其之弐百弐拾御『はずかし乙女』の巻



我が勤め先は、月初めは様々な仕事を抱えて誰もが忙しい。(一部忙しくない方もおられるが)
キシキシと殺気立つ最中、無論例外なく殺気をみなぎらせているオレ!数字を入力しながら、人と他の仕事の話をしていた。
僕が云いたかったのはこうだ。
「○○さんのお手をわずらわせるくらいなら、僕がやりますよ」と…そう伝えたかった…。
だが実際に殺気立つ僕の口から飛び出して来たのは…!
「○○さんがやるくらいなら僕がやります!!(ばばーん!)」
おおぅ!やってしまったよおかあさーーーーーん!!ばっんざーははい!!ハイサイゴーヤ茶ァ!←最早意味不明。
本当なら今すぐにでも裸足で逃げ出したい気分だが、おいら陽気な社会人、これはちゃんと正しい言い訳…いや、正しい気持ちを伝えなければなるまい!
そこでさらに出た一言を、皆よ、赤面しながら聞くがいい!
「あのっ、違うんです!いやっ、違くないけど違うんです!!」
カーッ!←赤面。
なにそのしどろもどろ乙女な感じ!鼻からカップ麺すすってるとこを、大好きな先輩に目撃されてしまった時に出た一言みたいな感じィ!
はわわはわわと口をパクパクさせる僕を見て、云われた本人はただ静かにそっと肩に手を置いたのだった…。
すまんこってす!すまんこってす!

先日ノドが痛くなって、風邪薬をもらいにいつもの内科医院へ行ってきた。
「どうしました?」と聞く先生に、「風邪のようです」とシンプルな返しを繰り出し笑われる。
あーだこーだと自らが苛まれている諸症状を力説すれば、先生はカルテを見つめて考え始めた。なんちゅうかこりゃもう熟考だ。
どうしたんだ?一体何があったんだ?風邪のような僕は、実は風邪なんかじゃなく、本当のことを云うこともはばかられる超珍病だったりするのか…!?脳味噌が水虫とか…。
「抗生剤なんですがね」
え?抗菌剤ですか?
「いや、風邪の抗生剤」
良かった!僕はやはり風邪だった!
「前回出したやつと前々回出したやつは違う抗生剤なんですよ」
はぁ。
「…どっちが効きました?」
……………は?
どちらが…ですか?
「はい」
ヤ…ヤベエ!オレそんなことビタイチ覚えてネェよーーーほほい!
ピンチだ。
よもやこんな時に、僕が日頃いかに抗生剤と真剣に向き合って生きているかが試されようとは…!
一瞬、適当に…ピンクっぽいヤツ…とか答えてしまおうかとも思ったが、プロフェッショナルを相手に嘘は恥ずかしいだけだ。ここは素直な心で向き合うしかない…!
どっちもよく効きました…そう伝えようじゃないか!
そう決めた僕の口から出た一言は…「どっちも…どっちですかね!」(ソイヤー!!)
見よ、オレの満面の笑みを!そしてそれが氷殺される瞬間を!
この切ない一言は、問うた先生の胸にどんなふうな響いたろうか…。今夜、夕飯も食べず枕を涙で濡らす、何故か半ズボン姿の先生の姿が目に浮かぶ。こんな衝撃はきっと、小学生の頃、拾ってきた子犬を親に勝手に捨てられ、足をバタバタさせながらベッドに泣き伏したあの時以来に違いない。(そんな過去が本当にあったかどうかは知らないが…)
しかし先生よ。
その話には後がある。
大好きなハンバーグも食べずに、空きっ腹で一夜を泣き過ごしたキミは、次の朝子犬の鳴き声で目を覚ます。
急いで部屋を飛び出し、庭に駆け下りると、そこには捨てたはずの子犬を抱いた父親の姿が…!
「どうして…」
そう呟く彼に父親は云った。
子犬を捨てたと云ったのは嘘だったこと、そして彼の子犬に対する気持ちを試していたのだと云うことを…。
「びといや父さん!」
思わず云う彼に、父親は優しい中にもどこか厳しさの光る瞳でこう云った。
「でもオマエはこれから何があったって、コイツのことを忘れたりしないだろ?」(ニヤリ)
…お、お父さああああああん!!
渋すぎるッスお父さん!!
もう僕は涙でビリーバンドも握れないッス!!
そんなステキなオヤジに免じて、なんとか僕の一言を忘れてはいただけないものか…。
先生はニヤリと笑った。
かなり苦々しい笑いではあったが…。


(僕の通勤路は狭い歩道もチャリがビュンビュン走る無法地帯で、いつか横から車道側にけったおしてやろうと思うくらい歩行者にとってストレス度の高い道ですが、長髪ワンレンストレートの男子学生(制服着用)が立ちこぎ猛スピードで通り抜けて行った時には…ちょっと微笑んでしまいました。)