其之弐百御拾煮『誰にとっての悪夢なのか?』の巻



ある日帰ってくると、家のドアノブにビニール袋がかけられていた。
外して中を見てみると、ピンクの可愛い封筒に『○○健診クリック』の文字が…。
くそう!ピンク色が何だ!ひとっつも和まネェぞ!どうせ中には、僕の体に潜むあんなものやこんなものを採取するキットが入っているのであろうが!!
(バリバリバリー!)
ほうらな!
まんまと入っておったわ!ふははははは!見たまんまなヤツめ!!(エエ、殿、そのためのものです故…)
「………」
ひとしきり高笑った後、ふと我に帰り、封筒を元どおりにする哀しき受診者なのであった…。

今朝見た夢が、あまりに「生臭ェー心の叫びー♪」的な物語だったので語らねばなるまい。
僕の夢は、現実の感覚をほとんど感じとることが出来る。
全てオールカラーでお送りしている上に、匂いや味や手にしたものの感覚なども現実と大差はない。
ただひとつ。
痛覚だけが欠落しており、高いところから落ちようが、刃物で刺されようが、「あ、今足がポキンとイッたな」とか「ちーかーらーがーぬーけーてーいーくー」とか、何らかのダメージは受けるものの、痛さだけは感じずにすむ。自己防衛本能とでもいうべき、ありがたーいシステムである。
そんなこんなで夢だ。
僕はデパートと工場が混ざり合った不思議な場所に、年末売り出しに向けた、大そうじ・飾り付け・販売準備などの臨時バイトとしてやって来た…。(っていうかオレ、自分とこの勤め先の仕事どうしたんだろう…)
電車まで使ってやって来た。
僕の他にも本日限りの作業員たちはたくさんいて、皆勝手知ったる様子で作業服を身に着けている。
ただ一人、僕だけがどうすればいいのかわからない。
取りあえず、この薄緑の作業服を着よう。むきょむきょ。もの凄い薄手なのだが、一体何のために着るのだろう。
さて、次はクツだ。クツ…クツか?!果たしてこれをクツと呼ぶのか?!
目の前に現れし奇妙な物体…。ビーサンの底部分から、無数のテグス的透明糸がビヨンビヨン飛び出たこの物体。クツだろうかと思い悩むのも頷けるであろうて。
そこの現場責任者的なヤツがやって来て、「オマエ、クツの履き方もわからんのか!」と怒鳴る。
「うむ、わからん!」と漢らしく答えると、若い女の子が呼ばれて僕にテグスグツの履き方を教えてくれることとなる。
要はビーサン底に足を置き、飛び出したテグスを足の上部分に渡してから、反対側にぶっ刺し、同様にした他のテグスと結び合わせて固定する…という仕組みのようだ。
しかし…だからと言ってナンなんだ?!(爆)
女の子は必死に「このテグスはここと結ばねばならぬのです」と教えてくれるのだが、何十本も飛び出たテグスを見てすっかり面倒臭くなった僕は、適当に聞き流した挙句にテグス紐を適当に二〜三カ所とめたくらいで自主終了。
ペタンコペタンコ。
見ろ。それなりに歩けるものだ。
しかし、僕が靴を履き終えた頃には、周囲はすっかりハイペースで仕事を進めていた。
忙しくガラスケースを磨く清掃班!口紅などの製品を店頭に並べる販売班!床だの天井だのにモールをつける飾り付け班!
ウム!オレの踏み入る余地なし!ババーン!
何をしたらいいかわからない僕は、取りあえずさっきの偉そうな責任者を見つけて声を掛けてみる。
僕なにしましょかー。
「貴様はもう何もしなくていい!」
お…オコられた!
クハア!しかも貴様呼ばわりかコンニャロウ!
目ェつぶらなくせに!
色白マッチョで、アゴしゃくれてるくせに!(←関係ないが)
しかしこちとら雇われの身。勝手に帰れないので売り場をウロウロする。ウロウロウロウロ。(夢なんだから帰ればよかろうて)
化粧品売り場を散策中、何故か顔にメイクを施した上半身裸のマッチョたちがやって来て「仕事終わったから、誰かメイク落してくれー」と言う。(どういう仕事だったのだマッチョたちよ…?)
