| 其之壱百鹿拾傘『全てのグリーン車初心者に捧ぐ』の巻 |
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この度、わたくし。 ハハに戴いた小金を使って、生まれて初めてグリーン車なる車両に乗りました・・・。 そう、あの仄かにオレンジ色の光を漏らす憧れの9号車であります!!(ばば〜ん) 故郷へ帰省するようになって12年。 東北新幹線なら勝手知ったるなんとやらと思っていた僕であるが、まだ未知の領域がここに存在していたのだ!! 乗るぞ!!乗るぞグリーン車ァ!! 通常の特急券の二倍の値段がしやがるぞコンチクショウ!! 心に決めたものの、あまりのバカ高さにシヨシヨと金を払った僕。 こうなったらグリーン車をとことん堪能するしかあるまい!! 決意の30日。 僕はグリーン車に乗り込んだのだった・・・。 「おおぅ・・・。照明が明るい・・・ッ!!」 見よ!通路の広さ!照明の明るさ!! しかも目に優しい暖色系ときてらァ!! 「ぬ・・・!?」 一歩踏み出して驚いた。 ふ・・・ふわふわしておる!!床がふわふわしておるでよ、おっかさん!! いかんいかん。 こんなちょっとしたことに驚いていては、グリーン者初心者であることがバレてしまう。 「ふふふ。お母様、あの人オロオロなさってるワ。初めてなんじゃなくって・・・?」 などと、クッキーを上品に喰らう金持ちの娘にくすくす笑いなどされたら、思わず顔面に手刀を繰り出してしまいそうだ。 表面上冷静を装いながら、僕は自らの席に辿り着き椅子に身を沈めた。 ふわ・・・っ。 おおう・・・!!な、なんだ!?この「お帰りなさい」みたいな・・・僕の体を優しく受け止め、包み込んでくれるハハの愛のような優しい椅子は・・・!! 広い椅子は僕をすっぽりと包み込み、頭が当たる場所には小さな枕のようなものが付いていて、頭蓋骨を優しくキャッチしてくれる。 ふと前に目をやれば、椅子に何やら取り付けてある。 「ム・・・?こ、これはまさか?!」 ガコン。 足だああああああああああああああ!!!足を乗せる台が降りて来よったでえええ!! 椅子に寄りかかって、ここに足を乗せればリラックス出来ること間違いナシやでええ! 「さて。では朝飯でも喰らうか・・・」 しかし。 ぬ!? ふ・・・ふふふはははははははははは!!!グリーン車の欠点見つけたりィ!!! 通常の車両ならば前の椅子の背に必ず付いている、小さなテーブルがないのだ!! ふふ。さすがにグリーン車と云えど、穴はあったと云うことか・・・。 ニヤリと笑う僕。 その数秒後に待つ、敗北を、その時の僕はまだ気付いてはいなかったのである・・・。 「んん・・・?」 通路をはさんで隣の人が、おもむろに寄りかかっていたヒジ置きに手をかけた。 パカッ。 (パカ?) ガゴン!!ガゴンガゴン!! 「な・・・何ィ!?」 小型テーブルが!!!小型テーブルが肘置きの中から出て来よったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! 恐る恐る自らの肘置きに手をかける・・・。 パカッ。 「・・・・・・・・・・・・・・」 パタン。 (オイオイオイオイ。入っちゃってるよ・・・。中にテーブル収納されちゃってるよ・・・。なんだかよくわかんないけど、思わず一回閉めちゃったよ・・・。) すっかり毒気を抜かれてしまった僕は、ご飯も食べずにそのまま椅子にもたれ、持参したDSを開いた。 心はすっかり洗われたスナネズミである。 すると頭上からオネエサンの声が・・・。 「おしぼり、どうぞ」 (オイオイオイオイ。新幹線でおしぼりすすめられちゃったよ・・・。なんだよ、コレ。とりあえずもらっておくよ・・・。) そしてさらには。 「こちらお飲物サービスでございます」 (オイオイオイオイ。飲み物出て来ちゃったよ・・・。しかもこちとらDSプレイ真っ最中で両手が塞がっておるよ・・・。面倒臭ェな。断っちゃおっかな・・・。) 「じゃ、アップルジュースで」 (オイオイオイオイ。俺、何ちゃっかりオーダーしちゃってんだよ!!もらっちゃったよ、アップルジュース・・・!でもこの飲み終わったやつどうすればいいんだよ面倒臭ェな・・・。) 十五分後。 「ゴミがございましたら、こちらへどうぞ」 (オイオイオイオイ。ゴミ回収に来ちゃったよ・・・。もうなんだよ、コレ。至れり尽くせりとはこのことだよ・・・。わかったよ。大人しく乗ってるよ。シヨシヨ。) 静かで、穏やかな雰囲気の中、僕はグリーン車に敗北した。 完敗だ。 グリーン車とはすなわち、勝負する場所ではなく、身をあずける場所であったのだ。 人よ。君よ。 もし、グリーン車に初めて乗る時が来たなら、僕のこの言葉を思い出すがいい。 「狼狽えるな。テーブルは肘掛けの中だ」と・・・・。 (夢見心地の二時間でありました。しかも大変静かで・・・エエ。帰りは普通の指定席車両で、通路を通るオネイチャンの荷物にヒジを強打されながらギュウギュウと。まあ、こんなもんだ、と納得しつつ。) |