其之弐百旧拾八『人間ドック三年目』の巻



人間ドックである。
今年の二月に受けた人間ドック、来年二月公演直前にゲッソリしながら受けるに違いないとふんでいたのだが、会社の都合うんちゃらで一年待たずにこの日がやって来た。
ドックも三回目ともなるとだいぶ心構えが適当になってくるもので、前日に「食べたいから」という理由だけでキーマカレーをお赤飯にかけて食べてしまうのである。
デザートにチータラまで食ってしまうのである。
初めての時に、ハハに消化のいいものとはなんぞやと尋ね、殊勝にもうどんをよく噛んでポソポソと食べていたヲトメな気持ちが懐かしい。
リラックスしすぎて、ついうっかり、朝飯をガッツリ食べてしまわぬように気をつけねばなるまい。

そんなこんなで今年もやって来た。
受付を済ませ、手早く着替えて出陣である。
今年から検査項目が変わったとかで、レントゲン室で骨密度も測定。
昔から骨太である僕。
一説にはハハが妊娠中に、大量の煮干しを食ったためではないかと専らの噂だ。
「はい。じゃあここに左手をのせて、動かさないようにしてくださいねー」
という優しきレントゲン技師に、思わず
「見ろやこの骨ー!カッチカチやぞ!カッチカチやぞ!ゾックゾクするやろ!?」
と言いたくなるのを我慢。
骨太ですまぬ。

さらに新たな検査項目として、看護士さんによるメジャーウエスト測定が追加。
ヘソ周りを緩めに計られる。
看護士さん…オレのことは構わねぇ…だからもっとギュッと…肉周りギュッとギュギュッと計ってくれ…!!との願いも虚しく測定終了。
医療業界はシビアである。
我がハハ以外に自分のお腹周りに手を回す者が現れようとは…幼き頃にゴムズボンを履かせてもらった時の事を思い出す。
ウエスト測定は何処かノスタルジックだ。

待ち合いエリアには、実に様々な方法で暇を潰す人々の姿がある。
オヤジな年齢の方々は、クリニック備え付けの新聞を熟読。
カバン持ち込みのオネェさんはDSでゲーム。
そしてさらなる強者は、待合室編み物敢行である。
来年は僕も刺繍にでも挑戦してみるべきか。
カレーでも煮込んでみるべきか。
風景画でも描いてみるか。
健診服ポッケに、ハンドタオルとコンタクトケースだけを忍ばせただけの僕は、空きっ腹を抱えながら、ご家庭でも出来る美味しい生イカ干しの作り方が流れるテレビを、ぼんやりと眺めて時を待つのであった…。
嗚呼、腹減った。

問診はテンポが早い。
僕が塗りつぶした問診表を裏に表にひっくり返しながら、矢継早の質問が降ってくる。
「現在服用の薬はなし。で、サプリメントも飲んでませんね!?」
僕、口パクパク。
話すより先に問診表に目を走らせた看護士さん、塗りつぶしを発見。
「あ、飲んでますね!何飲んでます!?」
「お…お酢のカプセルを…」
「お酢ね!」
ガリガリガリ!
カルテにお酢の文字が加えられる。
しまった、何か地味だ。
クロレラも飲んでいるがそれもどうだ。
女らしくマルチビタミンとか言っておくべきだったか。いやしかし、虚偽はいかん。
「じゃあ血圧計ります!」
シュコシュコシュコプスー。
「…低いわね…」
看護士さん、声のトーンが下がる。
サプリメント服用し低血圧である僕に、何故か少々テンション低気味な看護士さんであった。

今年のバリウムは大変やりやすい技師の方に当たった。
指名制度があるものならば、料金上乗せしていいからご指名させていただきたいものである。
「はい、右側に二回回ってくださーい」
ぐるんぐるん。
「仰向けになりまーす」
ゴロン。
「ちょっと斜めになりましょうか。はいもちょっともちょっともちょっともちょっと…はい、そこで止まってくださいー」
ピタッ。
様々なミッションをどうにかこなし、次はうつぶせで撮影だ。
「じゃあちょっとお尻をあげる感じで…」
フンッ!!
フンフンッ!!
僕かなり必死だが…あまり上がっているような気がしない。
見兼ねた技師さんが一言。
「…膝は曲げていいんですよ…」
何ッ!?
腹筋と背筋(腰筋)を最大限に使用しながらケツ上げを繰り出していた僕は、台の上で地味に筋力を使ってジタバタしていたただの阿呆か…!
よし心得たと膝を曲げてスタンバイすれば、頭方向に予想外の傾き。
緊張して汗ばんだ手が、バーをジリジリと滑り出す。
フンヌー!
頼むから誰かイボ付き軍手の使用を許可してくれ。
筋力がまるでない我がハハは、人生第一回目のバリウムにすっかり懲りて、それ以降断固胃カメラ派であるとのこと。
僕は特にバリウムでも苦はないが…いつかバリウム業界が物凄い進歩を遂げて、濃厚ソフトクリームくらいうまいバリウムを開発してくれたらと望む。
そしたら喜んでゴクゴク飲むのだが…。


(我が家近くのスーパーに行ったら、カレーまん二個入りが28円で売られておりました…。何故人は安過ぎても不安に陥るのでありましょう…。買ったけど…)