其之弐百鉢拾七『七海家家族伝〜母〜』の巻 |
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ある夜、ハハより一本の電話。 「お母さんは蓮を見に行って来ました」 …そうですか。 「おっきい沼にね、蓮が沢山咲いててね、そこを小さい船に乗って見て回るんだけどね…」 おお、それは風情があってよいですな。 「お母さんたちと、若い男の子三人連れと、あと別な夫婦がいて…大体十人くらい乗れる船をね、船頭さんがこう操って、蓮の花の間の細ーいところを抜けて行くの」 ふむふむ。 「お母さんね…いつ船がひっくり返るかと思うと気が気じゃなくってね!!」 ババーン!! そこか!? 蓮はどうしたよハハ!? 「蓮はキレイだったわよ!だけどほら、お母さん泳げないじゃない!?お父さんはいいのよ、泳げるから。もうこの船がひっくり返ったらどうしようかと思ってね!!」 そう。 我がハハは天然のカナヅチさん。 生まれてこの方、海や川で泳ぎたいなどと思ったこともないお方だ。 「船がこう少し傾いたりするとね、お母さん念じるのよ!傾きなおれーって、船頭さんに念波を送るの。そうするとなおるのよね」 念波…!! 念波を発していたのかハハよ…!! 「『ああー蓮きれいねー』とか言いながらも、心の中では念波を送っていたの」 そんな思いまでして、何故小船に乗ったのだ!? 「だってお父さんが船の切符買っちゃったんだもん!」 と、父さん…。 「『おお、なんか船きてるぞー』って言って、ぷあ〜って行って勝手に買っちゃったんだもん!!一枚七百円のやつ!」 我が親父殿は、観光地に出向いては船に乗ったり、山の中で民家風の家でやってる蕎麦屋に入ったり、新しく出来た道に車で突入して迷子になったり、フラッと温泉に入ったり、道の駅で野菜やら漬物やらを大量購入してハハに怒られたり…と、我が家イチのイベント大好き人である。 蓮池の上にぷかぷか浮かぶ小船を見た父を、一体誰が止められようか…!! 水辺の恐怖の中、それでも蓮の美しさに満足したようだったハハは、最後にこう締めくくった。 「でも、あの男の子たち三人…若い子が蓮なんか見てあるいて、何が楽しかったのかしら?」 ハハよ…彼らのことは、放っておいてあげるが親切であろうて…。(蓮同好会か小船同好会、船頭萌え会説あたりが有効と思われる) 時は過ぎて、お盆準備中のハハ。 じいさまばあさまを迎えるべく、仏壇の掃除を念入りに行ったそうだ。 「全部きれいに水拭きしてね、もう隅から隅までぜーんぶきれいにして、お花供えて、お菓子供えて、もっのすごく疲れたから…」 疲れたから? 「お寿司をとってやったわ!!」 ドドーン!! 「…夕飯をね…つくるのが…めんどくなっちゃったのよね…」 おお、ハハよ。 「やるからには隅々まで完璧にきれいにしたい」というよくあるA型気質と、「なんだかもうここまで頑張ったんだから、寿司くらいパッとさせろやコラ!」という一生懸命やらねばならぬことに疲れて、物事のボーダーラインを判断する機能が停止したストレス持ちA型気質を見事に表しているではないか。 その日は奇しくもその娘が、「盆休み人の仕事かぶってこれでもかっちゅうほどに忙しくてゲンナリしてるんだけど、そこのテメェは何してんだアァ」という気持ちを原動力に、給料日前に最高潮にうまい冷製パスタをむしゃー喰った日であった…。 今日はいっそ、ハハコによる寿司パスタ記念日として毎年祝うこととしようではないか。 ある日の実家は、僕のタオルケットについて案じる。 たまたま安い時に実家で購入したお客様用ガーゼタオルケット。 「いる!?タオルケット!?今何かけて寝てるの?」 …た、タオルケットとお布団。 「タオルケットあるのね。でもね…このタオルケットはひと味違うのよ…」 何が? 「…ガーゼなのよ…!!」 ドーン!! 「ガーゼは涼しいのよ!とっても涼しいのよ!明美、ガーゼの持ってないでしょ!?いる…?」 ハハよ、ガーゼタオルケット業者から何か貰っているのか…。 しかしお客様用を僕がいただくわけにはいきますまい。 「いいのよいいのよ。一枚?二枚?」 に…二枚!?何故二枚!? 「一枚洗濯して乾かしている間の分!」 こうして、僕の夏の掛けものはフルでガーゼタオルケットとなることに決定したのだった。 ハハは最後にニヤリ笑ってこう言った。 「お母さんたちの分も実は買って来たんだ。今日からガーゼタオルケットで寝ます!」 ハハよ!! あんだけ語っといて、あなた様もガーゼタオルケット初心者であったか…!!(爆) (三津田信三の『ホラー作家が棲む家』が、改題の上ひっそり文庫化されておりました!!こりゃ素晴らしい!表紙絵も風情があって良いので早速購入し、よちさんにムリヤリ貸しました…ニヤリ) |