| 其之壱百七拾貳『桜じゃダンス』の巻 |
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花見の季節までもうすぐである。 会津若松に住んでいた頃、よく鶴賀城の夜桜を見に行った。 提灯の灯りに照らされて、桜の薄紅色が揺れていた。 静かな夜に、ただただ桜と灯りとそれを眺める人だけが居る空間は、いまでも僕の心に残る一番の桜の思い出である。 いつだったか角館に桜を見に行ったハハから、電話が入った。 「大変よ、明美」 「ど・・・どうしたのさ!?」 「桜が咲いてないわぁ〜!!」 さらに翌年、再び角館へ桜を見に行ったハハから電話が入った。 「大変よ、明美」 「ど・・・どうしたのさ!?」 「桜が終わってるわぁ〜!!」 ハハよ。 どこまで角館と縁がないのだ・・・!! 喉まで「おかあちゃん、もう角館は諦めなはれ」という言葉がのぼってくるが、希望を持って秋田まで出掛けていくハハの気持ちを考えるとそうも云えぬ。 ただ一言云わせてもらえるならば。 『北の桜開花予想は難しい』と。 僕がそう云っていたと、誰かハハに伝えてはくれまいか。 一度だけ、食べ物を持って桜を見に行ったことがある。 中学の頃であったか。 わずかな小遣いをひっつかみ、僕と友人らはスーパーへ向かった。 走る!走る中学生! バン!! 「ずんだ団子下さい!!」 買ったずんだ団子を手に、再び走る我ら中学生!! 青春だ!!ヤ!青春だね!! そして、晴天の空のもと満開の桜の下で、我々は喰ったずんだ団子を・・・!! 無論、立ち食いだ!! 君よ。 考えて欲しい。 桜の木の下で、ニコニコしながらずんだ団子を立ち食いしている馬鹿な中学生の姿を。 周りでは小さい男の子を連れた家族が、ボールをコロコロ転がして遊んでいる。 あの頃の僕は、桜の下で団子を喰らうことが花見だと思っていた。 仁王立ちでむしゃむしゃと喰らうことこそが、粋だと思っていた。 腰に手を当てるのも、ちょっとお洒落だと思っていた。 ああ、青春のヒトコマよ。 無言で団子を喰らった我ら一団は、来たときと同様「ウラララララ〜」と叫びながら、桜の木が並ぶ高台から駆け下りて行った。 良かった。 そのまま勢いで、牛乳飲み出さなくて本当に良かった。 若い頃のヒトコマである。 昔、北の民たちが何故かベランダに一列に並び『桜じゃダンス』なるものを踊っているのを目撃した。 友人宅に遊びにいくために、友人の棲むマンション前を通ると、マンションのベランダに見覚えのある人々が4・5人立ち並んでいるのが見えた。 その顔は何故か皆キリリと凛々しく、舞い散る桜の花びらを見つめている。 「お〜い」と声を掛けようとして、ハッとした。 これは・・・何かとてつもないことが始まる前の嵐の静けさなのではないか。 ここで声をかけたら関係者だと思われる・・・!! 嫌だ・・・それだけは絶対に避けねばならぬ・・・!! 僕は物陰に身を潜め、これから起きるであろうとんでもない出来事を見守る体勢を取った。 どのくらいそうしていただろう。 ついに・・・その時はやってきた。 「わんつーすりーふぉー・・・」 奴らが動いた!! 「桜じゃ!桜じゃ!フワッフワッ!ハイ!!桜じゃ!桜じゃ!フワッフワッ!!」 おお・・・怖ろしいことに、ベランダに並んだ阿呆どもは、わけのわからない歌を歌いながら、一斉に踊りだしたのだ。 なんなんだその一糸乱れぬ完璧な踊りは!! よくよく見れば、表情も完璧に作り上げている。 怖い・・・あんたら怖いよ!! そうだ。もうこのまま立ち去ろう・・・。これを見続けているのはあまりに厳しい・・・! 僕はこそこそと建物の影から立ち去ろうとしたその時。 「はい、そこのお嬢さんもご一緒にィ!!」 ヒィ!!見つかったアァ!!! その後の僕の運命は・・・云わぬほうがよかろう。 (「あれは桜が見せたひとときの幻だったんだよ」『桜じゃダンス』メンバーの談) |