゃん頼むぜ・・・。早いとこ餅を仕上げて、ホクホクヤワラカ餅を振る舞ってくれ。北の屋外での餅つきは・・・時間との勝負だァ!!)
 ゴイン!ゴイン!!
 ツブツブであった餅米は、次第にその形を無くし、他の粒らと融合して餅らしく変形していく。
 よし!いけるぞ!このまま仕上げろ兄ちゃん!!餅が温かいうちに喰らうんだ!!
 しかし。
 何を思ったか、兄ちゃんは杵を置いた。
 「エ〜、じゃあ、せっかくだからみんな餅つき体験してみよ〜ね〜」
 な・・・何ィ!?
 何を云っているんだ、このウスラトンカチ!!今ここで気を抜けば、餅はあっと云う間に冷えて固くなってしまうぞ!?幼児に体験させている間などあるものか!?
 「わ〜い」
 はしゃぐなガキィ!!
 その餅誰が喰うと思ってんだ!!俺たちで喰うんだぞ!?うまい餅が喰いたいなら、このまま兄ちゃんに任せるんだ!!全面拒否の姿勢で行け!!
 確かに子どもに様々なことを体験させるのは大切なことだ。
 餅つきなど滅多に出来ないことを体験させるのは素晴らしいことだろう。
 しかし!!
 それならば、喰らう餅と体験用の餅は分けておくべきである!!
 体験用餅などはそのまま丸餅などにして、後々鏡開きなどの時に温めて喰らえば良いのではないのか!?
 しかし、当時5歳の僕がその主張を表に出すことは大変困難なことだった。
 御手洗潔風に云えば「どうして僕は幼稚園児なんだ!」である。
 「じゃあ〜、三つ編みの君!こっちオイデ」
 ・・・・・・・・俺?俺か!?
 貴様の云う三つ編みとは俺のことなのか!?
 一緒にやってきたオヤジはカメラを構えている。くそう。シャッターチャンスを狙っている場合じゃないのにィ!!
 いつの間にか杵を持たされてた僕は、兄ちゃんのサポートを受けながら餅をつかされた。
 ぺいん。
 ぺいん。
 ぺいん。
 兄ちゃんのサポートあれど、所詮はちっこくてチカラの弱い幼児である。
 僕の杵は餅の表面を揺らすに留まる。
 オヤジの撮った写真には、杵を持ちながら半笑い顔で餅を見つめる、虚ろな瞳の僕が写っていた。
 (あああ・・・。餅が・・・。あったか〜い餅が・・・)
 駄目よ明美、泣いちゃ駄目。
 湯気も消え、なんだかよくわからない白い塊となっていく餅。
 こうしてやってきた幼児たちの餅つき体験が終わり、最後に兄ちゃんが仕上げ、手元にやってきた黄粉餅は・・・・。
 「・・・固ィ」
 お世辞にも「うまい」とは云えない仕上がりになっていた。
 「お父さん、餅、伸びないね」
 「そうだな・・・」
 寒いところに長らく置かれた餅は、噛んでも伸びずに歯で切れた。
 家に帰るとハハが笑顔で、
 「餅つきどうだったぁ〜?」
 と聞いたが、餅つきを体験した幼児は湿った目で一言。
 「固かった」
 と答えたと云う。
 それっきり、餅つきの話題が食卓にのぼることは・・・・なかった。


(うっちゃんに『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』を借りました。ジャンプ三昧!うっちゃんのお気に入りはリオ先生、僕のお気に入りはヨイチです!っていうかムヒョは!?ロージーは!?勿論好きですが、僕のお気に入りは何故か皆脇役です。ぬぅ。)



A Theatrical Campany yakoudou