其之弐百鹿『年末もみくちゃ』の巻



 前回のオマケカッコ内で、ハハが誕生日に「エプロンが欲しい」と云っていた件であるが、いざハハに出会ってみたところ「手袋が欲しい」と内容が変わっていた。
 驚愕である。
 こちらはエプロンを贈ろうと気で行ったのに、よもや手袋とは・・・!
 胴を巻くものと手を巻くものの差か・・・!!
 「母さん!!エプロンが欲しいって云ってたじゃないか!?」
 と、詰め寄れば、
 「エプロンは自分で買うからいいの〜」
 ハハよ。ならばエプロンをプレゼントでもらって、手袋を自分で買っても一緒なのではないのか?!
 しかしなんと云えども誕生日の主役はハハである。こうして我々は手袋を購入すべく、(本当は頼んでいたお節を取りに)大晦日の街へと出掛けていったのであった。

 去年まで行っていたお節の配送を行わないとのことで、今年は自らデパ地下までお節を取りに行かねばならぬとのこと。
 初めての年末お出かけである。
 朝イチでデパートに飛び込み、まずはハハの手袋を購入!
 さらにはハハ自らが財布を開帳しエプロンを購入!
 (ちなみに父は自らの希望により、自宅に残って車を洗っていた。)
 そして更に(ハハの)タイツや(僕の)ミミアテをテンポよく購入し、まだ人のいないデパート食堂で少しばかり早い年越しうどんを喰らう!!
 よしよし、なかなかイイ調子だ。
 デパート職員の皆さんも、既に気持ちは初売り大売り出しのほうに気が向いているのか、どこか目が虚ろである。
 フッフッフ・・・何故かは知らないが、「混んでもみくちゃ」的怖ろしいイメージのある年末のデパートであるが、最早怖るるに足らず!!(ババ〜ンン!!)
 これであとは地下食品売場に突入し、年越しスキヤキのためのお肉様、その他諸々、そして最終的に頼んでいたお節を抱えて全ての行程が終了となる。
 この時僕は、正直ちょっと油断していた・・・。
 この後、僕はイヤというほどあの言葉を痛感することとなる。
 そう。
 「油断するな。家に帰るまでが年末の買い物だ」
 という、あの言葉を・・・。

 デパ地下は・・・もみくちゃだった。
 「ハッ!?母さん!?母さんはいずこ!?」
 「あ〜けみ(ヨレヨレ)〜」
 少し油断すればハハの姿を見失うほどの混雑ぶり。
 「兄さん!この肉300グラムほど包んでくだセェ!!」
 「315グラムでいかがでしょう!?」
 「それで!!」
 お互い叫んでのお肉様購入。
 さらにはレジに並ぶ際の番号札配布。
 デパ地下2Fは様々な食品を売っているものの、個々会計ではなく一括でレジ会計のため、人々はレジに殺到する。
 とりあえずハハに買い物を任せ、僕は一足先にレジに並ぶ!!
 「はい、じゃあお客様7番で!!」
 黄色い札をカゴに入れられる。
 しまった・・・!!思いの外早くレジの順番が回っている・・・!!
 ハハよ、急いでくれ・・・!!
 振り向けばハハが必死の形相で店のオバチャンをせかしている。
 そしてついに僕の番がやってきてしまった・・・あわやと思われた時に、ちょうどレジのレシートが切れてしばしの中断。
 神は我に味方している・・・!!
 振り返ればハハが干物を抱えて必死の3Mダッシュ中だ。買い物かごを抱えたオバチャンたちをかいくぐって買い物カゴにトライだ!!
 ・・・間に合った。
 僕はかつてあんなに軽快に左右にステップを決めるハハを見たことがない・・・!!

 さて、残るはお節だ。
 コイツは先にお金を払ってあるので受け取って帰るだけだ。
 しかし・・・問題が一つあった。
 新幹線の時間が迫っているのだ。
 街まで新幹線一駅でやってきていた我々、新幹線の時刻はヘタすると1本逃したら1時間待たねばならないこともあるので、必死である。
 場所はいつもハハがお惣菜を購入しているお店で、店員のお婆ちゃんとも顔見知りである。
 がしかし、それが災いした。
 「あらあらどうも、遠いところからわざわざ・・・」
 始まってしまった・・・!!頼む!!お婆ちゃん早くしてくれ!!
 俺には時間が・・・(新幹線の)時間がネェんだよォ!!
 「あ。○○さん、下に行ってお節持ってきてちょうだい」
 「は〜い」
 しまった。こんなことならば、先に出しておいてもらってから他の買い物をすればよかった・・・。
 しばらくしてお節を取りに行った店員さんが戻ってくる。
 が、今度はお婆ちゃんの姿がない。
 我々にお節を渡していいのか狼狽える店員さん。
 焦る我々。
 まさに現場はちょっとした映画ばりの緊張感である。
 こうなったらもうこのお節を強奪して駅まで走るしかあるまいて・・・!!
 僕がシビレを切らして手を伸ばした瞬間、お婆ちゃんがトコトコと紙袋を持ってやってきた。
 「はいはいこれに入れてネェ〜」
 この紙袋を用意していたのか・・・!!ありがとうお婆ちゃん!!ダッシュで頼む!!
 トコトコトコ〜。
 ・・・婆ちゃんの歩みは牛より遅い・・・。
 お婆ちゃんが持ってきた紙袋にお節を収納し、いざ駅へ!!
 今なら間に合うぜ・・・と駅へ向かって駆け出そうとしたその時、お婆ちゃんがハハを呼び止めた。
 どうしたんだ婆ちゃん!!俺たちには時間がネェんだ!!話なんかしてる暇ネェぜ!!  お婆ちゃんはハハに包みを握らせると・・・、
 「これ、食べて頂戴ね」
 包みを見ると中にはお店で売っているウナギがたんまりと・・・。
 婆ちゃん、ありがとう。
 年の瀬に素敵なうなぎと思い出をありがとう。
 (僕、うなぎ喰えないがな)
 そして僕たちは・・・見事に目当ての新幹線にのりはぐったのだった。


(ハハも僕も、結果、もう二度と大晦日にはデパートに行きたくないという意見でまとまりました。その間、親父はおいなりさんを喰いながら車のタイヤがえをしていました。)