おお!そういうことなら、この暇を持て余す僕に最適!メイク落としシートでマッチョたちの顔をガシガシ拭いてやることとしよう。
む。
しかしながら、メイク落とし用品が見当たらぬ。
途方に暮れていると、そこにルンタルンタ言いながらモップをかけるうっちゃんがやって来た。
その灰色制服、君はここの社員であったか!しかしそのピンクのレッグウォーマーはいただけないぜ!
目に痛いピンクは取りあえず見なかったこととして、うっちゃんにメイク落としのことを尋ねてみる。
「メイク落とし?あー!そこ出てすぐの建物にいる人に聞けば出してくれるからー」
おお!ナイス!
うっちゃんに言われた場所に向かえば、そこには薄汚れた建物と木の看板。
そこには『電気○○製作所』の文字…。
どこから見ても工場だ。
中をのぞけば、ダルマストーブを囲むおいちゃんたちの姿。油であちこち汚れた作業着が、仕事内容を語っている。
こんなところにメイク落としがあるのだろうか…?
取りあえず声を掛けてみる。
「すいません。メイク落とし欲しいんすけどー」
「あー、それどこまで溶けるやつがいいのー?」
どこまで!?どこまでって何だ!?
「…肌までは溶けないくらいのやつください」
僕の発言を受け、何故か作業員一同ガハハと笑う。
「そんなんでいいのかー!じゃ、こんくらいだろー」と、一人の作業員が鍋を取り出す。フタを開ければ、異臭を放つ茶色い飴状のものがドロリ。
なんだこりゃ?
作業員はそれを器用に取り分けると、鍋ごと僕にくれた。
「手についたら危ないからー。よっく洗い流しなー」と、笑顔。
…困った。
こりゃメイク落としではない。明らかに何かの溶剤だ…!さもなきゃ産廃物だな!なんにせよ人体に有害だろう。
僕はメイクを溶かすものが欲しかったのであって、人体を溶かすものではない。
鍋を持っての帰り道、うっちゃんが相変わらずモップをルンタかけながら「ねー!あたでしょー」と言う。言いながらこっちの答えも聞かずに、ルンタタ何処かにモプり去ってしまった。
僕は鍋を持って途方に暮れた。
ドロドロのシンナー臭いべっ甲飴みたいな色のコイツを、さてどうしたものか…。
………。
ふと、思い立つ。
そうだ。
コイツをあのクソしゃくれた責任者にぶっかけてやったらどうなるだろうか。
少しはスッとするかも知れない。
僕は忙しそうに働く人々の中、鍋を持ってニヤリと笑う。
いや…こんな軽い溶剤じゃオモ白くない。工場には皮ふをも溶かすことが出来る溶剤もあるだろうし、あそこのオッチャンたちは屈託ない笑顔でそれを分けてくれるだろう。
急くことはない。
まずはこの溶剤で実験だ。
幸い僕の帰りを待っている者たちがいる。
僕は歩き出した。
いつしかその歩は、周囲の人々の速さに紛れて行った…。

そこで目が醒めた。
犯罪だ!犯罪者一歩手前だよオレ!業界風に言ったら「それ犯罪だよナナウミちゃーん」だ!(意味はないが)
鍋持ってニヤニヤ笑ってる場合じゃないぞ!
おお、生臭い心の叫びだ。
夢がどういう意味を持つかは分からないが、とにかく悪どいことは確かだ。
雨戸を開け、燦々と降り注ぐ朝日を浴びながら、「悪事だけはやめよう。悪事だけは…」と呟く僕の姿がそこにあったのだった…。

ところでこの夢にはうっちゃんがモップと共に登場する。ならばよちさんは一体何処にいたのか…?
本筋に関係しないので記していなかったが、よちさんはもの凄いスピードで様々な仕事をこなしていたのだ。
発注作業をしている姿を見たその直後、ふと振り返ると脚立に上がってモールを吊っている。
多分忍者だ。
分身の術で分裂して働いてるんだな、きっと。


(ここ数週間チータラに凝っており、毎日食べていましたが、本日とうとう定量が来たらしく、サーとチータラへの執着が去ってしまいました。後に残るは『チータラお徳用スペシャル』一袋…。地道に食いすすめるしかないのか…!クッ…!)