其之弐百参拾七『ザ☆下敷き』の巻



先日のことである。
汽車を待つ僕の横で彼女らは、お空を気にしてる。
若い女子たちの会話。
「今日皆既日食なんだよー」
…ん?
「あははーなにそれー」
「だからー月が見えなくなるのー」
…だよな。
「皆既日食なんだよー!」
…おしい!
月が見えなくなるとこまでは合ってるぞ、女子!ならば何故そこで日食になるのだ女子!見えなくなるのが月なら、それは月食なのだ女子!
ああ、グランギニョル…。

僕が小学生の頃、日食があった。
いつの事かは定かではないが、その時には授業を中断して全校生徒総出でお空を見上げていたのを思い出す。
購買部で下敷きがバカ売れしたのもこの時期である。
日食を見るにあたって、目がやられないように、無地の色付き下敷きを用意するように全学年に指令が飛んだためだ。
柄付き下敷きを愛用していた僕が、ハハから金をむしり取り購買部に向った頃には時すでに遅し…。
「み…みどりしかネェ…!(しかも凄い濃い色の)」
今ならいいんだ。今なら緑色の魅力はよーく解る。しかし悲しきことに、当時僕は小学生女子だった。
「松のはっぱのごとし濃ゆい緑」にビタイチ魅力を感じない年頃だ。
加えて、僕は幼稚園の時『松組さん』で、地味な緑の名札を付けさせられており、梅組さん(名札バッチ純白)に「ダセェー!松組ダセェー!」などとクラスまとめて陰口をくらっていた辛い思い出の持ち主だ。
くそう!梅がなんだ!
松からは松ぼっくりが採取出来るんだぞ!潮風にも負けず、海辺にたくさん植えられているんだぞ!
うう…緑の下敷き一枚で、色んな辛い思い出が一気に吹き出してきちまったぜ…!
購買部でうちひしがれる僕。
しかし、日食を見るために色つき下敷きは必須。そして日食はもう今日の午後と迫っている。…例え売れ残りの緑といえど、手に入れなければ。「こ…これをください」
オレ、緑の下敷き購入…!
そして全校生徒が(授業をサボれるので)心待ちにしている日食がやってきたのだ。
カモン!日食!
校庭でポカンと口を開けながら空を見上げること十分。いい加減ヨダレが垂れそうだな…と考え始めた頃にそれはやってきた。
黒い曲線状の影が、ジワリジワリと太陽を浸食し始めたのだ。
「始まりましたゾー!」
はしゃぐな、校長よ。
「うおー!なんだあれー!なんだあの黒いのはー!」
○介よ、貴様先生の話聞いてなかったのか…。先生、朝の会で手作り模型まで持参して説明してたんだぞ。
「みんなー!下敷き通して見ろー!太陽直接見ちゃ駄目だぞー!」
そういや、そのための下敷きだった。
一同サッと下敷きを構える!
おぅ!オレの太陽緑色!なんて斬新なんだ!なんとなく、光るマリモに見えなくもない…。
黄色い下敷きのヤツにゃあ、太陽がヨードラン光みたいに見えてんのか、などと思いつつ隣のクラスメイトを見やれば…!
なっ!!か、顔が!
○子の顔がよぉおぉどらっんっひっかっりっ!(爆)
生卵の食べ過ぎか!?はたまたミカンの食い過ぎなのか?顔が真っ黄色になっているではないか…!
いや。
周りを見れば、様々な顔色の者たちが、ニコニコ顔で空を見上げている。
ああ、下敷きマジック…!
ム!
オレ河童!
もしくはゾンビ!
そして下敷き色を青で揃えた少年サッカー部野郎どもは、集団デスラーか!おおお、デスラーたちが笑っておるわい。
女子に人気のピンクの下敷きに至っては、カトちゃんのうっふんお色気照明を浴びたようになっている。「ちょっとだけよ〜」だ。
(あ。校長もピンクだ…)
そして一際目に付く真っ赤な下敷き…。
首から上が血塗れておるうううううううううぅ!!
怖い!怖いぞ!赤い下敷き!
…え?っていうか、先生なにその紫の下敷き。購買部で売ってないやつじゃないッスか!!独自じゃないッスか!
結果、顔色もっのすごい病人色じゃないッスか!アニメとかで毒飲んじゃった人の顔色じゃないッスか!ちょっとしたオリジナル心が、とんだバイオレンスと化してじゃないッスか!
ああ、面白い、ヒトの顔。
…つか、日食どうしたよ、オレ…。


(先日、横断歩道上で、減速せずに右折してきたトラックに危うく轢かれかけました。さらにアクセルを踏み込んできやがったので、慌てて避けましたが、ドライバーの人相とナンバー、さらにトラックの箱に堂々と書いてあったメーカー名も記憶したので、このメーカーかドライバーが新聞沙汰になったら、指差して笑ってやろうと思います。あーの色眼鏡が!←グラサン着用だったのだ!)