其之弐百参拾誌『クロレラ・メルヘン・研修中』の巻



ハハより荷物が届いた。
我がハハは僕の食生活を憂いて、数ヶ月に一度荷物を送ってくれる。
中味は僕が好んで摂取しようとしない魚料理や、出来れば食べずに生きていきたい野菜料理である。
おおぅ、桃も入っておるわい。果物は嬉しい。
そんな中、怪しげな箱ひとつ…。
な、なんなんだこの謎の小箱は…?まさか中から一気に老け込む煙が出てくるわけではあるまいが…。
ゴクリとつばを飲みつつ、勇気を持ってパカリと開けてみる。
怪しい小箱に入っていたものは…!
「くっ、クロレラああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!(絶叫)」
そうだ!
あの緑の錠剤だ!
しかも中山式だ!
中山式クロレラなんだ!
そいつがいっぱい詰まった瓶がゴロンと入っているではないか!
しかもアンタ「デラックス」って…。効きそうだ…。効きそうだよクロレラ!なんに効くのかよくわかんないけども。
ハハにお礼の電話がてら、「あの緑の錠剤は一体なんなんだ!?」と問えば、
「中山式なのよ〜」
うん、分かってるよ!シールばっちり貼ってあっから!
「野菜とかちっとも食べないでしょ。だからこのサプリメントで補充しなさい!」
ハハよ。サプリメントなんて洒落た言葉をよく知っていたね。
「毎日飲むのよ!クロレラ!」
こうして僕は、こいつを一日10錠ほど摂取することとなったのだ。
しかしクロレラちゅうのは、僕が小さい頃からあるように思う。話には聞いていたが、まさかこの僕がクロレラさんをガブリ飲むことになろうとは…!
しかし、何故こんなに緑色なんだキミよ。宇宙人やらスライムだってこんなに緑じゃネェぞっちゅうくらい色濃い。緑黄色野菜にちょいとした恐怖感を感じる僕は、毎日どきどきしながらこいつを飲むのだ。僕には凄い苦いオーラが見えるんだ…。(実際には苦くもなんともない)
クロレラを飲む劇団員。
うむ、元気そうだ。

朝の通勤時、ちょっとした光景を見た。
夫婦なのか恋人なのか、男女のチャリンコ二人乗り。
漕ぐのはスーツの男性だ。暑いからか上着を脱ぎ、ワイシャツの袖をまくり上げている。
そこまではよかろう。
後ろに乗る女性の出で立ちが凄かった…!
白いふわふわしたワンピース!(ババーン)
涼やかなサンダルをはいた足を、パタパタと揺らし!(バッサー)
ついでにフりフり日傘をばっちりさして!(プアー)
無論お嬢乗り!(ババーン)
…凄い!なんなんだこのメルヘンなお方は…!
病気療養中イン軽井沢みたいな光景は…!
そんなメルヘンさんを乗せたチャリンコが、人一人しか通れないような歩道をトコトコ走って行く…。
暑さでぼんやりした頭で、(あの後ろの人、思いっきり後ろにひっくり返んないかなぁ…)と思う。
なんせキミよ、邪魔なのだ。その横からビヨーンと出た上に、ブラブラと揺らしてる足が!!
まるーく場所をとっている日傘が!!
キミ、メルヘンさんを横乗りさせるなら、避暑地の私有地内か海岸沿いの自転車専用道を走らせなさい。
間違っても、通勤人でごった返す狭い歩道をトコトコ走ってはいけません。
いつか何かの拍子に、彼女が一人バックドロップで転げていかないとも限るまい。(あと、二人乗り禁止だから)
通勤人たちがそんなメルヘンチャリンコを見て失笑する中、いい歳のおじさんがどこか懐かしそうに目を細めて二人を見ている…。
さてはオヤジ、若い頃経験済みだな?と、思わず僕はニヤリ笑ったのだった。

ある日の夕方。
僕は事を急いでいた。
その日は夕方より激しい雷雨の予報が出ており、頭上には既に気味の悪い色をした雲が広がりつつあった。
どうにか今夜のごはんだけでも入手したかった僕は、急いで買い物を終えようとスーパーに飛び込んだ。
弁当売り場を直撃し、何故かピザを掴んでカゴに放り込む。続いてゴボウサラダ。最後に飲み物売り場でポカリをゲットだ!
なんだこの組み合わせ?
いや、今の僕にはそれをツッコんでいる間すらない。
雷雨がやって来る前に家まで辿り着かねばならぬ!
僕はレジに向った。
ぬう!夕方とあってどこもコミコミだ!
取り敢えず一番人が少なさそうなレジに飛び込む。
おお!このレジは店員さん二人組が対応だ!これは早いかも知れぬぞニヤリ…、僕がそう思った瞬間だった。
とある衝撃的な三文字が、我が網膜に飛び込んできたのだ!
『研修中』!(ババーン)
おう!
なんてこったい!
いいんだ、誰にだって始めはあるんだ、解っているさ、解って…あげれる状態じゃないんじゃコンチクショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ!(塩涙)
店員さんアンタが悪いわけやない。ぜんぶ雷が悪いんや!お願いだから早くしてぇー…という祈りが通じたのか(というよりは、一緒に付いていたベテランさんのナイスフォローによって)、少々遅めながらも意外とスムーズに、列は縮んで行った。
よしよし、とうとう我が前の爺ちゃんの番だ!
しかし…そこで事件は起ったのだ…。
爺ちゃんが差し出したのは、焼き鳥だった。
バーコードの付いていない、自ら手でパックに詰めるタイプのお惣菜だったのだ…。
「二本ね」
と、爺ちゃんは云った。
「あ…は、はい、二本…」
オオなんたることか!爺ちゃんの差し出した焼き鳥は、彼女にとって本日初挑戦の品物だったのだ!(爆)
テンパる研修生!
さらに焼き鳥となんの関係もないのにテンパるオレ!
「えっと…焼き鳥…や、ヤキ…ヤキヤキヤキヤキ…!」
お、落ち着け研修生!
大丈夫だ、落ち着いてさがせば必ず見つかるぞ!あのホラ、押すと焼き鳥の値段ピッて出てくるとこな!(オレも落ち着け)
「ヤキヤキヤキヤキ…!」
なんかもうヤキヤキ云ってるし!精神崩壊一歩手前みたいになってるし!
しかしながら、どうかオレのためにがんばってくれ…!
僕と研修生が物凄い量の冷や汗をかいていたその時。
「何!?焼き鳥!?焼き鳥ココ!(ピッ)」
救世主キターーーーーーーーーーーーー!!
客の小銭会計待ちだったベテランさんが、背後の不穏な空気を察知し、助けてくれたのだ。
(助かった…!)
僕と研修生、二人とも確かにそう思った。
こうして僕は焼き鳥ヤキヤキの呪いを乗り超え、無事に家に辿り着くことが出来たのだった。
…しかしその日、雷は鳴らなかった…。


(毎日一時間歩いて会社へ通っています。このところの猛暑で後頭部が異様に熱くなり、意識が遠のいた時には、さすがにヤバイかと思いましたが、どうにか踏ん張って辿り着きました。しばらく頭がガツガツ痛かったです。)