其之弐百旧拾六『七海家こんにゃく食い』の巻



温泉へ向かう途中、こんにゃく懐石を喰う。
湯葉懐石…豆腐懐石…と、過去一食材モノ懐石にギャフンといわされ続けて来た僕(まずかったのではなく、同じ食材を食べ続けるのが苦手)であるが、果たしてこんにゃくとはうまくやっていけるであろうか。

●焼き鳥風
ネギマ焼き鳥風こんにゃく登場。
ネギは本物、肉部分がこんにゃくで、焼き鳥のタレを絡ませてある。
食べてみる。
つい昨日本物の焼き鳥を食べた身としては、どうしても固めのこんにゃくとしか思えぬ。
いや…それはこんにゃくに対して失礼であろう。
こんにゃくは必死に肉に化けようと、なりきろうと頑張っているのだ。
その気持ちを受けて立つべく、目を閉じてその歯応えに集中する。
疑ってはいけない、そうだ…今僕は焼き鳥を食べているんだ…焼き鳥を…焼き鳥を…あのジューシーな焼き鳥を…ジューシーといえば肉からじゅわっと溢れる肉汁…歯応えは確かに焼き鳥だが噛んだ時の肉汁がないな…仕方あるまい、こんにゃくだもの…こんにゃくだものな!!(爆)
鶏肉に似せたその歯応えたるや天晴れなるも、肉汁までを求めるのは酷であったか…。

●黒豆風
気をつけろ。
この器の中には本当の黒豆と、黒豆に擬態したこんにゃくが入っているぞ。
一口目、黒豆(本物)。
二口目、黒豆擬態こんにゃく。
見た目はかなり似ているが、歯応えは思いっきりこんにゃくであるため、擬態こんにゃくを口にした者は皆奇妙な顔になる。
一言で言えば「だ…騙されたァー!!」顔であろうか。
決して不味いわけでない(味は黒豆の味つけそのもの)のに、誰もが顔を「くちゃっ!」と歪める…奇妙な食べ物であった。

●帆立てフライ風
割ってみればホクリと湯気立つ帆立てフライ風。
貝柱を模したこんにゃくは、見た目本当に帆立ての断面である…見事!
食べてみれば、揚げたこんにゃくに違いなかった。
「こ…コロモがうまい!」
中味よりもただのコロモに涙する失礼な僕。
そして思った。
「ああ…本物の帆立てフライが食べたい…!」
器用に様々な食材や料理を真似て天晴れなこんにゃく料理は、本物の食材や料理を食べたくなる気持ちを激しく駆り立てる…。
これは果たしてこんにゃく料理にとってプラスなのかマイナスなのか。
せっかくだから、本物料理と一緒に出してみたらどうであろうか…と余計なプロデュース魂を燃やす僕なのであった。

サーモン風こんにゃくマリネや、さしみこんにゃく、らふらんすと合わせたデザートこんにゃく等々…他様々なこんにゃく料理ですっかり腹が膨れた我々。
「げふぅ。もうこんにゃくはほにゃららら」などと言いながらお会計を済ませば、はいどうぞと券を渡される。
次回サービス券か?などと見てみれば、
『玉こんにゃく引き換え券』。
玉こんにゃく…ドドーン!
サービスもこんにゃくとは…その姿勢天晴れ。
もうここまできたらこの七海、何処までもこんにゃく道にお付き合いさせていただこう。
グツグツといい匂いのする玉こんにゃく鍋場に寄り、「オヤジよ、こんにゃくを引き換えさせてくれぃ!」と券をずいっと出せば、「ハイ、ありがとううぅううう!」とビニール袋に玉こんをバーン!
三人分の玉こんが詰まったビニール袋を持って、ゆらーりゆらーりと歩く。
親父殿と母御に「玉こんにゃくをもらいましたぜぃ」と寄れば、親父殿は「喰えん!(腹いっぱいで)」と断固拒否。
仕方ないのでハハと僕で玉こんを食らう。
辛子をたっぷり塗り、ガブリかぶりつけば味がしっかり染みたこんにゃくが口の中でぷるりと踊る。
ハハがしみじみ言った。
「お母さん、これが一番美味しいわ」
ハハ、店内爆弾発言。
しかし僕も同様に、オーソドックスな玉こんにゃくが一番落ち着くと思うのである。
何を隠そうこの僕は、サービスエリアや道の駅で、常に玉こんをチェックしている程の玉こん好きである。
安いものは百円から、せいぜい三百円ほどで食べられる手軽さと確実なうまさが惹かれる理由だ。
両親が果物や漬物などに目を奪われている隙にするりと抜け出し、二人がハッと気付く頃には既に玉こんにゃくをしっかと握り、のっぴきならないところまで食べ進んでいる。
さらには「玉こん買ってあげようか?ふふふ」と、両親相手に玉こん貴族っぷりを発揮したりもするほどだ。
時に辛子をつけすぎて、串を手にしたまま涙目で天を仰ぐ事もある。
それでも食う玉こんにゃく。
結果、七海家としては、
「こんにゃくは定番玉こんにゃくが一番うまい」
に決定となった。
変わったこんにゃく料理が出て来る度に「ほほぅ」「これはこれは」などと言っていたのは一体何だったのだ、七海家よ…。
とはいえ珍しきこんにゃく料理たち…ヘルシーに満腹になりたい方は、是非一度訪れたし!である。

(次回は温泉地訪問篇であります)