其之壱百八拾肋『農家レストラン〜トコトコお婆ちゃん〜』の巻



 農家レストランへ行って来た。
 無論、北へ里帰りした際の話である。
 ハハが「農家レストラン行くのよぉ〜」と云うので、てっきりそういう名前なのだと思っていたら、実はちゃんとした名称があるお店で、『農家レストラン』というのは七海ハハの造語だったようだ。
 僕のハハは時たま適当なことを云う。
 通称・農家レストランとは、昔は庄屋の家だったと云う茅葺きの古い民家で、お婆ちゃんたちが昔ながらの地元の田舎料理を振る舞うお店である。
 まずは行って驚く。
 建物がデカイ・・・!!
 茅葺きのそれは立派な建物である。なるほどこれが庄屋の貫禄なのか・・・!!
 そして建物の中に入って更に驚く。
 お・・・お婆ちゃんたちがトコトコしておる・・・!!!
 「す、すいませ〜ん」
 トコトコトコトコ。
 「あ、あの。予約していました七海ですけどぉ」
 トコトコトコトコ・・・ピタ。
 「あら?どちらさん?」
 「あ、あのですね、予約していた七海なんですけどぉ」
 「ナナオさん?」
 「え?あ、いや・・・」
 トコトコトコトコ。
 「予約しとったナナオさんだど〜」
 「い、いや!!あの!!七海なんですけどォ!!」
 「ナナオさん?」
 「ナナオさ〜ん」
 ・・・・完敗です。
 もうナナオさんでエエです。
 「ささ、あがらいあがらい。(入りなさい)」
 あ、すんません。
 靴を脱いで上がれば、広い畳の上にズラリ並んだ料理とそれを喰らう人々。しかし、上がったはいいが、一体どこに座れば良いのですかお婆ちゃん・・・?
 トコトコトコトコ。
 おば〜ちゃ〜〜〜〜〜ん・・・!!
 どこまでもマイペース、どこまでもスローライフ!!これぞ田舎の時の流れか!!
 トコトコとお膳を運ぶお婆ちゃんたちを眺めること5分。
 「はい。では仏間のほうにお座んなさい」
 ようやく料理の前に通されることが出来た。
 お膳の上には素朴だが、手を尽くした田舎料理が並んでいる。
 おお、鮎!珍しいことに味噌焼きだ。これはうまそう、じゅるり。
 トコトコトコ。
 「はい、ようきなすったなや。(よく来ましたね)食前酒です」
 トクトクと注いでくれた食前酒はなんと日本酒。正月でもないのに正月気分か。
 代わる代わるお婆ちゃんたちがやってきて、漬け物やら大根葉ご飯やらあったか〜いお味噌汁やらをカタカタふるわせながらお膳にのせてくれる。
 「おあがんなさい。(お食べなさい)」
 はい、いただきま〜す。
 う、うまぁ〜いい!!と飛び上がるほどでは決してないが、優しく素朴な温かみ伝わるおかずが胸を打つ。がんももうどんも漬け物も全てが手作りなのだそうだ。
 しばらくするとお婆ちゃんがトコトコやってきて、目の前にちょこんと座る。
 「はい、ご飯とお味噌汁のおかわりありますから、のせてください」
 手元には小さなお盆。
 あ、もう結構お腹いっぱいなので大丈夫ッス!!
 「そうですかぁ〜・・・・」
 そう云ったっきり、お婆ちゃんはそこに座ったままだ。
 な・・・なんだろう?僕におかわりを期待しているのか、お婆ちゃん・・・!?
 ドキドキしながらがんもを飲み下す。
 するとお婆ちゃん。
 「ふはぁ〜・・・」
 や、休んでおられるぅうううううううううううううううううううう!!!
 歳の頃ならば七十を過ぎたお婆ちゃんたちの集団は、お客様をもてなしながらものんびりと休むことを忘れない。
 しかしそれでいいのだ。それでこその農家レストランなのだ。
 こうしてのほほんと食事を終えた我々は、会計場へ。
 眼鏡をかけたお婆ちゃんがパチパチと電卓をたたき、「○○円ですぅ〜」。
 はい、じゃ1万と250円から。で、お釣りください。
 「あららら・・・こまけのが無いわ。(細かいお釣りがない)」
 自分のカバンをゴソゴソ。
 「これをこっちに・・・」
 そ、それご自分のお財布なのでは?!
 「あらら・・・どこまでが自分のお金がわがんねくなってしまったわ〜・・・」
 お、お婆ちゃあああああああああああああああああああああああああんん!!!
 いつまでも長生きして、トコトコ歩き続けて欲しいものだ。


(いつの間にかお婆ちゃんペースに巻き込まれる見事な空間です。)