其之弐百麓拾鹿『電話電話電話』の巻



我が実家の電話機がニューになったようだ。
ハハが嬉しげに語っていたから間違ない。
今までは親父殿が勤めていた会社で御役御免となった電話機を貰ってきたものを使っていたのだが、長年の疲労からか、ついに「僕…人生から御役御免ー!」と旅立っていかれたので、ニュー電話機を購入する運びとなったようだ。
前電話では実家よりの着信はすべからく『非通知』で表示され、僕を含めた様々な人々を困惑に陥れていたものだったが、電話機を新しくするに辺りいよいよナンバーが表示されることとなるらしい。
これで僕のケータイも、着信履歴に『非通知』が並ぶ怪しいケータイから脱することが出来るわけだ。
僕が実家に電話をした日。
偶然にも電話機をニューに換えた日だったらしく、「おニューの電話機第一号ー!!」とハハより称号を授けられた。
「あのねーまだ何にも登録してないから誰からかかってきたか分からないのヨー」
それはいかん。
ハハよ、なるべく早く登録するがよかろう。
「そしてねーナンバーが出るようになるのは29日だから、まだしばらく非通知なのヨー」
なるほど。
では僕のケータイも、まだ非通知着信OK設定にしておかねばなるまいて。
そんな会話をして電話を切ってから一時間後…。
僕のケータイに「非通知」着信…これはまさか。
「お母さんですよぉー!ニュー電話機で初めて電話してみましたー!!」
やはりな!!(爆)
ハハよ。かけてきたということは、僕の番号は登録したのですかい?
「まだー!だから家計簿持って来てね、番号押してかけたのー!」
説明しよう。
我がハハは、親父殿と僕のケータイ番号を家計簿の一番後ろについているフリーメモ欄にメモっているのだ!
「でも凄いのよー。これ、かけた相手が出ると、画面がオレンジに光るのー!」
電話機のステキ機能にすっかりメロメロなハハ。
色々な機能ボタンや、見やすくデッカイディスプレイについてハハが語る間、僕はただニコニコと頷くより他ないのであった。…見えないけど。
こうして僕はニュー電話機の「かけた人」「かかってきた人」共に一号人となったわけだが、特に特典はない。
「新しい電話機見に来なさいよー」と誘われたくらいだ。
特典はないがしかし、ここまで来たら次は是非にナンバー表示実現後の一号を狙いたいと深く思う僕なのであった。

『家族とシャベル』…とは、auのCMであるが。
『家族とスコップ』と一度思ってしまったら、もう止まらない。
『家族と喋る』は意味が解るが、『家族とスコップ』は一体何だ…。
家族と酢コップ。
家族と酢の入ったコップを前に語り合う。
離れた家族と話す時、いつも酢コップを用意し、最後の「ばいばーい」と共に同時に一気に飲み干すのが、正しい家族の在り方か。
家族会議の際、発言にムッとしたら、スッと酢コップを鼻の下に置いてやれ。
酢の匂いでツンとさせてやれ。
酢臭さにやられて無駄な言い争い回避。円満。
…そういうことか?
そういうことなのかスコップ?
家族で酢コップ。

再び我がハハのことで恐縮であるが、ハハはケータイを持とうとはせぬ。
買い物に行った際に、親父殿(ケータイ保持者)とはぐれても取り乱さぬが、ハハとはぐれたら自らの足で捜索せねばならぬ。
ハハよ。ハハはいずこ。
「ケータイなんかわかんないし、使わないからいらなーい」と口癖のように言うハハも、たった一度「こんな時にケータイがあれば…!」と思ったことがあったそうだ。
それは田舎で行われた葬式でのこと。
そこは我が実家からでも車で40分ほどかかる場所で、本当に何もないまさに『日本のザ☆田舎』である。
ハハの遠い親戚の葬儀だったため、親父殿は参列せず、送り迎えのみを行うことに。
「じゃあ終わったら電話するからー」とハハ。
無論ハハの場合、「電話する」は公衆電話を指す。
お坊さんのうんにゃうんにゃを聞き、仕出し弁当を振る舞われ、ではそろそろ親父車を召喚しようかと思ったところ…。
「電話がない…」
弁当を喰った建物に公衆電話がないというのだ。
ハハは表に飛び出した。
とにもかくにも公演電話を探さねばならぬ。
はわはわはわはわ。
見渡す限り電話はない。
行けども行けども電話はない。
季節は夏。
汗をだくだく流しながら、ハハは電話を求めてひたすら歩き続けた。
喪服は日光をよく吸うだろうて。
相当歩いた頃にポツリとあった公衆電話で、ハハはようやく親父殿を召喚に成功し…、待ち合わせ場所である会館前に、同じ距離をヘテヘテ歩いて戻って行ったのだと言う…。
後にハハは心底ゲンナリした口調で「どうしてあそこはあんなにも公衆電話がないのかしらー」と語った。
それが果たしてケータイが普及したことによるものなのか、元からそこにしか公衆電話がなかったのかは…僕には判らない。


(春になったので、芹の上着を着て歩いています)