其之弐百死拾似『「待て」』の巻



シャケフライを買った。
本当はチキンカツフライが欲しかったのだが品切れ中。現在午後六時半、お惣菜を求める一人暮らし勤め人たちが彷徨う中、揚げ物エリアの八割が品切れているというこのスーパーの有様に、「…長くネェな」と思わず呟く。
仕方ないのでシャケフライだ。
チキンカツカレーの予定がシャケフライカレーに変更だ。北海道のクマの気持ちだ。
プラスチックの容器にシャケを詰め詰めし、ワゴムでパチンと止めてレジに向かえば…!おおゥ!レジ前に長蛇の列!!なんと二レーンしか開いてネェときた!どうした!?今日は全員風邪でお休みか!?それとも運悪くじいさまの法事が重なったのか?…なんにせよ悲しい光景である。
血を吐くような形相でレジ打ちするレジ係さん!それに対して「早くしてくれよ。疲れてるから早く帰りテェんだよ…」的テンションの客一同!この温度差がまたせつない。
そんな中、僕もどうにかお会計を済ませ、レシートを眺めながら品物を袋に詰めていく。
アルカリイオンの水、特価品で得した気分だニヤニヤ。しかし持って帰るの重し…。
ゴボウサラダ二十円引きなり。よし、ちゃんと引かれてるなニヤニヤ。
そして…ぬぅ??
問題のシャケフライ。
僕が見た値段では百二十六円だったが…。
レシートを見れば百五円と打たれている。
と、得した!(ババーン)
これはきっとスーパーの人からの贈り物だ。
「長らく待たせちゃってごめんなさいねー」という意味に違いあるまい。
(…いや、いいんだ、本当は解っているんだ。バーコード読み込みではないこのお惣菜。血を吐きそうなくらい忙しそうだったレジの人が間違えて入れたんだ…。もしくは何フライか確かめる暇もなくて、フライの一番安い値段を入れたんだ…)
そんな心遣いを無にしては申し訳ないので、そのままそっとフライをしまい、そっと店を出る。
よかった。
出入り口で恰幅のいいオバチャンに呼び止められて、二十円分のシャケを切り取られなくて。
ある日の小さなお得体験である。

我が家にハハより荷物が送られてくる時、ヤ○ト運輸のドライバーさんは決ってこう云う。
「遅くなってすいません!」
…いや、いいんだよ。
我がハハは午後八時〜九時の時間指定で手配していて、今はまだ八時半なのだから…。
きっと皆にそう云ってるんだろうなと思いつつも、思わずドキリとしてしまう。
僕が夕飯を食べずに、腹をギュルギュル鳴らしながらその荷物を待っていたことを、何故ヤツは知っていたのだろう…と。
いやいやもー別に全然待ってなんかないッスからー風を装い荷物を受け取り、部屋に戻ったらバリバリ毟り開ける。
腹が減っているので、気持ちとしては今すぐ食べたい…が、そこをグッと堪えて、まずは美味しいモノを送ってくれた七海家に連絡だ!
「あらついたのー?」
ハハにありがとうと伝える。
「いいのよー。それより中見たー?」
見たよ。色々美味しそうなの入ってたよ。
「そうでしょ。えっとねー、まずは…天ぷらが色々入ったのがあるでしょー。それはねーかいせいあんで買ったやつでねー、キノコ類がね入った秋限定のやつみたいー。それでねー!お母さんも食べたいなーって思ったんだけどー…ペラペラペラペラホニャラララー」
ああ…始まってしまった…!(嘆)
我がハハは、何を隠そう「送った荷物に入っているものを全て解説しないと気がすまない人」なのだ!(ババーン)
荷物に詰めたものならば、惣菜だろうが果物だろうが弁当だろうが洋服だろうが、とにかく何でも解説する。
ポイントはこうだ。

○どこで買ったか。
○どんな食べ物(商品)か。
○それを買った時にどんなエピソードがあったか。
○同じ製品を実家七海宅でも購入したか否か。

ハハが語った実際の話て検証していただきたい。
「ハムねー!これ三越のハム屋さんで買ったのー。白ロースっていうの?お母さん食べないからわかんないけど。でね、それを切ってもらってる時にお会計するでしょ。その時に五十円玉が落ちてね、コロコローって転がってケースの下に入っちゃったのよ。いいっていったのに、店員のお姉さんが下ゴソゴソして取ってくれたのよ。あ、うちのお父さんの分も買ったんだー」どうだ。
長ェ!長ェよ!お母ちゃん!
こんな調子で全てのアイテムに関して話していくもんだから、もうアンタの娘ときたら、腹はグルグル鳴るわ、ヨダレはダラダラ垂れるわ、目はロンパるわ…、そらもう酷い有様ですわ!
腹減りすぎて、お惣菜の周りグルグル回っておりますがな!
(電話しながら食べればよかろうと思われるやも知れぬが、クールで来たソイツをレンジ皿に移してチンしなきゃいけなかったりと、色々困難なのだ…)
そんなこんなで三十分後、全て語り尽くしたハハが、ふと思い付いたように云う。
「あら?そういえばまだご飯食べてないんじゃないの?」
ああ食べてないさ!!
もう九時さ!
柳沢教授なら、食事を辞退している時間さ!
九時以降に喰っちゃなんねぇはダイエットの鉄則さ!
でも喰うさ!!何故なら腹が減って倒れそうだからね!むふー!
「じゃあ早く食べなさい」
…う、うん。実はハハの第一声目から既に食べたかったのだけどもね…。
こうして僕は様々な心境と葛藤しながら、ようやくうまいご飯を食べることが出来るのだった。
今気付いたけれども…、これ「待て」といわれた犬の気持ち…。


(「天元突破グレンラガン」最終回!!見て号泣!!)