其之弐百鉢拾句『個人的断髪式』の巻



美容院に行くと…決めたからには行かねばなるまい。
しののね時期から、にょろにょろ伸ばしたこの後ろ髪。
ついにハサミを入れる時が来たのだ。
それというのも、今回は僕が演出の会…台本はまだ完成していないものの、実はひっそりキャラクターイメージが決まっている。
よちさんには髪をふわっさー伸ばしておいてくだされと、密かにお願い中。
対して僕は短いイメージで確定したので、台本配布より一足お先に断髪することとする。
折しもその日は、多くの会社員がほくほくする25日。
たくさんのレデーたちでさぞや賑わっているかと思い、(いやしかし、決めたからには待ってでも必ずや今日切る!)と決意して扉を開けると…。
「いらっしゃいませー」
………。
しまったァ!!
予想に反して、誰もいない!!
ラッキーだと思いつつも、美容師さんたちにキラキラした笑顔を見ると、とっさに帰りたくなる僕A型。
しかし引き下がるわけにはいかぬ。
勇気だ。勇気を振り絞れ!
「かかかカットをハンドシャンプーでお願いします」
「畏まりました。おかけになってお待ちください」
ハッ!(座る)
「お荷物お預かりします」
ハッ!(渡す…雑誌を手に取ろうとするやいなや…)
「じゃあこちらどうぞー」
呼ばれた!は、早い。
「良かったら、こちら着てください」
タルーンとした薄いブラウンの寝間着的上着に手を通す。
気分はビジネスホテルに泊まりに来た人だ。
「本日はどうしますか?」
「バッツリショートにしてください」
「…切りますか…」
「ええ。そろそろ短くしようと思いまして」
実は二か月前に美容院に来た時に、同じ美容師さんとこんな会話をしていた僕。
「だいぶ伸びましたね。このまま伸ばすんですか?」
「いやー…なんとなく伸ばしてるだけなんで、そのうちバツンと切るやも知れません」
あの時の伏線が今ここに!ババーン!
時間に余裕があるせいか、たっぷり時間をかけてシャンプーしてもらった上に、混んでいる時には吹っ飛ばされるトリートメント染み込ませの儀式が…。
温かいタオルを首下に入れてもらい、「しばらく時間置きますねー」とシャンプー師退場。
ほくほくしながらふと気付く。
(僕の足、片方ガニっと開いてないか…?)
ジーンズであるから特にパンツは丸見えしないものの、片足だけガニっと外に開いたままトリートメントを髪に染み込ませている客は如何なものか。
直すべきか直さざるべきか…本来ならば心地よい時間に余計な悩みだ。
考えた挙げ句に、フリーなスタイルで寛ぎ感をアピールする方向で決定。
片足ガニっとしたまま、その後の洗い流しまで受ける。
そしていよいよ断髪だ。
引退力士の心意気で椅子に腰掛け、「じゃあ切って行きますねー」という呼び掛けに「お願いします!」と一言返し、目の前に置かれた週刊誌をムンズと掴んでひたすら読む!読む!読む!
巻頭カラーで男の子ショットや芸能人ファッションを眺めた後には、ゴシップに始まり、社会派記事あり、医療問題絡みのちょっといい話からの、連載漫画…。
何故か必ず載っている皇室情報などを目にし、ちょっとだけ詳しくなる。
我がハハは眼鏡がないと細かい文字が読めないという理由から、切られている間は何もせずにぼうっと座っているそうだが、客としてどのスタイルが美容師さんはやり易いのだろうか。
客としての好みを言わせていただくなら、僕は一心不乱に雑誌を読み、気付いた時にはのっぴきならないところまで切り進められている…という状態が大変好みだ。
前髪の長さなんかを振られて、パッと顔を上げた時に(おおお!いつの間にやらこんなんなってた!!)とビックリ箱を開けた時のような気にさせられるのが良い。
今回も雑誌から目をあげた時には、サラッサラの坊ちゃんカットになっており、ニヤリとほくそ笑む。
足元にはおびただしい量の髪の毛が…!
箒でわさわさとかき集められ、何処かへ持ち去られていく様はちょっとしたホラーだ。
美容師さんの余裕あるスケジュールの中、たっぶりのマッサージと仕上げを受け、僕はほくほくと美容院を後にした。
驚くべきはその後、寝る時もギシギシと鳴る、我が愛用のバンテリンとサロンパス八の字貼りでも治らなかった首筋の痛みが、潮が引くようにジワジワと薄らぎつつあるということだ…!
我が首が弱いのか。
我が髪が重すぎるのか。
学生の頃は、人も殺せそうな太髪を腰まで垂らしていたあの頃の強靱な首肉は何処へ消え去ったのか…!
今となっては謎だ。


(翌日会社で「伸ばしてたんじゃなかったのかー!!」と沢山の方にツッコまれました。夜光堂員が髪型が変わる時…もしくはまったく変えない時…それは全て次回演じる役のため…。ニヤリ)