其之壱百八拾鉢『七海、救出される』の巻



 七海が救出された。
 かれこれ1時間30分ほど止まったままの電車から線路へ解き放たれたのである。
 それは練習からの帰り電車でのこと。
 僕が降りる電車が、もうすぐ駅だと云うところで一瞬停電。
 は?と思う間もなく「急停止します!!」というアナウンス。
 その直後にキュキュキュキュキュ〜と派手に傾いて電車はピタッと止まってしまった。
 こ・・・これは一体・・・?
 一緒に乗っていた人々も「ふあ〜?」と呑気に宙を見つめている。
 すると、後ろの車両から人々が真剣な面持ちで前車両に向かって大移動を行っているではないか。
 え?なに?これ、僕らもついてったほうがいいの?
 『後ろ2両目で電線から火花が散っています!!後ろ5両の方は前の車両に移動してください!!』
 おおそうか。ならばその後ろ5両に含まれておる僕も、移動せねばなるまい。
 ゾロゾロ。
 む?人がいっぱいでこれ以上前には行けないな。ならばこの辺りで落ち着くか・・・。
 『お客様にご連絡致します。只今送電線のトラブルで電車止まっております。復旧のめどはたっていません。しばらくこのままでお待ち下さい!!』
 エエ〜・・・。
 とりあえずこの珍しい状況を伝えんと、乗客が一斉に携帯電話を取り出す。
 僕も関係各位へ『火花が散って電車が止まってしまったァ!閉じこめられておる!!』とメール。
 『ユウ・・・悪いことは云わないからすぐに謝りなさい』(北の民)
 ・・・なっ!!
 あたかも僕のせいで止まったかの如し!!
 『火花って・・・誰を殴ったんですか?大事にならないうちに謝ったほうがいいですよ?』(さらに北の民)
 『え?とうとうやっちゃったの?体を張って電車を止めるという長年の夢が叶ってよかったネ☆』(またしても北の民)
 そんな夢は語っておらんわああああああああああああああああああああ!!!
 何故、別の場所にいるハズの全員が揃いも揃って僕の仕業だと・・・!!屈辱ダァ!!今手元にダルマを持っていたら、思わず投げつけておるわ!!ソフトクリームを持っていたら、思わず取り落としておるわ!!
 『お客様、送電線のトラブルにより電源を止めて消火活動を行います。電気が落ちますので電車内暗くなります。』
 シュウウウンン・・・。
 辺りが暗くなった。
 とは云え、各車両一つ予備の電気がほのかに灯っているので、まったくの闇ではない。
 問題は電源を落としたために冷房も同時に切れているということだ。
 「あ・・・暑い・・・」
 休日の夜だったためギュウギュウではないことは救いだが、閉め切った車内、冷房がないのは大変辛い出来事だ。たまたま乗っていた電車が窓が開くタイプではなかったため、みんなプチサウナ気分を味わう。
 電源が落ちてから10分ほど経った頃。
 『只今、電車の電源を落としております。窓の上部に取っ手の付いている窓は手動で開きます。ご協力下さい。』
 ・・・え?開くの??この窓、開くの!?
 早速窓の近くに座っている人が取っ手を確かめて、ズズズっと引き下ろす。
 冷たい夜の空気が車内に流れ込んできた。
 「・・・・早く云ってよね」
 ナイスツッコミお母さん!!
 その後けっこうな時間、電車に閉じこめられ続けた僕らだが、様々な人間模様が浮かび上がってきた。
 友達と話して気を紛らわす者。
 ひたすらウロウロして窓の外を見る者。
 車内の様子を写真にとって新聞社に売りつけようとする者。
 後方車両へ向かう駅員を捕まえて訴える者。
 トイレの心配をする者。(男子はいっそ窓からぽろりとすればいいと思うが、女子は共同戦線を張って隠しあうしかないと思われる。)
 DSで遊ぶ者・・・。(僕ですが)
 『え〜、お客様には大変ご迷惑をおかけしています。運転の目処はついていません。現在、お客様を線路へ降ろし駅まで誘導する方向で手配をしております。○○駅より現在、駅員がこちらへ向かっております。』
 おお〜。
 新しい状況に揺れる電車内。
 十数分後。
 『○○駅より駅員がこちらへ向かっております。』
 ・・・うん。見たところ、そんなに時間のかかる距離に止まっているとは思えないが・・・・?
 さらに十数分後。
 『○○駅より駅員が線路の状況を確認しながらこちらへ向かっております。』
 エエ〜。
 一斉にブーイング。
 「そば屋の出前かよ!!」
 うまい!!うまいよ、お客さん!!アンタ、ナイスツッコミだよ!!
 その後、駅からやってきた駅員が手動で開けた扉にハシゴをかけ、ゾロゾロと開いた扉の車両まで移動してきた僕らが線路に降ろされるまでに、電車が止まってから実に1時間30分もの時間が経過していた。
 そりゃ、どうぶつの森で全ての用事を済ませ終わるわい!!さらに下に挿していたゲームボーイアドバンスソフトMOTHER2までやっちゃったもんね!!
 線路をのへのへと歩き、駅のホームまで辿り着く。
 嗚呼、長い道のりであった。
 もうすっかり機能を果たさなくなった駅に、これから利用しようという人々が困惑した顔で集まっていた。
 くそぅ。金なんか払うか!!返金してもらうわい!!と意気込んで改札口に向かえば、既に長蛇の列。ここまで待たされ続けた身にはあまりにも辛く、泣きながら自腹スイカで改札を駆け抜けた苦い思ひ出・・・・。
 こうして僕は生まれて初めて救出された。
 ガタガタと不安定なハシゴを降りる時に、手袋をした駅員さんが手をひいてくれた時に、ちょっとしたお嬢気分を味わったこと以外は、さして感慨深くはなかった。
 その後ハハに「実は救出されてさ・・・」と話したら、
 「え?倒れて救急車で運ばれたの!?」。
 ・・・ハハよ・・・。


(その後、何故か北の民の間では、「七海が修得したばかりのカメハメ波で誤って電車を止めた」という説がまことしやかに流れていた。んなわけあるか!!)